目の前に立ちはだかる、佐伯先輩の心に巣食う《|マインドワーム《・・・・・》》。
赤黒いケーブルと壊れたゴールネットが絡み合った、
「うっしゃあ! いっちょやったるぜ、悠人!」
「ああ! 油断するなよ、大輝!」
僕たちは同時に駆け出し、左右からマインドワームへと襲いかかった!
マインドワームは、まるでサッカーボールを蹴り出すかのように歪んだエネルギー弾を高速で連射してきた。それだけじゃない。フィールド全体に重圧がかかるような、精神的なプレッシャー攻撃まで仕掛けてくる!
《勝て……勝たなければ意味がない……》
《負ければ……エースじゃなくなれば……俺には何も残らない……!》
佐伯先輩自身の、悲痛なまでの強迫観念が、直接僕たちの心に響いてくる。くっ……これ、かなりキツい……!
「うぜぇんだよ、その声!」
大輝のアバターが、プレッシャーをものともせずに突撃し、炎の拳を叩き込む! しかし、マインドワームは硬いケーブルの触手で
「ぐわっ!?」
「大輝!」
僕はすかさずアバターの光線銃で援護射撃を行い、マインドワームの注意をこちらへ引きつける。その隙に、大輝は体勢を立て直す。
「助かる、悠人!」
「こいつ、硬いだけじゃなくて、動きも読みにくい……!」
僕のアバターの分析能力でも、なかなか弱点が見つけられない。佐伯先輩自身のサッカー選手としての経験が、戦闘パターンに反映されているんだろうか。
《ねえ、二人とも! あいつ、攻撃の瞬間、一瞬だけコアが剥き出しになってない?》
ノアからのアドバイスだ。確かに、言われてみれば……エネルギー弾を撃ち出す瞬間や、触手を振り回した後、ほんの一瞬だけ、中心の赤黒い部分が無防備になっている気がする。
「あそこか!」
「でも、どうやって……?」
隙は一瞬だ。しかも強力な攻撃の直後。そこに飛び込むのは、あまりにも危険すぎる。
その時だった。マインドワームの動きが、ほんの僅かに、本当に僅かにだけど、鈍ったように見えた。そして、また佐伯先輩の声が聞こえた。今度は、苦しげな、助けを求めるような声で。
《もう……やめてくれ……苦しい……》
「先輩!」
大輝が叫んだ。それは、マインドワームに対してじゃない。その奥にいる、佐伯先輩自身の心に向かって。
「しっかりしろよ、先輩! こんなワケわかんねーモンに、負けてんじゃねぇよ!」
その声が届いたのか、マインドワームの動きが、さらに一瞬、大きく乱れた!
(今だ!)
僕と大輝は、アイコンタクトだけで意志を通わせた。やることは、一つ。
「僕が隙を作る! 大輝は、全力でコアを叩け!」
「おう、任せろ!」
アバターの全エネルギーを防御に集中させ、光の壁を展開しながらマインドワームへと突っ込んだ。無数の触手が、エネルギー弾が、僕のアバターに叩きつけられる。衝撃で視界が明滅し、意識が飛びそうになる。でも、ここで退くわけにはいかない!
「今だ、大輝ぃぃぃっ!!」
ほんの一瞬の隙。それを見逃さず、大輝のアバターが、炎と光を極限まで高めた拳を振りかぶっていた。その姿は、まるで小さな太陽のようだ。
「これが……俺たちの……
「ギ……ヂ……アアアアァァァァーーーーッ!!」
マインドワームが、断末魔の絶叫を上げた。
赤黒い身体に浄化の光が走り内部から崩壊していく。歪んだゴールネットは
そして、マインドワームは完全に消滅し、後に残ったのは……
《……ありがとう……》
どこからか、佐伯先輩の、安らかな呟きが聞こえた気がした。
「……やった……」
「……やったぜ、悠人!」
僕たちは、アバターを解除し、へなへなとその場に座り込んだ。二人とも、もうヘトヘトだ。だけど、顔には満面の笑みが浮かんでいた。僕たちは、顔を見合わせ、どちらからともなく拳を突き出す。コツン、と軽い音が響いた。
《お疲れさま、二人とも! いやー、見てて熱くなったよ! 初めての共同作業、大成功だね!》
ノアの祝福の声が、心地よく響く。
一人じゃ、きっと無理だった。大輝がいてくれたから、勝てたんだ。仲間がいるって、こんなにも心強いものなんだな……。
僕の意識は、心地よい疲労感と達成感に包まれながら、ゆっくりと現実世界へと引き戻されていった。