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第16話 二人《ダブル》で灯す希望《ビクトリー》の炎《フレイム》

 目の前に立ちはだかる、佐伯先輩の心に巣食う《|マインドワーム《・・・・・》》。

 赤黒いケーブルと壊れたゴールネットが絡み合った、禍々まがまがしい姿。その中心で、無数の赤い目がぎろりと僕たちを睨みつけている。


「うっしゃあ! いっちょやったるぜ、悠人!」

「ああ! 油断するなよ、大輝!」


 僕たちは同時に駆け出し、左右からマインドワームへと襲いかかった!


 マインドワームは、まるでサッカーボールを蹴り出すかのように歪んだエネルギー弾を高速で連射してきた。それだけじゃない。フィールド全体に重圧がかかるような、精神的なプレッシャー攻撃まで仕掛けてくる!


《勝て……勝たなければ意味がない……》

《負ければ……エースじゃなくなれば……俺には何も残らない……!》


 佐伯先輩自身の、悲痛なまでの強迫観念が、直接僕たちの心に響いてくる。くっ……これ、かなりキツい……!


「うぜぇんだよ、その声!」


 大輝のアバターが、プレッシャーをものともせずに突撃し、炎の拳を叩き込む! しかし、マインドワームは硬いケーブルの触手でたくみにガードし、逆に大輝を弾き飛ばした。


「ぐわっ!?」

「大輝!」


 僕はすかさずアバターの光線銃で援護射撃を行い、マインドワームの注意をこちらへ引きつける。その隙に、大輝は体勢を立て直す。


「助かる、悠人!」

「こいつ、硬いだけじゃなくて、動きも読みにくい……!」


 僕のアバターの分析能力でも、なかなか弱点が見つけられない。佐伯先輩自身のサッカー選手としての経験が、戦闘パターンに反映されているんだろうか。


 《ねえ、二人とも! あいつ、攻撃の瞬間、一瞬だけコアが剥き出しになってない?》


 ノアからのアドバイスだ。確かに、言われてみれば……エネルギー弾を撃ち出す瞬間や、触手を振り回した後、ほんの一瞬だけ、中心の赤黒い部分が無防備になっている気がする。


「あそこか!」

「でも、どうやって……?」


 隙は一瞬だ。しかも強力な攻撃の直後。そこに飛び込むのは、あまりにも危険すぎる。


 その時だった。マインドワームの動きが、ほんの僅かに、本当に僅かにだけど、鈍ったように見えた。そして、また佐伯先輩の声が聞こえた。今度は、苦しげな、助けを求めるような声で。


《もう……やめてくれ……苦しい……》


「先輩!」


 大輝が叫んだ。それは、マインドワームに対してじゃない。その奥にいる、佐伯先輩自身の心に向かって。


「しっかりしろよ、先輩! こんなワケわかんねーモンに、負けてんじゃねぇよ!」

 その声が届いたのか、マインドワームの動きが、さらに一瞬、大きく乱れた!


(今だ!)


 僕と大輝は、アイコンタクトだけで意志を通わせた。やることは、一つ。


「僕が隙を作る! 大輝は、全力でコアを叩け!」

「おう、任せろ!」


 アバターの全エネルギーを防御に集中させ、光の壁を展開しながらマインドワームへと突っ込んだ。無数の触手が、エネルギー弾が、僕のアバターに叩きつけられる。衝撃で視界が明滅し、意識が飛びそうになる。でも、ここで退くわけにはいかない!


「今だ、大輝ぃぃぃっ!!」


 ほんの一瞬の隙。それを見逃さず、大輝のアバターが、炎と光を極限まで高めた拳を振りかぶっていた。その姿は、まるで小さな太陽のようだ。


「これが……俺たちの……ダチの力だぁぁぁっ!!」


 渾身こんしんの一撃が、マインドワームの剥き出しになったコアへと、吸い込まれるように叩き込まれた!


「ギ……ヂ……アアアアァァァァーーーーッ!!」


 マインドワームが、断末魔の絶叫を上げた。

 赤黒い身体に浄化の光が走り内部から崩壊していく。歪んだゴールネットはほどけ、おぞましいケーブルは千切れ飛び、最後に残った赤い目が、まるで後悔をにじませるかのように、静かに光を失っていった。


 そして、マインドワームは完全に消滅し、後に残ったのは……清々すがすがしいくらいに晴れ渡った青空と緑の芝生が広がる美しいサッカーグラウンドの風景だった。荒廃していた世界が、元の……いや、それ以上に穏やかな姿を取り戻したのだ。


《……ありがとう……》


 どこからか、佐伯先輩の、安らかな呟きが聞こえた気がした。


「……やった……」

「……やったぜ、悠人!」


 僕たちは、アバターを解除し、へなへなとその場に座り込んだ。二人とも、もうヘトヘトだ。だけど、顔には満面の笑みが浮かんでいた。僕たちは、顔を見合わせ、どちらからともなく拳を突き出す。コツン、と軽い音が響いた。


《お疲れさま、二人とも! いやー、見てて熱くなったよ! 初めての共同作業、大成功だね!》


 ノアの祝福の声が、心地よく響く。

 一人じゃ、きっと無理だった。大輝がいてくれたから、勝てたんだ。仲間がいるって、こんなにも心強いものなんだな……。


 僕の意識は、心地よい疲労感と達成感に包まれながら、ゆっくりと現実世界へと引き戻されていった。


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