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第18話 巫女の予感《サイン》、動き出す影《シャドウ》

 桐生 大輝という、頼もしい(そして、ちょっと騒がしい)最初の「相棒」ができてから、僕らの日常は少しだけ変わった。

 といっても、表向きは普通の高校生だ。授業を受け、休み時間にはくだらない話をして、時々、近づいてきた中間テストの心配をする。

 でも、水面下では、僕らだけの秘密の活動――チーム「アーク」としての準備が、着々と進んでいた。


 放課後、僕らはよく河川敷の、あまり人が来ない場所に集まって、今後の活動について話し合った。いわゆる、秘密基地ってやつだ。まあ、ただの土手だけど。


「まずは、情報収集だよな! 俺の動画配信ネットワーク(自称)と、悠人の……その、ノア? の力を使えば、鷲久市ここで起きてるヤバい噂、全部キャッチできるんじゃね?」

「まあ、ノアがどこまで協力してくれるか分からないけど……」


 僕が言うと、頭の中に 《えー、ボクを誰だと思ってるの? この街のネットワークなんて、お庭みたいなもんだよ!》と、自信満々な声が響く。……本当に頼りにしていいのか、若干不安だけど。

 僕らは役割分担を決めた。大輝が表立って街の噂や情報を集め、僕がノアのサポートを受けながらネット上の情報や候補者のデジタルな痕跡あしあとを探る。そして、集めた情報を持ち寄って、次のターゲットを絞り込む。そんな流れだ。


 時々は、人のいない場所でこっそりアバターを起動させて、連携の練習なんかもしてみた。僕のアバターと大輝のアバターはタイプが違うから、どう動けばお互いを活かせるか、試行錯誤するのは結構面白い。まあ、精神力の消耗が激しいから、長時間はできないんだけど。


 そんな日々の中で、僕がもう一つ意識していたのは、他の仲間候補……特に、水瀬 一葉さんとの関係だった。彼女は、何かを知っている。そんな気がしてならなかったから。


 ある日の放課後、僕は思い切って彼女の家……杜宮神社へと足を運んだ。


「あ、あの……何か、手伝えること、ないかなって」


 境内けいだいの掃除をしていた彼女にそう声をかけると、一葉さんは少し驚いたように目を丸くして、それから小さくうなずいた。


「……じゃあ、そこの落ち葉、お願いできる?」


 それからしばらく、僕らは黙々と境内けいだいの掃除をした。彼女はあまりしゃべらないけど、一緒に作業をしていると、不思議と気まずさは感じなかった。むしろ、その静かな時間が心地よいくらいだ。


 休憩中、僕は勇気を出して切り出してみた。


「水瀬さん……この街で起きている、おかしな事件のこと、何か知ってる?」


 彼女は、れてくれた温かいお茶を静かにすすり、少しだけ遠い目をした。


「……昔から、この土地にはが流れ着きやすいって、祖母おばあちゃんが言ってた」

「よくないもの……?」

「人の心の弱いところにいて、悪さをする……目には見えない、かげのようなもの。最近、その気配が、妙に強くなっている気がするの」


 彼女の声は静かだったけど確信めいた響きがあった。やっぱり、彼女は何かを感じ取っているんだ。そして、僕がしていること……アバターや精神ネットワークのことも、もしかしたら……。


「来栖君……あなたも、何か……『視える』の?」


 真っ直ぐな瞳で、僕を見つめてくる一葉さん。僕は、どう答えるべきか迷った。でも、彼女になら、話してもいいのかもしれない……そんな気がした。


 一方、氷川 玲奈さんとの関係も、ほんの少しだけ変化があった。教室で目が合うと、以前のようにすぐにらされるのではなく、一瞬だけ、何か言いたげな表情をすることが増えた。

 まあ、結局何も言わずに顔を赤くしてうつむいちゃうんだけど。この前、勇気を出して「最近、調子どう?」って聞いたら、「……別に。普通」って、そっけない返事だったけど、ほんの少しだけ口角が上がっていた……気がする。


 うん、たぶん気のせいじゃないはずだ。彼女のココロの雪解けは、まだ始まったばかりなんだろう。


 そんな日常の中で、僕と大輝が集めた情報の中に、特に気になるものが二つあった。

 例の運動部の件は、佐伯先輩が改心したことで一旦落ち着いたみたいだけど、今度は、街外れにある古い廃工場に、夜な夜な若者が集まって不気味な儀式のようなことをしている、という噂が、妙に具体的になってきたのだ。

 SNSには、そこで撮られたと思わしき、不気味な模様や、焦点の合わない目をした若者たちの写真までアップされ始めていた。


「なあ、悠人。この廃工場ってさ……」


 大輝が、スマホの地図アプリを見ながら言った。


「水瀬の神社の、すぐ裏手あたりじゃね?」

「え……本当マジで?」


 地図を確認すると、確かにそうだ。そして、ノアに追加情報を調べてもらうと、さらに気になることが分かった。

 その廃工場は、昔、この土地のを封じるための施設があった場所らしいのだ。


《うーん、これはキナ臭いね。マインドワームが、そういう場所を利用してる可能性、大アリかも》


 ノアの言葉に、僕と大輝は顔を見合わせた。


「よし、決まりだな!」大輝が拳を握る。「次のターゲットは、その廃工場だ!」

「ああ。でも、慎重に行こう。何があるか分からない」


 僕らは、まずはその廃工場の周辺を調査することにした。そして、水瀬さんにも、何か知らないか聞いてみよう……そう話していると。


《……ねえ、悠人》


 ノアの声のトーンが、急に変わった。


《なんか……すごく嫌な感じの『ノイズ』が近づいてきてる……気をつけて》


 え……? 僕が辺りを見回した、その瞬間だった。背後の暗がりから、複数の鋭い視線を感じたのは――。


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