僕らの目の前には、意識を失って倒れている六人の若者たち。そして、さっきまでとは打って変わって静まり返った夜の道。アドレナリンが引いていくと、どっと疲れが押し寄せてきた。
「こいつら、どうすっかな……」
大輝が、困ったように頭を掻いている。警察に連絡するのが一番なんだろうけど、事情を説明するのは難しい。というか、絶対信じてもらえない。
「……とりあえず、今はここを離れましょう。彼らも、時間が経てば目を覚ますはずです。マインドワームの影響は……たぶん、一時的に抑えられたと思うので」
そう言ったのは、水瀬 一葉さんだった。彼女はまだ自分のアバター能力に戸惑いを見せながらも、どこか覚悟を決めたような、凛とした表情をしていた。
僕たちは頷き合い、ひとまずその場を後にすることにした。帰り道、僕は一葉さんに、アバターや精神ネットワーク、マインドワームについて、僕が知っている限りのことを説明した。彼女は静かに耳を傾け、時折、深く頷いていた。
「……やっぱり。
彼女は、自分の
数日後。僕たち三人は、放課後、神社の
「改めまして、水瀬さん……いや、一葉! ようこそ、チーム『アーク』へ!」
大輝が、満面の笑みで一葉さんの手を取る。
「え、あ……はい。よろしくお願いします、桐生君、来栖君」
一葉さんは少し照れたように
《おー、パチパチパチ! これで少しは賑《にぎ》やかになるかな?》
僕の頭の中にだけ、ノアの祝福の声が響く。お前はもう少し緊張感を持て。
チームの最初の議題は、もちろん、あの廃工場のことだ。僕らは、それぞれが集めてきた情報を持ち寄り、ホワイトボードに書き出していく。
「俺の動画仲間からのタレコミだとさ、やっぱりあの廃工場、かなりヤバいらしいぜ。夜中に集まってる連中、なんか変なマークみたいなの身につけてて、リーダー格のヤツの言うこと、どんなことでも聞いてる感じだって」
大輝が報告する。
「神社の古い記録にも、あの土地に関する記述がありました。『
一葉さんが、古い巻物のようなものを広げながら言う。彼女の持つ知識は、僕らだけでは得られない、貴重な情報源になりそうだ。
そして、僕とノアがネット上を探って見つけたのは、その廃工場で使われているらしい不気味なシンボルマークと、『覚醒』『進化』『選ばれし者』といった言葉が飛び交う、閉鎖的なコミュニティサイトの存在だった。
《どうやら、その廃工場を拠点にして、マインドワームを使った集団的な精神汚染……洗脳みたいなことをしてるっぽいね。しかも、かなり組織的に》
ノアの分析に、僕らは顔を見合わせる。これは、これまでの個人的な暴走事件とは、規模も悪質さも違うかもしれない。
「直接乗り込むのは、危険すぎるな……」
僕が言うと、二人も頷いた。
「じゃあ、どうする? リーダー」
大輝が、ニヤリと笑って僕を見る。リーダー、か……。
「まずは、そのコミュニティの中心人物……廃工場で儀式を仕切ってるやつを特定する。そして、そいつの『心の
「なるほどな!」
「それが、一番安全で、確実な方法だと思います」
僕の提案に、大輝と一葉も賛同してくれた。
早速、僕らはノアの助けを借りて、ターゲットの特定を開始した。コミュニティサイトの
「……見つけた。このアカウント……間違いない」
僕が、ある特定のアカウントを指さす。それは、僕らと同じ高校の生徒のものだった。しかも……。
「こいつ……生徒会の……!」
大輝が驚きの声を上げる。僕も、その名前には見覚えがあった。確か、生徒会長の結城 誠(ゆうき まこと)の、右腕と言われていた人物……。
《ビンゴみたいだね。彼から、かなり強い歪んだエネルギーを感じるよ》
ターゲットは決まった。次は、彼の心の領域へのアクセスだ。三人で挑む、初めての本格的なダンジョン攻略。
「準備はいいか?」
僕が問いかけると、大輝と一葉は、力強く頷いた。
「おう!」
「はい!」
僕らは互いの顔を見合わせ、アジトの中心で静かに拳を合わせた。チーム「アーク」の、本当の戦いが今、始まろうとしていた。