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第22話 歪《いびつ》なる玉座、心《ハート》を繋ぐ連撃

 生徒会室を模した異様な空間の中央で、歪んだ王――相良先輩の心の影が、ゆっくりと巨大なハンマーを振り上げた。

 その瞳には、僕ら「秩序を乱す害虫」に対する、冷たい侮蔑ぶべつの色が浮かんでいる。


劣等生できそこないどもが……私の完璧な世界で、好き勝手はさせん!』


 歪んだ王がハンマーを振り下ろすと、床全体に凄まじい衝撃波が走った!


「うわっ!」

「きゃっ!」


 僕たちは咄嗟とっさにアバターで防御姿勢をとるが、それでも体勢を崩されそうになる。なんてパワーだ……!


「へっ、デカいだけじゃねぇか! いっちょ揉んでやるぜ!」


 大輝のアバターが、果敢にも前へ飛び出し、炎の拳を叩き込む! だが、歪んだ王は軽々とハンマーでそれを受け止め、逆に大輝を壁際まで吹き飛ばした。


「ぐはっ……! かってぇ……!」

「桐生君!」


 一葉さんのアバターが、すぐに駆け寄り、回復の光で大輝を癒やす。その間、僕のアバターが光線銃で牽制けんせいし、歪んだ王の注意を引きつける。


「悠人、こいつ、タフなだけじゃねぇ! なんか、変なプレッシャーも感じる……!」


 大輝の言う通りだった。歪んだ王が近づくだけで、頭の中に直接、劣等感をあおるような声が響いてくるのだ。


《お前には無理だ》《どうせ失敗する》《才能がない》……。


「くっ……!」


 精神攻撃まで仕掛けてくるのか……! これは、かなり厄介だ。


《悠人、大輝、落ち着いて! あの王様、完璧を装ってるけど、どこか脆《もろ》い感じがする! きっと弱点があるはずだよ!》


 ノアの声が、僕らを励ますように響く。そうだ、落ち着け。相手の攻撃パターンを分析して、隙を探すんだ。


 僕たちは、一葉さんの回復と補助を受けながら、慎重に立ち回った。大輝が前線で攻撃を受け止め、僕が中距離から援護と分析を行う。歪んだ王の攻撃は、確かに強力で範囲も広い。だけど、どこか動きが大振りで、攻撃の後にはわずかな隙ができることにも気づいた。


《なぜだ……なぜ俺は、いつも、あいつ《結城》の影なんだ……!》


 戦闘中、歪んだ王が苦しげにうめく。相良先輩自身の心の叫びだ。生徒会長、結城 誠への強烈なコンプレックス……それこそが、彼の歪みの根源であり、同時に最大の弱点なのかもしれない。


「一葉さん! あの王様の心の壁を……少しでもいい、こじ開けられないか!?」

「心の……壁……。はい、やってみます!」


 僕の意図を察したのか、一葉さんのアバターが、神楽鈴かぐらすずのような杖を掲げ、清らかな光を歪んだ王へと放った。それは攻撃の光じゃない。心を落ち着かせ、本来の姿を取り戻させるような、浄化の祈り。


『ぐ……うぅ……!? な、なんだ、この光は……やめろ……!』


 歪んだ王は、その光を浴びて明らかに動揺し、動きが鈍った。金属のような鎧に、わずかにひびが入るのが見える。


「今だ、大輝!」

「おうよ!」


 僕が光線銃で足元を狙って体勢を崩させ、そこへ大輝のアバターが渾身こんしんの炎の拳を叩き込む!


 ドゴォォン!! 痛烈な一撃が、歪んだ王の胸部を捉えた。しかし、まだ倒れない!


『認めない……認められるものか……! 俺は、完璧でなければ……! 結城よりも、上でなければ……!』


 歪んだ王は、憎悪と焦燥に満ちた瞳で僕らを睨みつけ、ハンマーを天高く振り上げた。まずい、最大級の攻撃が来る!


「悠人君、大輝君!」


 一葉さんの声。彼女のアバターが、僕らの前に立ち、光のバリアを展開する。


「ここは、私たちが支えます!」

「一葉……!」

「サンキュ!」


 僕と大輝は頷き合う。もう一度、あの連携を……いや、それ以上の、三人の力を合わせた一撃を! エネルギーを凝縮させ、大輝が炎を最大まで燃え上がらせる。そして、一葉さんの祈りの光が、僕らの力を増幅させていく!


「「「うおおおおぉぉぉっ!!!」」」


 三人のアバターから放たれた、光と炎と祈りの奔流ほんりゅう。それは、歪んだ王が振り下ろそうとしていた巨大なハンマーを打ち砕き、彼の心の奥底……歪んだ自尊心の核へと突き刺さった!


『俺は……ただ……認められたかった……だけ、なのに…………』


 最後に、そんな悲痛な呟きが聞こえた気がした。


 歪んだ王は、苦しみから解放されたように、静かにその輪郭を失っていく。

 金属の鎧は砕け散り、傲慢ごうまんな光を宿していた瞳は、元の……ただの弱い人間の瞳に戻っていく。そして、光の粒子となって、穏やかに消滅していった。


 後に残ったのは、静まり返った、元・生徒会室。歪んだ王が座っていた玉座も、壁の標語も、全てが消え去り、ただがらんとした空間が広がっているだけだった。そして、その奥には、さらに深部へと続く、暗い扉が現れていた。


「……やった……のか?」

「ああ……みたいだな」

「はぁ……強かった……」


 僕たちは、アバターを解除し、その場にへたり込んだ。

 三人とも、疲労困憊だ。でも、顔には確かな達成感が浮かんでいる。


「ナイス連携だったぜ、二人とも!」

「悠人君の指示と、桐生君のパワー、すごかったです!」

「いや、一葉さんのサポートがなかったら、危なかったよ」


 僕らは自然と互いをねぎらい、笑い合った。この戦いを通じて、僕らの絆は、また一段と強くなった気がする。


《うんうん、チームっぽくなってきたじゃん!》とノアの声も聞こえる。


 さあ、残るはマインドワーム本体だ。僕たちは頷き合い、決意を新たに、奥へと続く扉に向かって、ゆっくりと歩き出した。



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