生徒会室を模した異様な空間の中央で、歪んだ王――相良先輩の心の影が、ゆっくりと巨大なハンマーを振り上げた。
その瞳には、僕ら「秩序を乱す害虫」に対する、冷たい
『
歪んだ王がハンマーを振り下ろすと、床全体に凄まじい衝撃波が走った!
「うわっ!」
「きゃっ!」
僕たちは
「へっ、デカいだけじゃねぇか! いっちょ揉んでやるぜ!」
大輝のアバターが、果敢にも前へ飛び出し、炎の拳を叩き込む! だが、歪んだ王は軽々とハンマーでそれを受け止め、逆に大輝を壁際まで吹き飛ばした。
「ぐはっ……! かってぇ……!」
「桐生君!」
一葉さんのアバターが、すぐに駆け寄り、回復の光で大輝を癒やす。その間、僕のアバターが光線銃で
「悠人、こいつ、タフなだけじゃねぇ! なんか、変なプレッシャーも感じる……!」
大輝の言う通りだった。歪んだ王が近づくだけで、頭の中に直接、劣等感を
《お前には無理だ》《どうせ失敗する》《才能がない》……。
「くっ……!」
精神攻撃まで仕掛けてくるのか……! これは、かなり厄介だ。
《悠人、大輝、落ち着いて! あの王様、完璧を装ってるけど、どこか脆《もろ》い感じがする! きっと弱点があるはずだよ!》
ノアの声が、僕らを励ますように響く。そうだ、落ち着け。相手の攻撃パターンを分析して、隙を探すんだ。
僕たちは、一葉さんの回復と補助を受けながら、慎重に立ち回った。大輝が前線で攻撃を受け止め、僕が中距離から援護と分析を行う。歪んだ王の攻撃は、確かに強力で範囲も広い。だけど、どこか動きが大振りで、攻撃の後には
《なぜだ……なぜ俺は、いつも、あいつ《結城》の影なんだ……!》
戦闘中、歪んだ王が苦しげに
「一葉さん! あの王様の心の壁を……少しでもいい、こじ開けられないか!?」
「心の……壁……。はい、やってみます!」
僕の意図を察したのか、一葉さんのアバターが、
『ぐ……うぅ……!? な、なんだ、この光は……やめろ……!』
歪んだ王は、その光を浴びて明らかに動揺し、動きが鈍った。金属のような鎧に、
「今だ、大輝!」
「おうよ!」
僕が光線銃で足元を狙って体勢を崩させ、そこへ大輝のアバターが
ドゴォォン!! 痛烈な一撃が、歪んだ王の胸部を捉えた。しかし、まだ倒れない!
『認めない……認められるものか……! 俺は、完璧でなければ……! 結城よりも、上でなければ……!』
歪んだ王は、憎悪と焦燥に満ちた瞳で僕らを睨みつけ、ハンマーを天高く振り上げた。まずい、最大級の攻撃が来る!
「悠人君、大輝君!」
一葉さんの声。彼女のアバターが、僕らの前に立ち、光のバリアを展開する。
「ここは、私たちが支えます!」
「一葉……!」
「サンキュ!」
僕と大輝は頷き合う。もう一度、あの連携を……いや、それ以上の、三人の力を合わせた一撃を! エネルギーを凝縮させ、大輝が炎を最大まで燃え上がらせる。そして、一葉さんの祈りの光が、僕らの力を増幅させていく!
「「「うおおおおぉぉぉっ!!!」」」
三人のアバターから放たれた、光と炎と祈りの
『俺は……ただ……認められたかった……だけ、なのに…………』
最後に、そんな悲痛な呟きが聞こえた気がした。
歪んだ王は、苦しみから解放されたように、静かにその輪郭を失っていく。
金属の鎧は砕け散り、
後に残ったのは、静まり返った、元・生徒会室。歪んだ王が座っていた玉座も、壁の標語も、全てが消え去り、ただがらんとした空間が広がっているだけだった。そして、その奥には、さらに深部へと続く、暗い扉が現れていた。
「……やった……のか?」
「ああ……みたいだな」
「はぁ……強かった……」
僕たちは、アバターを解除し、その場にへたり込んだ。
三人とも、疲労困憊だ。でも、顔には確かな達成感が浮かんでいる。
「ナイス連携だったぜ、二人とも!」
「悠人君の指示と、桐生君のパワー、すごかったです!」
「いや、一葉さんのサポートがなかったら、危なかったよ」
僕らは自然と互いを
《うんうん、チームっぽくなってきたじゃん!》とノアの声も聞こえる。
さあ、残るはマインドワーム本体だ。僕たちは頷き合い、決意を新たに、奥へと続く扉に向かって、ゆっくりと歩き出した。