歪んだ王の影が消え去り僕たちの前には重々しい扉が現れた。
この奥に、相良先輩の心を
「……行くぞ」
僕の言葉に、大輝と一葉さんが力強く頷く。僕たちは覚悟を決め、その扉を押し開けた。
扉の向こうに広がっていたのは、巨大なチェス盤のような空間だった。
白と黒のマス目が無限に広がり、空には歪んだ王冠のようなオブジェが不気味に浮かんでいる。
そして、盤上には、
「なんだ……これ……」
大輝が息を呑む。
「……彼の理想の世界、なのでしょうか。全てが彼の思い通りに動く……」
一葉さんが悲しそうに呟いた。相良先輩の歪んだ支配欲が、こんな世界を作り上げてしまったのか……。
そして、そのチェス盤の最も奥、キングが座るべき玉座に、「それ」はいた。
いくつものモニターが融合し、無数のケーブルを触手のように
モニターには、時折、生徒会長である結城 誠の顔が歪んで映し出されては、ノイズと共に消えていく。あれが、相良先輩のコンプレックスと支配欲を喰らって成長した、マインドワーム本体……!
『……ヨクキタナ、秩序ヲ乱ス
マインドワームから、合成音声のような、不快な声が響き渡った。
『コノ完璧ナ世界ヲ、貴様ラ如キガ汚ス事ハ許サン! ルールニ従イ、排除スル!』
言葉と共に、チェス盤のマス目が赤く点滅し、僕たちの足元からエネルギーの
「うわっ!」
「きゃっ!」
僕たちは
「数が多すぎる!」
「一葉さん、みんなの動きを止めてくれ!」
「はい!」
一葉さんのアバターが杖を掲げ、浄化の光を放つ。駒たちの動きが一瞬鈍った!
「よし! その隙に本体を叩くぞ、大輝!」
「おう!」
僕と大輝のアバターが、駒たちの間をすり抜け、マインドワーム本体へと突撃する!
マインドワームは、ケーブル触手を
《劣等生メガ……!》《結城ニハ勝テナイ……》《誰モオ前ヲ認メナイ……!》
相良先輩自身の心の闇を利用した、悪質な精神攻撃だ。僕の頭もズキズキと痛む。だが、もう負けるわけにはいかない!
「うるさいっ!」
大輝のアバターが、炎の拳でケーブルを薙ぎ払う!
「苦しんでいるのは、あんたに取り憑かれてる先輩の方だろうが!」
僕のアバターも、光線銃でモニターアイを正確に撃ち抜く!
「あなたの歪んだ支配は、ここで終わりにする!」
一葉さんのアバターも、回復と補助の光で僕たちを支援しながら、マインドワームが生み出すノイズを浄化していく。
三方向からの、息の合った連携攻撃。一人では歯が立たなかったかもしれない強敵にも、三人なら……!
『グ……オオオ……ナゼダ……ナゼ、コノ俺ガ……!』
マインドワームが苦しげな声を上げる。その時、マインドワームの動きが、また一瞬だけ、ピタリと止まった。相良先輩自身の心が、抵抗しているんだ!
(今しかない!)
「三人で、同時にコアを狙う!」
僕は叫んだ。弱点は、あの赤く光るモニターアイだ!
大輝が
「「「これで、終わりだぁぁぁっ!!!」」」
三人の力が、一つになる。
炎の拳が、光の鎖が、そして僕の光の剣が、マインドワームの赤いコアを同時に貫いた!
『ワタシハ……カンペキナ……オウニ…………』
断末魔の叫びと共に、マインドワームの
後に残ったのは、何もなくなった、ただ静かで、どこまでも白い空間だけだった。
《……俺は……ただ……結城みたいに……なりたかった……だけ……なんだ……》
相良先輩の、
「……終わった……」
僕たちは、アバターを解除し、その場にへたり込んだ。三人とも、もうヘトヘトだったけど、顔には達成感が浮かんでいる。
「やったな、俺たち!」
「はい……!」
大輝と一葉さんと自然にハイタッチを交わす。仲間がいるって本当に心強い。
《お見事! 三人での初ミッション、コンプリートだね!》
ノアの声も、どこか弾んでいるように聞こえた。
《ま、今回の黒幕はただのマインドワームみたいだけど……裏で糸引いてる《《マインド・イーター》》の連中は、もっと厄介かもね》
マインド・イーター……。そうだ、これで終わりじゃないんだ。僕たちの戦いは、まだ始まったばかり。
僕たちは、互いに頷き合い、現実世界への帰還を意識した。疲労困憊の身体に、新たな決意を刻みながら。