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第23話 歪《ひずみ》の王冠《クラウン》、決着の光

 歪んだ王の影が消え去り僕たちの前には重々しい扉が現れた。

 この奥に、相良先輩の心をむしばむ元凶……マインドワームがいる。ゴクリと息を呑む音が、やけに大きく聞こえた。


「……行くぞ」


 僕の言葉に、大輝と一葉さんが力強く頷く。僕たちは覚悟を決め、その扉を押し開けた。


 扉の向こうに広がっていたのは、巨大なチェス盤のような空間だった。

 白と黒のマス目が無限に広がり、空には歪んだ王冠のようなオブジェが不気味に浮かんでいる。

 そして、盤上には、こまのように人々が配置されていた。よく見ると、それは鷲久北高校の生徒たちの姿によく似ているが、どれも表情がなく、操り人形のように立ち尽くしているだけだ。


「なんだ……これ……」


 大輝が息を呑む。


「……彼の理想の世界、なのでしょうか。全てが彼の思い通りに動く……」


 一葉さんが悲しそうに呟いた。相良先輩の歪んだ支配欲が、こんな世界を作り上げてしまったのか……。


 そして、そのチェス盤の最も奥、キングが座るべき玉座に、「それ」はいた。


 いくつものモニターが融合し、無数のケーブルを触手のようにうごめかせ、中央には一つだけ、冷たく赤いカメラアイのようなものが光っている。

 モニターには、時折、生徒会長である結城 誠の顔が歪んで映し出されては、ノイズと共に消えていく。あれが、相良先輩のコンプレックスと支配欲を喰らって成長した、マインドワーム本体……!


『……ヨクキタナ、秩序ヲ乱ス害虫ノイズドモ』


 マインドワームから、合成音声のような、不快な声が響き渡った。


『コノ完璧ナ世界ヲ、貴様ラ如キガ汚ス事ハ許サン! ルールニ従イ、排除スル!』


 言葉と共に、チェス盤のマス目が赤く点滅し、僕たちの足元からエネルギーのとげが突き出してきた!


「うわっ!」

「きゃっ!」


 僕たちは咄嗟とっさに回避する。同時に、盤上の駒(生徒たちの姿をした影)たちが、一斉に僕たちへと襲いかかってきた!


「数が多すぎる!」

「一葉さん、みんなの動きを止めてくれ!」

「はい!」


 一葉さんのアバターが杖を掲げ、浄化の光を放つ。駒たちの動きが一瞬鈍った!


「よし! その隙に本体を叩くぞ、大輝!」

「おう!」


 僕と大輝のアバターが、駒たちの間をすり抜け、マインドワーム本体へと突撃する!


 マインドワームは、ケーブル触手をむちのように振るい、モニターからは精神的なダメージを与えるノイズを発して抵抗する。


《劣等生メガ……!》《結城ニハ勝テナイ……》《誰モオ前ヲ認メナイ……!》


 相良先輩自身の心の闇を利用した、悪質な精神攻撃だ。僕の頭もズキズキと痛む。だが、もう負けるわけにはいかない!


「うるさいっ!」


 大輝のアバターが、炎の拳でケーブルを薙ぎ払う!


「苦しんでいるのは、あんたに取り憑かれてる先輩の方だろうが!」


 僕のアバターも、光線銃でモニターアイを正確に撃ち抜く!


「あなたの歪んだ支配は、ここで終わりにする!」


 一葉さんのアバターも、回復と補助の光で僕たちを支援しながら、マインドワームが生み出すノイズを浄化していく。


 三方向からの、息の合った連携攻撃。一人では歯が立たなかったかもしれない強敵にも、三人なら……!


『グ……オオオ……ナゼダ……ナゼ、コノ俺ガ……!』


 マインドワームが苦しげな声を上げる。その時、マインドワームの動きが、また一瞬だけ、ピタリと止まった。相良先輩自身の心が、抵抗しているんだ!


(今しかない!)


「三人で、同時にコアを狙う!」


 僕は叫んだ。弱点は、あの赤く光るモニターアイだ!

 大輝が雄叫おたけびを上げて正面から突撃し、炎の拳を叩きつける準備をする。一葉さんが、マインドワームの動きを封じる聖なる光の鎖を放つ。そして僕は、アバターの全エネルギーを右腕に集中させ、光の剣を形成した!


「「「これで、終わりだぁぁぁっ!!!」」」


 三人の力が、一つになる。


 炎の拳が、光の鎖が、そして僕の光の剣が、マインドワームの赤いコアを同時に貫いた!


『ワタシハ……カンペキナ……オウニ…………』


 断末魔の叫びと共に、マインドワームの身体からだが内部からまばゆい光を放ち崩壊していく。歪んだチェス盤も、操られていた駒たちも、全てが光の粒子となって消え去っていく。


 後に残ったのは、何もなくなった、ただ静かで、どこまでも白い空間だけだった。


《……俺は……ただ……結城みたいに……なりたかった……だけ……なんだ……》


 相良先輩の、懺悔ざんげとも後悔ともつかない、か細い声が、どこからか聞こえた気がした。


「……終わった……」


 僕たちは、アバターを解除し、その場にへたり込んだ。三人とも、もうヘトヘトだったけど、顔には達成感が浮かんでいる。


「やったな、俺たち!」

「はい……!」


 大輝と一葉さんと自然にハイタッチを交わす。仲間がいるって本当に心強い。


《お見事! 三人での初ミッション、コンプリートだね!》


 ノアの声も、どこか弾んでいるように聞こえた。


《ま、今回の黒幕はただのマインドワームみたいだけど……裏で糸引いてる《《マインド・イーター》》の連中は、もっと厄介かもね》


 マインド・イーター……。そうだ、これで終わりじゃないんだ。僕たちの戦いは、まだ始まったばかり。

 僕たちは、互いに頷き合い、現実世界への帰還を意識した。疲労困憊の身体に、新たな決意を刻みながら。



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