梅雨入り前の貴重な晴れ間が広がった週末の午後。僕は、水瀬 一葉さんと二人で、彼女の家の神社へと続く、古い石畳の参道を歩いていた。
色とりどりの
二人で黙々と落ち葉を掃いたり、本殿の拭き掃除をしたり。作業自体は単純だったけど、彼女と静かに過ごす時間は、なんだか不思議と落ち着いた。
休憩中、縁側でお茶をいただきながら、僕は思い切って聞いてみた。
「水瀬さんって……やっぱり、普通の人が感じないようなもの、感じたりするの?」
唐突な質問に、彼女は少しだけ目を見開いた。そして、湯呑みを見つめながら、ぽつり、ぽつりと話し始めてくれた。
「……うん。昔から、少しだけ。他の人には見えない『気配』とか……声、みたいなものが、聞こえたりすることがあったの」
その声は、どこか寂しげだった。
「子供の頃は、それが普通だと思ってた。でも、周りの子とは違うって気づいて……気味悪がられたり、嘘つきって言われたりすることもあって……」
「……だから、いつの間にか、あんまり人と関わらないように……自分の
「水瀬さん……」
「でも、
彼女は顔を上げ、真っ直ぐに僕を見た。その瞳には、迷いと、それでも前を向こうとする強い意志が宿っている。
「だから……この前の時も、怖かったけど……
彼女の言葉は、静かだけど、僕の心に深く響いた。特別な力を持つことへの戸惑い、孤独、そして使命感。僕が抱えているものと、どこか重なる部分があるのかもしれない。
「……そっか。話してくれて、ありがとう」
僕は、できるだけ優しい声で言った。
「僕も……まあ、水瀬さんとはちょっと違うかもしれないけど……この街に来て、普通じゃない力に関わることになって……正直、戸惑ってるし、怖いと思うこともある」
「来栖君も……?」
「うん。だから……もし、水瀬さんが一人で抱えきれないって思うことがあったら、僕にも話してほしい。僕にできることがあるかは分からないけど……力になりたいって思うから」
それは、僕の本心だった。彼女の力になりたい。そして、僕もまた、彼女に支えてほしいのかもしれない。
一葉さんは驚いたように
「……ありがとう、来栖君。……あなたは……優しいんだね」
少しだけ頬を赤らめて、彼女はそう言った。その言葉と笑顔が、僕の心の中に温かい光を
帰り道、僕らはまた二人で参道を歩いた。さっきまでの少し重たい空気は消えて、穏やかで、心地よい沈黙が流れる。
「……あの、来栖君」
不意に、一葉さんが立ち止まった。彼女は、何かを感じ取ったように、鋭い視線で参道の先……廃工場のある方角を見つめている。
「どうかした?」
「……ううん。なんでもない……ただ、また……少し、嫌な『気配』が強くなったような気がして……」
彼女の表情が、
「……大丈夫だよ」
僕は、気づけば彼女の隣に立ち、同じ方角を見ていた。
「一人じゃない。僕らがいるから」
僕の言葉に、彼女は驚いたように僕を見上げ、そして、もう一度、小さく、でもはっきりと頷いた。
僕と彼女の間に、確かな絆が生まれたような気がした。それはまだ、名前のない感情かもしれないけれど。
同時に、僕は決意を新たにしていた。彼女を、そしてこの街を守るために、僕らのチーム「アーク」として、前に進まなければならない、と。