例の廃工場について、僕たち「アーク」は本格的な調査を開始した。夏目さんからの情報も踏まえ、内部に潜入するのはまだ危険だと判断。まずは、外堀から埋めていく作戦だ。
大輝は持ち前のフットワークとコミュ力を活かして、廃工場周辺での聞き込みや、例の集会に参加している奴らがいないか、学校内外で情報を集めてくれることになった。「任せとけ!」と、いつもの調子で飛び出していった彼の背中は、なんだかとても頼もしく見えた。
そして僕は……水瀬 一葉さんと一緒に、彼女の家の神社で、廃工場やあの土地にまつわる古い資料を調べることになったのだ。
「……ごめんね、来栖君。こんなことまで手伝わせちゃって」
神社の静かな書庫で、
「ううん、気にしないで。僕も知りたいんだ。あの場所に何があるのか……それに、水瀬さんと一緒なら、何か分かるかもしれないし」
僕がそう言うと、彼女は少し驚いたように顔を上げ、そして、小さく微笑んだ。その笑顔を見ると、僕の心臓が少しだけ、トクン、と音を立てる。……いかんいかん、調査に集中しないと。
神社の書庫には、
「……この辺りの土地は、昔から『
「瘴気……」
「ええ。だから、昔の人たちは、その力を
彼女が指し示した古文書には、確かにそんな記述があった。そして、その祠があった場所が……まさに、今の廃工場の敷地と重なるらしい。
「でも、時代が変わって、その言い伝えも忘れられて……
一葉さんの声には、
「僕にできることがあれば、言ってほしい。資料の整理とか、PCでデータベース化するとか……」
「ありがとう、来栖君……」
二人で協力して資料を読み解いていく時間は、思ったよりもずっと早く過ぎていった。難しい古文書を前に
数時間に及ぶ調査の結果、僕らはいくつかの重要な情報を
まず、廃工場で行われている「儀式」は、単なる集会ではなく、土地に溜まった負のエネルギー(瘴気)とマインドワームを結合させ、集団的な精神汚染を引き起こそうとする、危険なものである可能性が高いこと。
そして、最も気がかりなのは、その儀式が、数日後に迫った特別な日……古文書によれば『
「……時間が、ない……!」
僕らは顔を見合わせた。その日は、もうすぐそこまで迫っている。
調査を終え、書庫の片付けをしていると、一葉さんがふと窓の外……廃工場のある方角を見て、顔色を変えた。
「……また、だわ。すごく……嫌な気配がする……。前よりも、ずっと強く……濃くなっている……!」
彼女は、自分の胸元をぎゅっと押さえている。その感受性の強さが、彼女を苦しめているのかもしれない。
「大丈夫か、水瀬さん?」
僕は、思わず彼女の肩に手を伸ばしかけた。……いや、今はそんな場合じゃない。
「……ええ。でも、悠人君……私たち、急がないと……!」
彼女の瞳には、強い決意の色が宿っていた。僕も頷く。
「ああ。大輝と合流して、対策を練ろう。そして、必ず……止めるんだ」
僕たちは、互いの目を見て、静かに頷き合った。迫りくる脅威を前に、僕らの絆は、そして覚悟は、より一層強くなっているのを感じていた。