満月が、雲の隙間から不気味なほど明るく地上を照らす夜。僕たち四人は、息を殺して廃工場の敷地内へと侵入した。
雨上がりで湿った空気が、
工場の割れた窓からは、禍々《まがまが》しい赤黒い光が漏れ、
「……始まってるみたいだな」
大輝が、緊張した面持ちで呟く。
「マキ……」
夏目 莉緒さんが、親友の名前を呼び、ぎゅっと拳を握りしめた。彼女の派手なネイルが、月明かりに鈍く光る。
「行きましょう。慎重に」
一葉さんの静かな声に促され、僕らは工場の内部へと足を踏み入れた。
中は、想像以上に荒れ果てていた。
壁には奇妙なシンボルマークがスプレーで描かれ、床には意味不明な魔法陣のようなものがいくつも描かれている。
《うわ……なんか、すごく嫌な感じ。負のエネルギーが渦巻いてるよ……》
ノアの声も、いつもよりトーンが低い。
警戒しながら進む僕たちの前に、時折、
「くっ、こいつらも操られてるのか!」
大輝が舌打ちする。僕と大輝、一葉さんの三人はアバターを起動させ、彼らを傷つけないように、でも確実に無力化していく。
一葉さんの浄化の光が、彼らの精神的な興奮を
やがて僕たちは、工場の最も奥にある、巨大な吹き抜けの空間にたどり着いた。元々は、大きな機械でも設置されていた場所なのだろうか。その中央には、ガラクタを寄せ集めて作ったような、歪な祭壇が組まれ、赤黒い光を放っていた。
祭壇の前では、フードを目深にかぶったリーダー格らしき人物が、何かを唱えている。そして、その周りには、二十人近くの若者たちが、まるでトランス状態のように、
その中の一人に……莉緒さんの親友、マキさんの姿もあった。
「マキ……!」
莉緒さんが、悲痛な声を上げる。マキさんは、他の若者たちと同じように、生気のない瞳で祭壇を見つめているだけだ。
「待て、夏目さん! 今飛び出すのは危険だ!」
僕が制止するのも聞かず、莉緒さんは駆け出そうとした。その瞬間、祭壇の前にいたリーダー格の人物が、ゆっくりとこちらを振り返った。フードの奥から覗く瞳が、冷たく光る。
『……ほう。招かれざる客か。しかも、ネズミが三匹……いや、四匹か』
その声は、相良先輩の時とは違う、もっと冷たくて、計算高い響きを持っていた。
こいつが、儀式を主導している……マインド・イーターの関係者か!?
『ちょうど良い。その娘……なかなか強い
リーダー格の人物が、莉緒さんに指を向けた。途端、莉緒さんの頭を押さえつけるような、強烈な精神攻撃が放たれる!
「ぐっ……うぅ……!」
莉緒さんが、苦痛に顔を歪めて膝をつく。頭の中に、
《くだらない友情など捨てろ……》
《お前の祖母も、お前の過去を知れば幻滅する……》
《こちら側に来い。そうすれば、真の力が手に入る……》
「やめろ!」
僕たちはアバターで応戦しようとするが、操られた若者たちが壁となって立ちはだかる!
「莉緒さん!」
一葉さんの悲鳴に近い声。莉緒さんの意識が、悪意に飲み込まれかけている……!
その時だった。
「……ふざけん……な……」莉緒さんが、震える声で呟いた。「ふざけんじゃねぇぞ、テメェら!!」
彼女は、顔を上げた。その瞳には、涙が浮かんでいたけれど、それ以上に強い、怒りの炎が燃え上がっていた。
「ウチのダチを……! ウチの大事なばーちゃんを……! 馬鹿にするんじゃねぇ!! ウチが……ウチが、全部守ってやんだよ!!」
心の底からの、魂の叫び。その瞬間、彼女の持っていたスマホ――デコレーションされた派手なやつ――が、
《強い|想《オモ》い、感知!
金色の閃光の中から現れたのは、見るからにパワフルなアバターだった! 特攻服かスカジャンを思わせるような、派手な
「これが……ウチの……!?」
莉緒さんは、自分の拳を握りしめ、驚きながらも、すぐにその力を理解したようだった。
『な……!? まさか、お前も……!?』
リーダー格の人物が、初めて動揺を見せる。
「うっせーんだよ! テメェらの思い通りになんか、させるか!」
覚醒したばかりとは思えない、凄まじい気迫。莉緒さんのアバターは、地を蹴ると、一直線にリーダー格の人物へと突進した!
「邪魔だ、ドケェェェッ!!」
立ちはだかる若者たちを、まるで雑草でも
「すげぇ……!」
大輝が、感嘆の声を漏らす。
「僕らも行くぞ!」
僕と大輝、一葉さんのアバターも、莉緒さんに続いた。四人目の仲間……いや、新たな
儀式を阻止し、マキさんを、そしてこの