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第34話 仲間《チーム》の音色《サウンド》、四つの誓い

 生徒会長、結城先輩との接触は、僕らに新たな謎と、より大きな脅威の存在を突きつけてきた。

 マインドワームとは違う、強い『意志』の影響……。マインド・イーターは、僕らが思っている以上に、深くこの街に根を張っているのかもしれない。


「……結城先輩のこと、どうする?」


 アジトである旧社務所で僕らは顔を突き合わせていた。

 外は、夏の訪れを告げるような、強い日差しが照りつけている。期末テストも終わり、もうすぐ夏休みだというのに、僕らの頭の中は鷲久市わしくしを覆う暗い影のことでいっぱいだった。


「直接、問い詰めるわけにもいかねぇしな……。証拠もねぇ」


 大輝が腕を組んでうなる。


「今は、彼の動向を注意深く見守るしかないのかもしれません。そして、私たち自身も力をつけ、いつでも動けるように準備しておく……」


 一葉さんの冷静な言葉に、僕も頷く。焦りは禁物だ。


 そんな重たい空気を破るように、がらりと社務所の扉が開いた。


「ちわーっす。……なんか、暗いんだけど。どしたの?」


 そこに立っていたのは、夏休み前で少し浮かれた雰囲気の制服姿……夏目 莉緒さんだった。廃工場の一件以来、彼女は時々こうしてアジトに顔を出すようになっていた。


「いや、次の手をどうしようか話しててな」


 大輝が答える。


「ふーん? ま、なんかウチに出来んことあったら、言えよな。この前の借り、まだ返せてねーし」


 莉緒さんは、ぶっきらぼうに言いながらも、その瞳には真剣な色が宿っていた。廃工場での経験は、彼女にとっても大きな転機になったのだろう。自分の力が、誰かを守るために使えると知ったのだから。


「ありがとう、夏目さん。その気持ちだけで、すごく心強いよ」


 僕が言うと、彼女は「……別に、あんたのためじゃねーし」と顔を背ける。素直じゃないところも、彼女らしい。


「そうだ! 夏目、お前も正式に『アーク』に入っちまえよ!」


 大輝が、名案! といった感じで手を叩く。


「はあ? アーク? なにそれ、だっさ!」

「なんだとー! かっこいいだろ、ノアの箱舟!」

「いや、普通にダサいって……まあ、名前はどうでもいいけどさ」


 莉緒さんは、少し考えるそぶりを見せた後、にっと笑った。


「いいぜ、入ってやるよ! その代わり、ウチのこともちゃんと頼れよな? 特に、悠人! あんた、一人で抱え込みすぎなんだよ!」


 ビシッと僕を指さしてくる。……否定できないのが、なんとも。


「……ああ、分かってる。よろしくな、莉緒」


 僕が差し出した手に、彼女は一瞬ためらった後、照れくさそうに、でも力強く自分の手を重ねてきた。これで、僕らのチーム「アーク」は、正式に四人体制になった。


 その日の放課後、僕たち四人は早速、チームとして街のパトロール……という名の情報収集に出かけた。と言っても、やることはこれまでとあまり変わらない。街の噂を聞いて回ったり、ネットの情報をチェックしたり。でも、四人でいると、なんだかそれだけで少し楽しかった。


「なあなあ、あそこのクレープ屋、新しい味出たらしいぜ!」

「桐生君、今は調査中です!」

「いいじゃんか、ちょっとくらい! な、莉緒!」

「は? ウチ、クレープとか興味ねーし……あ、でも、あっちのタピオカ屋は気になるかも」

「莉緒さんまで……」


 大輝と莉緒さんが軽口を叩き合い、それを一葉さんが呆れたように(でも、どこか楽しそうに)見守り、僕が苦笑いする。

 なんだか、普通の高校生の放課後みたいだ。もちろん、水面下ではノアが常に周囲のネットワークを監視してくれているわけだけど。


 莉緒さんがいるとチームの雰囲気が明るくなる気がした。彼女のギャル仲間からの情報網も意外なところで役立ちそうだった。それに、彼女の「仲間は絶対守る」っていう、ある意味ヤンキー的な義理堅さは、このチームにとってすごく大事なものになるだろう。


 パトロールを終えてアジトに戻ると、僕らは改めて今後のことを話し合った。


「結城会長の件は、引き続き警戒するとして……他にも、マインドワームの兆候はいくつかある。一つずつ、潰していくしかないな」


 僕が言うと、みんなが頷く。


「おう! 四人いりゃ、なんとかなるって!」

「ええ。力を合わせれば、きっと」

「ま、ウチに任せとけって!」


 頼もしい仲間たち。一人で抱え込んでいた時とは、見える景色が全然違う。


《そうだねー。でも、油断は禁物だよ?》


 ノアが、いつものように釘を刺す。


……本当の敵は、もっとずっと……キミたちの想像もつかないような、根深いところにいるのかもね》


 ノアの意味深な言葉に、僕らは顔を見合わせる。ラスボス……その正体は、まだ誰も知らない。

 だけど、今の僕らなら、きっとどんな困難だって乗り越えられる。そう信じたい。僕たち四人の「アーク」は、今、確かに未来へ向かって動き出したのだから。



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