七月に入り、
もうすぐ夏休みだというのに、僕たちの周りには、まだ
結城先輩の動向は依然として掴めず、マインド・イーターの影もちらついたまま。僕たち「アーク」は、警戒を続けながらも、今は
そんなある日の放課後。僕は、神社の境内で笹の葉に飾り付けをしている水瀬 一葉さんの姿を見つけた。
もうすぐ行われる
「……手伝おうか?」
僕が声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げ、そしてふわりと微笑んだ。最近、僕に対しては、こういう柔らかい表情を見せてくれることが増えた気がする。
「ありがとう、来栖君。助かるわ」
僕たちは、並んで笹に短冊や折り鶴を飾り付け始めた。風が笹の葉を揺らす音と、神社の静かな空気だけが流れる、穏やかな時間。
「……この神社はね、昔から、この土地を守ってきた場所なの」
作業をしながら、一葉さんがぽつりぽつりと話し始めた。
「私の家系は、代々、
彼女の持つ、特別な感受性の話。以前も少しだけ聞いたけれど、その使命は、彼女が思っていた以上に重いものなのかもしれない。
「最近、特に……街全体の空気が、重く、
彼女は、不安そうに眉を寄せた。その繊細な心が、マインド・イーターの活動や、結城先輩の周りの異変を、人一倍強く感じ取ってしまっているんだろう。
「……一人で、ずっと怖かった。私にしか感じられないのかもしれないって……でも」
彼女は、僕の方を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、不安と、それ以上の強い光が宿っている。
「今は、悠人君たちがいる。……一人じゃないって思えるから、怖くない」
「水瀬さん……」
「あなたたちが隣にいてくれるだけで……すごく、心強いの」
その言葉は、僕の胸を温かくした。僕だって同じだ。彼女が、大輝が、莉緒さんがいてくれるから、戦える。
「僕の方こそ、水瀬さんには助けられてばかりだよ。君の力と知識がなかったら、解決できなかった事件もたくさんある」
「そんな……」
「本当だよ。だから……これからも、頼りにしてる。僕らも、水瀬さんの力になるから。一人で抱え込まないでほしい」
僕は、彼女の小さな手を……いや、代わりに笹の枝をそっと握った。彼女は驚いたように僕の手(と笹)を見つめ、そして、頬をほんのりと赤く染めた。
「……悠人君は……優しいんですね」
小さな声で、彼女が呟く。その声も、表情も、なんだかすごく……可愛くて、僕の方が照れてしまう。
「そ、そうかな……」
「ええ。それに……強い。……あなたのその
彼女は、そこまで言うと、はっとしたように口をつぐみ、さらに顔を赤くして
僕の心臓が、ドキドキと早鐘を打ち始める。彼女も、もしかして、僕のことを……?
その時だった。
ざわざわ……。境内の木々が、風もないのに不自然に揺れた。そして、一葉さんが、顔を上げて鋭い視線を校舎の方角へ向けたのだ。
「……この気配……まさか……結城、会長……?」
彼女の表情が、一瞬で
《悠人、今、学校の方から、すごく強い『歪み』の反応があった! しかも、これは……マインドワームじゃない……! この前の、結城 誠から感じたのと同じ……!》
結城先輩に、何かあったのか!? それとも、彼が何かを……!?
「水瀬さん、行こう!」
「はい!」
僕たちは、飾り付けの途中だった笹を放り出し、学校へと駆け出した。穏やかな時間は終わり、再び、非日常の渦へと引き戻されようとしていた。僕と一葉さんの間に芽生えかけた、特別な感情の行方も、今はまだ、分からないまま――。