「結城会長……!?」
一葉さんの叫びと、ノアの警告。僕たちは顔を見合わせると、同時に駆け出していた。目指すは、鷲久北高校。あの完璧な生徒会長の身に、一体何が起きているんだ!?
スマホで大輝と莉緒さんに緊急連絡を入れる。『学校でヤバい気配。すぐに来てくれ!』……簡単なメッセージだったけど、二人ならきっと、すぐに駆けつけてくれるはずだ。
学校に近づくにつれて空気がどんどん重くなっていくのを感じた。まるで、見えない鉛のドームに覆われているみたいだ。
まだ放課後の時間帯のはずなのに、校舎の周りには人影がまばらで、すれ違う生徒たちの表情もどこか
「……この感じ、ただ事ではありませんね」
一葉さんが、顔を青くして呟く。彼女の鋭い感受性が、この異様な雰囲気の中心を捉えようとしていた。
「ノア、気配の中心はどこだ!?」
《……最上階……たぶん、生徒会室だよ! すごく強い『歪み』が出てる!》
僕たちは、人気のない階段を一気に駆け上がり、生徒会室へと向かった。廊下の窓から差し込む夕陽が、やけに赤く、不吉に見えた。
生徒会室の扉の前まで来ると、中から、以前感じたものとは比べ物にならないほどの、冷たくて強大なプレッシャーが漏れ出てきていた。息が詰まるようだ……。
僕と一葉さんは頷き合い、意を決して扉を開けた。
そこにいたのは、やはり結城先輩だった。彼は生徒会長の椅子に座り、窓の外……
一見すると、いつもと変わらない完璧な姿。だが、その瞳には、明らかに人間離れした冷たい光が宿っていた。そして、彼の周りの空間は、まるで
「……来たか、来栖君、水瀬さん」
彼は、僕たちの方を振り返りもせずに言った。その声は、いつものように穏やかだったが、どこか感情が抜け落ちているように聞こえる。
「結城会長……! いったい、何をしているんですか!?」
一葉さんが、震える声で問い詰める。
「何、って……見れば分かるだろう? この停滞した街を、人々を、あるべき姿へと導こうとしているのさ。
「理想の世界……? そのために、人の心を操るような真似を……!?」
僕が言うと、彼はゆっくりとこちらを振り返った。その瞳の奥には、狂気にも似た強い『意志』が宿っている。
「『操る』、か。人聞きの悪いことを言うね。私は、彼らを『解放』しようとしているのだよ。不要な感情、くだらない欲望……そういったノイズから解放し、
「それは……マインド・イーターの考え方だ! あなたは、彼らに……!」
「マインド・イーター?」彼は、少しだけ眉を上げた。「ああ、あの者たちのことか。彼らの思想には、確かに学ぶべき点もあった。だが、私は誰かに利用されているわけではない。これは、私自身の意志だ。この街を、世界をより良くするための……ね」
違う……! これは、彼の本当の意志じゃない! 何か、もっと別の……ノアが言っていた、強い『意志』に、彼は完全に取り込まれてしまっているんだ……!
「先輩、目を覚ましてください! それは間違っています!」
一葉さんが、必死に呼びかける。
「間違っている? ……フッ、感情に流される君たちには、私の理想は理解できないだろうな。秩序のためには、時に非情な決断も必要だ。……そう、多少の『痛み』もね」
彼は、すっと右手を上げた。すると、生徒会室の空間が、ぐにゃりと大きく歪み始めた! 壁や床に亀裂が走り、禍々《まがまが》しいエネルギーが渦を巻く!
「これ以上、私の邪魔をするというのなら……君たちにも、その『痛み』を教えてあげよう」
もはや、言葉は通じない。僕と一葉さんは、覚悟を決めてスマホを構えた。
「させません!」
「あなたの好きにはさせない!」
僕たちは同時に叫び、アバターを起動させた! 青白い光と、清らかな光が交錯する。
だが、結城先輩は、僕らのアバターを
『その程度の力で、私に敵うとでも?』
彼の
「なっ……!?」
「あれも……アバター……!?」
僕たちが
その時だった。
「待たせたな、悠人、一葉!」
「おらぁ! ド派手に登場だぜ!」
生徒会室の扉が勢いよく開き、大輝と莉緒さんが飛び込んできた! 二人もまた、それぞれのスマホを構え、アバターを起動させる!
炎の戦士と、金色の番長。そして、光の射手と、聖なる巫女。四人のアバターが、歪んだ生徒会長の前に、今、集結した。
「……フン、ネズミが増えたところで、結果は変わらんよ」
誠先輩は冷たく言い放つ。
いや、変えてみせる。僕たち四人の力で! 鷲久北高校、夕暮れの生徒会室。僕たち「アーク」と、歪んだ理想に取り憑かれた生徒会長との、決戦の火蓋が、今、切られようとしていた。