結城先輩を
季節は夏本番。うだるような暑さと、けたたましい蝉の声が、
あの後、結城先輩は数日間学校を休んだけど、今は元気に生徒会活動に復帰している。以前のような完璧すぎる仮面は少しだけ剥がれ、どこか人間味が増したような……そんな気がする。
事件の記憶は
街からは、一時的にマインドワームの気配も薄れ、僕たちには束の間の平穏が訪れていた。
アジトに集まって宿題をしたり、くだらない話で笑ったり……まるで、普通の高校生の夏休みみたいだ。
もちろん、ノアは常にネットワークの監視を続けてくれているし、僕らも警戒を
そんな夏休みのある日、僕は水瀬 一葉さんに誘われて、近所の神社で行われる小さな夏祭りに行くことになった。
「あの……もし、迷惑じゃなかったら……一緒に、どうかなって」
浴衣姿の彼女は、いつも以上に綺麗で僕の心臓はうるさいくらいに跳ねた。もちろん、断る理由なんてない。
祭りは、想像していたよりもずっと賑やかだった。屋台の明かり、綿菓子の甘い匂い、子供たちのはしゃぐ声。僕たちは、たこ焼きを食べたり、射的に挑戦したり、
人混みの中ではぐれないように、と彼女が僕の
帰り道、蛍が舞う小川のほとりで、二人で線香花火をした。パチパチと
別の日には、珍しく氷川 玲奈さんからメッセージが来た。『暇なら、ゲーセン』……たったそれだけ。相変わらず、ぶっきらぼうだな、と思いつつ、僕は指定されたゲームセンターへ向かった。
玲奈さんは、黙々と最新の音楽ゲームをプレイしていた。その指さばきは相変わらず人間業とは思えないレベルだけど、以前のような殺伐とした雰囲気はない。むしろ、純粋にリズムを楽しんでいるように見えた。
「よっ」
「……来たんだ」
僕に気づくと、彼女はプレイを中断し、少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しそうな顔をした……気がする。
「あんたもやる? これ、結構面白いよ」
「え、僕も?」
「下手でも、別に笑わないから」
結局、僕は彼女に手ほどきを受けながら、一緒に音楽ゲームをプレイすることになった。もちろん、結果は惨敗だったけど……。
隣でプレイする彼女の真剣な横顔や、時折見せる笑顔は、やっぱりすごく魅力的で、僕はまたドキドキさせられっぱなしだった。
「……あんたとやんのは、まあ、悪くない」……帰り際に彼女が呟いたその言葉は、僕にとって最高難易度の譜面をクリアするよりも、ずっと嬉しいものだった。
夏目 莉緒さんからは、「マキが退院祝いしたいってさ! あんたも来いよ!」と、半ば強引にカラオケに誘われた。
快復したマキさんも一緒で、彼女は僕らに何度も頭を下げて、「本当にありがとう!」と言ってくれた。莉緒さんも、親友の元気な姿を見て、本当に嬉しそうだ。
カラオケでは、莉緒さんが意外なほど歌が上手いことが判明したり、マキさんと一緒にアイドルソングをノリノリで歌ったり踊ったりする姿を見て、普段の彼女とのギャップに驚かされた。やっぱり、仲間たちと過ごす時間は、かけがえのないものだ。
そんな風に、それぞれの仲間との絆を深めながら、僕らは束の間の夏休みを満喫していた。だけど……。
夏の終わりが近づいたある日、アジトに集まった僕らに、ノアが重い口調で告げた。
《……ねえ、みんな。のんびりしてるとこ悪いんだけど……どうも、キナ臭い動きがあるみたいだよ》
ノアが示したデータには、鷲久市のネットワーク全体に、じわじわと広がる微弱なノイズ……マインドワームとは違う、もっと大規模で、計画的な干渉の痕跡が示されていた。
《結城 誠の件で失敗したマインド・イーターが、次の計画……もっとヤバい計画を進めてる可能性がある。夏休みが終わる頃……何か、大きな動きがあるかもしれない》
平穏な時間は、長くは続かなかった。僕らは顔を見合わせる。分かっていたことだ。本当の戦いは、まだ終わっていない。
「……俺たちの夏休みは、まだ終わらない……いや、終わらせない!」
大輝が力強く言う。そうだ。この街を、僕らが守ってきた日常を、そして大切な仲間たちを、マインド・イーターなんかに壊させるわけにはいかない。
僕たちチーム「アーク」は、改めて決意を固めた。来るべき決戦に向けて、僕らは再び立ち上がる。四つの魂を、一つにして。