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第42話 新月の夜、決戦の狼煙

 夜空から月が姿を消した、新月の夜。僕たちチーム「アーク」の四人は、アジトである神社の旧社務所に集まっていた。

 いよいよマインド・イーターの計画実行日……そして、僕らの最終決戦の時が来たのだ。部屋の中には、ランプの頼りない明かりだけが灯り、重たい沈黙と、張り詰めた緊張感が漂っていた。


 テーブルの上に広げられた地図とノアが表示するホログラム情報。鷲久市わしくしの地下深くに存在する旧軍事施設跡……そこが、マインド・イーターの本拠地であり、街全体への大規模な精神干渉マインドハック計画のかなめとなっているらしい。


《セキュリティはかなり厳重。物理的な侵入は難しいけど……一か所だけ、古い管理用ネットワークの|脆弱性《ぜいじゃくせい》を利用して、精神ネットワーク経由でアクセスできるポイントを見つけたよ》


 ノアが、本拠地の構造図にアクセスポイントを示す。


《でも、内部には強力な防衛システム……『番人』と呼ばれる存在がいるはずだ。それに、計画の中心には、おそらく……マインド・イーターの指導者クラスがいる。総力戦になる覚悟はできてる?》


「……ああ。もちろんだ」


 僕の言葉に、大輝、一葉さん、莉緒さんも、力強く頷いた。僕らは、この日のために準備を重ねてきたんだ。アバターの連携訓練、情報収集、そして……心の準備も。


 作戦の最終確認を終え、出発までのわずかな時間、僕らはそれぞれの時間を過ごした。

 僕は、一葉さんと一緒に、誰もいない夜の神社の境内けいだいに出ていた。見上げる空には、月はないけれど、満天の星が輝いている。


「……怖いですか?」


 一葉さんが、隣で静かに尋ねた。


「……怖くない、と言えば嘘になるかな。でも……」僕は、彼女の方を向いて言った。「君たちがいるから、大丈夫だと思える」


 彼女は、僕の言葉に少し驚いたように目を見開き、そして、ふわりと微笑んだ。その笑顔は、夜空の星々よりも綺麗で、僕の不安を優しく溶かしてくれるようだった。


「……私も、同じです。悠人君がいるから……みんながいるから、戦えます」


 彼女は、小さな短冊を取り出し、近くの笹に結び付けた。そこには、『みんなが無事に帰ってこれますように』と、彼女の美しい文字で書かれていた。僕も、心の中で強く、同じことを願った。


 社務所の中では、大輝と莉緒さんが、憎まれ口を叩き合いながらも、どこか互いを励まし合っているようだった。


「おいギャル、足引っ張んじゃねーぞ!」

「はあ!? そっちこそ、脳筋パワーで突っ走りすぎて、勝手にやられんなよ!」

「へっ、誰に向かって言ってんだ!」

「あんたに言ってんだよ!」


 軽口を叩きながらも、その目には互いへの深い信頼の色が浮かんでいる。なんだかんだ言って、この二人も良いコンビなのかもしれない。莉緒さんが、ふと真面目な顔になって、「……まあ、でも、アレだ。……背中は任せた」と呟いたのが聞こえた。大輝も、「おうよ!」と力強く応えている。いいチームになったな、本当に。


 出発の時間が来た。僕たち四人は、アジトを出て、ノアが示した侵入ポイント……街外れにある、今は使われていない古い地下鉄の入り口へと向かった。

 新月の夜は、街灯の明かりだけが頼りだ。僕らの足音だけが、静かな夜の街に響く。

 目的地の入り口は固く閉ざされ鎖が巻かれていた。だが、ノアが僕のスマホを通じてセキュリティを解除すると、重い金属の扉が、きしむような音を立ててゆっくりと開いた。その奥には、暗く、冷たい空気をまとった地下への階段が続いている。


《準備はいい? ここから先は、本当の本当に、何があるか分からないよ。もしかしたら……戻ってこれないかもしれない》


 ノアの、いつになく真剣な声が響く。

 僕らは、互いの顔を見合わせた。不安や恐怖がないわけじゃない。でも、それ以上に強い決意が、僕らの瞳には宿っていた。この街を、日常を、そして大切な仲間たちを守るために。

 僕らは、それぞれのスマホを構え、アバター起動の準備をする。


「行くぞ、みんな!」

「おう!」

「はい!」

「っしゃあ!」


 四人の掛け声が一つになり、夜の闇へと響き渡る。僕たちチーム「アーク」は、マインド・イーターの本拠地へと続く、暗い階段を、今、降り始めた――!


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