夜空から月が姿を消した、新月の夜。僕たちチーム「アーク」の四人は、アジトである神社の旧社務所に集まっていた。
いよいよマインド・イーターの計画実行日……そして、僕らの最終決戦の時が来たのだ。部屋の中には、ランプの頼りない明かりだけが灯り、重たい沈黙と、張り詰めた緊張感が漂っていた。
テーブルの上に広げられた地図とノアが表示するホログラム情報。
《セキュリティはかなり厳重。物理的な侵入は難しいけど……一か所だけ、古い管理用ネットワークの|脆弱性《ぜいじゃくせい》を利用して、精神ネットワーク経由でアクセスできるポイントを見つけたよ》
ノアが、本拠地の構造図にアクセスポイントを示す。
《でも、内部には強力な防衛システム……『番人』と呼ばれる存在がいるはずだ。それに、計画の中心には、おそらく……マインド・イーターの指導者クラスがいる。総力戦になる覚悟はできてる?》
「……ああ。もちろんだ」
僕の言葉に、大輝、一葉さん、莉緒さんも、力強く頷いた。僕らは、この日のために準備を重ねてきたんだ。アバターの連携訓練、情報収集、そして……心の準備も。
作戦の最終確認を終え、出発までのわずかな時間、僕らはそれぞれの時間を過ごした。
僕は、一葉さんと一緒に、誰もいない夜の神社の
「……怖いですか?」
一葉さんが、隣で静かに尋ねた。
「……怖くない、と言えば嘘になるかな。でも……」僕は、彼女の方を向いて言った。「君たちがいるから、大丈夫だと思える」
彼女は、僕の言葉に少し驚いたように目を見開き、そして、ふわりと微笑んだ。その笑顔は、夜空の星々よりも綺麗で、僕の不安を優しく溶かしてくれるようだった。
「……私も、同じです。悠人君がいるから……みんながいるから、戦えます」
彼女は、小さな短冊を取り出し、近くの笹に結び付けた。そこには、『みんなが無事に帰ってこれますように』と、彼女の美しい文字で書かれていた。僕も、心の中で強く、同じことを願った。
社務所の中では、大輝と莉緒さんが、憎まれ口を叩き合いながらも、どこか互いを励まし合っているようだった。
「おいギャル、足引っ張んじゃねーぞ!」
「はあ!? そっちこそ、脳筋パワーで突っ走りすぎて、勝手にやられんなよ!」
「へっ、誰に向かって言ってんだ!」
「あんたに言ってんだよ!」
軽口を叩きながらも、その目には互いへの深い信頼の色が浮かんでいる。なんだかんだ言って、この二人も良いコンビなのかもしれない。莉緒さんが、ふと真面目な顔になって、「……まあ、でも、アレだ。……背中は任せた」と呟いたのが聞こえた。大輝も、「おうよ!」と力強く応えている。いいチームになったな、本当に。
出発の時間が来た。僕たち四人は、アジトを出て、ノアが示した侵入ポイント……街外れにある、今は使われていない古い地下鉄の入り口へと向かった。
新月の夜は、街灯の明かりだけが頼りだ。僕らの足音だけが、静かな夜の街に響く。
目的地の入り口は固く閉ざされ鎖が巻かれていた。だが、ノアが僕のスマホを通じてセキュリティを解除すると、重い金属の扉が、
《準備はいい? ここから先は、本当の本当に、何があるか分からないよ。もしかしたら……戻ってこれないかもしれない》
ノアの、いつになく真剣な声が響く。
僕らは、互いの顔を見合わせた。不安や恐怖がないわけじゃない。でも、それ以上に強い決意が、僕らの瞳には宿っていた。この街を、日常を、そして大切な仲間たちを守るために。
僕らは、それぞれのスマホを構え、アバター起動の準備をする。
「行くぞ、みんな!」
「おう!」
「はい!」
「っしゃあ!」
四人の掛け声が一つになり、夜の闇へと響き渡る。僕たちチーム「アーク」は、マインド・イーターの本拠地へと続く、暗い階段を、今、降り始めた――!