研究者風の男が消えた後、僕たち四人の前に立ちはだかるのは、巨大なカプセルから現れた異形のアバター……いや、あれはアバターというより、冷徹な殺意を宿した
全身を覆う鈍色の装甲、無数に備えられたセンサーらしき赤い光点、そして両腕に装備された、見るからに高出力なエネルギー兵器。マインド・イーターの技術力の結晶、そして彼らの歪んだ『理性』の体現者……それが、この『番人』なのだろう。
『……侵入者を認識。これより排除プログラムを実行する』
感情の欠片もない合成音声と共に、番人はその両腕の兵器を僕らに向けた。無数のエネルギー弾が、雨のように降り注ぐ!
「うわっ!?」
「散開!」
僕たちは
「チッ、硬ぇ上に手数も多いとか、厄介すぎんだろ!」
大輝が壁の影から顔を出し、悪態をつく。
「真正面からぶつかるのは不利ですね……何か、弱点は……?」
一葉さんが冷静に分析しようとするが、番人は休むことなく次の攻撃を仕掛けてくる。今度は、床や壁を伝うように走る、高圧電流のような攻撃だ!
「きゃっ!」
回避が遅れた莉緒さんのアバターが、電流に触れて弾き飛ばされる!
「莉緒!」
「……ってぇな! マジ、ムカつく!」
幸い、大きなダメージはなかったようだが、このままではジリ貧だ。僕のアバターの分析能力も、この番人の前では追いつかない。完璧すぎる計算、隙のない動き……。
《こいつ、たぶん人間のパイロットとかいないよ! 純粋な戦闘AIか、あるいは精神エネルギーで動くゴーレムみたいな感じかも! だから、感情的な揺さぶりとかも効かない!》
ノアの分析が、絶望的な事実を告げる。
「だったら……!」僕は叫んだ。「こっちも、計算ずくで隙を作るしかない!」
「どうやって!?」
「一葉さん! 君の力で、あいつのセンサー……あの赤い目を、一時的に
「え……やってみます!」
一葉さんのアバターが、杖を構えて祈りを込める。すると、番人の無数の赤い光点に向かって、強い浄化の光が放たれた!
『……!? 視覚センサーに異常発生!』
番人の動きが、明らかに鈍った!
「今だ! 大輝、莉緒さん!」
「おうよ!」
「っしゃあ!」
好機と見た二人が、左右から同時に飛び出す! 大輝の炎の拳が、莉緒さんの金色の爪が、番人の装甲に叩きつけられる! ガキン! と硬い音が響くが、それでもまだ、致命傷には至らない。
『……戦闘パターンを再計算。近接戦闘モードへ移行』
番人は、目くらましからすぐに回復すると、今度は両腕の兵器を巨大なブレードに変形させ、猛烈な勢いで回転しながら突っ込んできた!
「うわわっ!」
「避けろ!」
僕たちは必死で回避する。なんて対応力だ……!
《悠人! あいつ、回転攻撃の後、一瞬だけコア……胸のあたりが無防備になる! そこしかない!》
ノアが叫ぶ。分かってる! でも、どうやってあの回転を止める……!?
「……悠人!」
その時、僕を
「俺が受け止める! その隙に、お前があのコアを……!」
「馬鹿! 無茶だ!」
「いいから行け! 俺を……いや、俺たちを信じろ!」
大輝のアバターは、炎のオーラを最大まで高め、回転する番人のブレードに真正面から立ち向かっていく! 凄まじい火花と衝撃! 大輝のアバターが、ミシミシと
「桐生君!」
「大輝!」
一葉さんと莉緒さんも叫ぶ。僕も、アバターの全エネルギーを光の剣に集中させる。大輝が作ってくれた、この一瞬のチャンスを、無駄にはできない!
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
大輝の叫びと共に、番人の回転が僅かに乱れた。僕は、その隙を見逃さなかった。アバターを加速させ、光の剣を構え、一直線に番人の胸のコアへと突っ込む!
『……エラー……エラー……理解不能……ソンナ……感情……ナド…………』
光の剣が、番人のコアを貫いた。番人は、最後に意味不明な言葉を発すると、その動きを完全に停止させ、やがて内部から爆発するように、光の粒子となって消滅していった。
後に残ったのは、激しい戦闘の痕跡と、僕たち四人の荒い息遣いだけだった。
「……やった……のか……?」
「……やった……みてぇだな……」
大輝のアバターが、ボロボロになりながらも、親指を立ててみせる。僕は、彼に駆け寄り、その肩を支えた。
「無茶しやがって……!」
「へへ……相棒だろ?」
莉緒さんと一葉さんも、安堵の表情で駆け寄ってくる。
「
「でも……すごかったです、二人とも……!」
僕らは、互いの無事を確認し合い、改めて仲間がいることの心強さを噛み締めていた。
番人が守っていた扉が、ゆっくりと開いていく。その奥には、さらに深くへと続く通路が見えた。マインド・イーターの指導者が待つ、本拠地の核心部へ……。
僕たちは頷き合い、疲れた身体に鞭打って、再び歩き始めた。本当の戦いは、まだこれからだ。