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第44話 鉄壁の番人《ガーディアン》、四重奏《カルテット》の突破口《ブレイクスルー》

 研究者風の男が消えた後、僕たち四人の前に立ちはだかるのは、巨大なカプセルから現れた異形のアバター……いや、あれはアバターというより、冷徹な殺意を宿した戦闘機械マシーンに近い。


 全身を覆う鈍色の装甲、無数に備えられたセンサーらしき赤い光点、そして両腕に装備された、見るからに高出力なエネルギー兵器。マインド・イーターの技術力の結晶、そして彼らの歪んだ『理性』の体現者……それが、この『番人』なのだろう。


『……侵入者を認識。これより排除プログラムを実行する』


 感情の欠片もない合成音声と共に、番人はその両腕の兵器を僕らに向けた。無数のエネルギー弾が、雨のように降り注ぐ!


「うわっ!?」

「散開!」


 僕たちは咄嗟とっさに散開し、物陰に隠れて攻撃をやり過ごす。なんて火力だ……!


「チッ、硬ぇ上に手数も多いとか、厄介すぎんだろ!」


 大輝が壁の影から顔を出し、悪態をつく。


「真正面からぶつかるのは不利ですね……何か、弱点は……?」


 一葉さんが冷静に分析しようとするが、番人は休むことなく次の攻撃を仕掛けてくる。今度は、床や壁を伝うように走る、高圧電流のような攻撃だ!


「きゃっ!」


 回避が遅れた莉緒さんのアバターが、電流に触れて弾き飛ばされる!


「莉緒!」

「……ってぇな! マジ、ムカつく!」


 幸い、大きなダメージはなかったようだが、このままではジリ貧だ。僕のアバターの分析能力も、この番人の前では追いつかない。完璧すぎる計算、隙のない動き……。


《こいつ、たぶん人間のパイロットとかいないよ! 純粋な戦闘AIか、あるいは精神エネルギーで動くゴーレムみたいな感じかも! だから、感情的な揺さぶりとかも効かない!》


 ノアの分析が、絶望的な事実を告げる。


「だったら……!」僕は叫んだ。「こっちも、計算ずくで隙を作るしかない!」

「どうやって!?」

「一葉さん! 君の力で、あいつのセンサー……あの赤い目を、一時的にくらませることはできるか!?」

「え……やってみます!」


 一葉さんのアバターが、杖を構えて祈りを込める。すると、番人の無数の赤い光点に向かって、強い浄化の光が放たれた!


『……!? 視覚センサーに異常発生!』


 番人の動きが、明らかに鈍った!


「今だ! 大輝、莉緒さん!」

「おうよ!」

「っしゃあ!」


 好機と見た二人が、左右から同時に飛び出す! 大輝の炎の拳が、莉緒さんの金色の爪が、番人の装甲に叩きつけられる! ガキン! と硬い音が響くが、それでもまだ、致命傷には至らない。


『……戦闘パターンを再計算。近接戦闘モードへ移行』


 番人は、目くらましからすぐに回復すると、今度は両腕の兵器を巨大なブレードに変形させ、猛烈な勢いで回転しながら突っ込んできた!


「うわわっ!」

「避けろ!」


 僕たちは必死で回避する。なんて対応力だ……!


《悠人! あいつ、回転攻撃の後、一瞬だけコア……胸のあたりが無防備になる! そこしかない!》


 ノアが叫ぶ。分かってる! でも、どうやってあの回転を止める……!?


「……悠人!」


 その時、僕をかばうように前に出た大輝が叫んだ。


「俺が受け止める! その隙に、お前があのコアを……!」

「馬鹿! 無茶だ!」

「いいから行け! 俺を……いや、俺たちを信じろ!」


 大輝のアバターは、炎のオーラを最大まで高め、回転する番人のブレードに真正面から立ち向かっていく! 凄まじい火花と衝撃! 大輝のアバターが、ミシミシときしむ音を立てている!


「桐生君!」

「大輝!」


 一葉さんと莉緒さんも叫ぶ。僕も、アバターの全エネルギーを光の剣に集中させる。大輝が作ってくれた、この一瞬のチャンスを、無駄にはできない!


「いっけぇぇぇぇぇっ!!」


 大輝の叫びと共に、番人の回転が僅かに乱れた。僕は、その隙を見逃さなかった。アバターを加速させ、光の剣を構え、一直線に番人の胸のコアへと突っ込む!


『……エラー……エラー……理解不能……ソンナ……感情……ナド…………』


 光の剣が、番人のコアを貫いた。番人は、最後に意味不明な言葉を発すると、その動きを完全に停止させ、やがて内部から爆発するように、光の粒子となって消滅していった。


 後に残ったのは、激しい戦闘の痕跡と、僕たち四人の荒い息遣いだけだった。


「……やった……のか……?」

「……やった……みてぇだな……」


 大輝のアバターが、ボロボロになりながらも、親指を立ててみせる。僕は、彼に駆け寄り、その肩を支えた。


「無茶しやがって……!」

「へへ……相棒だろ?」


 莉緒さんと一葉さんも、安堵の表情で駆け寄ってくる。


本当マジ、心臓止まるかと思ったっつーの!」

「でも……すごかったです、二人とも……!」


 僕らは、互いの無事を確認し合い、改めて仲間がいることの心強さを噛み締めていた。

 番人が守っていた扉が、ゆっくりと開いていく。その奥には、さらに深くへと続く通路が見えた。マインド・イーターの指導者が待つ、本拠地の核心部へ……。

 僕たちは頷き合い、疲れた身体に鞭打って、再び歩き始めた。本当の戦いは、まだこれからだ。


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