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第46話 絶望の|序曲《プレリュード》、希望の反撃《カウンター》

 マインド・イーターの指導者が、その禍々《まがまが》しいアバターの力を解放した瞬間、僕たちを取り巻く空間そのものが悲鳴を上げたようにゆがんだ。

 凄まじいプレッシャーが、僕たち四人のアバターを、そして精神そのものを押しつぶさんと襲いかかる!


『さあ、始めようか。旧世界の終焉しゅうえんと、新世界の誕生を告げる、最後の楽章を』


 指導者のアバター――「オリジン」とでも呼ぼう。その根源的な悪意を感じさせる存在は、無数の黒いエネルギー球を僕らに向かって放ってきた。一つ一つが、並のマインドワームなど比較にならないほどの破壊力を持っている!


「くっ……!」

「避けろ!」


 僕たちは必死で回避、あるいは防御するが、その数はあまりにも多い。アバターの装甲が削られ、僕らの精神にも直接的なダメージが蓄積していく。

 それだけじゃない。オリジンは、この精神ネットワークの中枢から、僕たちの心の弱さに直接語りかけてくるのだ。


『桐生 大輝……お前のその熱血も、所詮は劣等感の裏返しだろう?』

『夏目 莉緒……お前が守ろうとしている絆など、もろく、すぐに壊れるものだ』

『水瀬 一葉……お前のその力も、いずれ人々からうとまれ、孤独をもたらすぞ』

『そして、来栖 悠人……お前は、また逃げるのか? 大切なものを、守りきれずに……』

「うるさいっ!!」


 僕らは、その精神攻撃に耐えながら必死に反撃を試みる。大輝の炎が、莉緒さんの爪が、僕の光線銃が、一葉さんの浄化の光が、オリジンへと放たれる。だが……。


『……無駄だ』


 オリジンは、僕らの攻撃を、まるで取るに足らないもののように、最小限の動きで弾き、あるいは吸収してしまう。次元が違う……! これまでの敵とは、何もかもが……!


《悠人! こいつ、精神ネットワークのエネルギーを直接吸い上げて、自分の力にしてる! 普通の攻撃じゃ……!》


 ノアの声も、敵の強力な干渉を受けて、途切れがちになっている。まずい……このままじゃ、本当に……!


 オリジンの放った強力な一撃が、僕のアバターを直撃した。視界が真っ白になり、意識が遠のきかける。仲間たちの悲鳴が、どこか遠くに聞こえる……。


(ダメだ……ここまでなのか……?)


 諦めかけた、その時だった。


「悠人! しっかりしろ!」


 大輝の声。ボロボロになりながらも、彼はまだ立っていた。


「あんたが諦めてどうすんだよ! リーダーだろ!」


 莉緒さんも、傷つきながら僕を睨みつけている。


「来栖君……! 私たちが……ついています!」


 一葉さんの、祈るような声と、温かい回復の光が、僕の身体からだを包み込む。

 そうだ……僕は、一人じゃない。みんながいる。みんなが、諦めていない!

 守りたいものがある。取り戻したい日常がある。一緒に笑い合いたい仲間がいる!

 僕の心の奥底から、新たな力が、熱い想いがあふれ出してくるのを感じた。それは、僕一人だけの力じゃない。大輝の熱さ、一葉さんの優しさ、莉緒さんの強さ……そして、これまで出会ってきた全ての人たちの想いが、僕のアバターに流れ込んでくるような感覚。


「うおおおおぉぉぉっ!!」


 僕のアバターが、これまでにないほどのまばゆい光を放った! その姿は、以前よりもさらに洗練され、力強く、そして……どこまでも優しい光をまとっている。背中の光の翼が、大きく広がる。


『……なにぃ!? その力は……!?』


 オリジンが、初めて驚愕きょうがくの声を上げた。


《……悠人! 今だよ! あいつのコア……精神ネットワークとの接続部分が、一瞬だけ無防備になってる! みんなの力を、一つに合わせるんだ!》


 ノアの声が、クリアに響く!


「みんな、行くぞ!」


 僕の呼びかけに、三人が力強く頷く!


「おう!」

「はい!」

「っしゃあ!」


 僕のアバターが光の剣を構え、大輝のアバターが炎の拳を燃え上がらせ、莉緒さんのアバターが金色のオーラを纏い、一葉さんのアバターが最大限の浄化の力を杖に込める。


 四つの魂が、四つのアバターが、一つになる!


「これが……!」

「俺たちの!」

「私たちの!」

「ウチらの!」


「「「絆の力だぁぁぁっ!!!」」」


 四つの力が合わさり、巨大な希望の光の奔流ほんりゅうとなって、オリジンへと放たれた! それは、歪んだ秩序を打ち破り、人間の持つ感情の輝き……その全てを肯定するような、温かくて、力強い光だった。


『馬鹿な……感情などが……この私を……!? ありえ……ない…………』


 オリジンは、光に飲み込まれながら、信じられないというように呟き、その姿が徐々にき消えていく……!


 やったのか……!? 僕らが、勝ったのか……!? だが、オリジンが完全に消滅する寸前、その口元が、確かに歪んだ笑みを浮かべたのを、僕は見逃さなかった。


『……フフ……フハハハ……これで……『完成』、だ……』


 え……? 完成……? いったい、何が……?

 僕らが困惑する中、オリジンは完全に消滅した。しかし、彼の最後の言葉と、あの不気味な笑顔が、僕の心に重たい予感を残していた。


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