僕は屋上の扉から出ると、勢いよく階段を降りた。外はすっかり暗くなり、月明かりが窓から差し込んで廊下には銀色の光が落ちている。その光が、まるで僕が涙で曇った世界を映しているかのようだった。
校内はしんと静まり返っていて、僕が階段を降りる音と外を吹き抜ける風の音だけがこだましている。僕は必死に階段を駆け降りた。
「はぁ、はぁ……」
足が震えて、何度もつまずきそうになる。必死に足を前に出して、学校から離れたかった。もう二度と礼央と顔を合わせられない。このまま消えてしまいたい。
「凪っ! 待ってくれ!」
後ろから礼央が追ってくる。僕は礼央に追い付かれないように、必死に逃げた。靴を下駄箱から乱雑に取り出し、校舎から抜け出した。
――もう終わりだ! 全て台無しにしてしまった。こんな気持ち知られたら、もう……。
冷たい夜風が涙に濡れた僕の頬を撫でた。星空が僕の上に広がっているのに、暗闇に落ちていくような感覚だった。
「凪っ!」
すぐ後ろに礼央が迫ってきているのか、近くで声が聞こえた。
「もう……! やめてよっ!」
僕は後ろを振り向くことなく、叫んだ。その時、とうとうガシッと腕を掴まれ無理やり後ろを向かされた。
「凪っ! 話を最後まで……」
勢いよく体を反転させられて、お互いの足が絡み合った。勢い余って抱き合うような形で地面に倒れ込み、僕の上に礼央が覆い被さった。
「……っ!」
目を開けたら、唇が触れそうな距離に礼央の顔があった。心臓がバクバクと音を立てて耳がうるさい。彼の呼吸が僕の頬に触れ、その温かさを感じる。時間が止まったように、二人はただそのままの姿勢で見つめ合っていた。
「いてて……。ごめん、大丈夫?」
地面に転がっているお互いの姿に、礼央の表情は和らいだ。しかし僕の表情は相変わらず硬いままだった。頬を伝う涙を隠すことができない。
礼央は僕の肩を掴み、真剣な表情で言った。彼の瞳には決意のようなものが宿っていた。
「凪、聞いてくれ。俺が……、俺が紗奈と別れたのは……」
礼央の言葉が詰まり、喉仏が上下した。僕はその真剣な表情に息を呑んだ。
「……凪のことを……考えてしまうからなんだ……」
僕はその言葉が信じられなくて、思わず目を見開いて礼央を見つめた。心臓が跳ね上がるような衝撃と共に、体中から力が抜けていく。
「……えっ?」
礼央は少し頬を赤くして続けた。月明かりの下でさえ、その赤みが分かるほどだった。
「変だよな……。俺も最初は戸惑ったんだ。でも……。凪と一緒にいると、心が安らぐんだよ……」
僕はじっと礼央の瞳を見つめた。彼の目には、迷いと、勇気と、そして何か温かいものが溢れていた。それは僕の中にある感情と同じものなのかもしれない。