蓮に本心を打ち明けてから、彼はコソコソと何かを企んでいるように見えた。いつもなら馴れ馴れしく肩を組んできたり、ギュッと抱きしめたりしてくるスキンシップも、最小限になったような気がする。
――蓮、何をしているんだろう?
今までと違う幼馴染の行動に違和感を覚えながらも、僕の心は少しずつ軽くなっていた。ただ、礼央と向き合うことだけは、まだできずにいる。連絡を取る勇気が出ないのだ。
このままではいけないということは分かっている。まずは礼央を傷つけてしまったことを謝って、それから体調のことを聞いて……。
頭の中で何度もリハーサルをしてみるが、まだ実際の行動に移せないでいた。
「なぎっち!」
僕が必死に思考を巡らせていると、蓮が声をかけてきた。
「蓮、どうしたの?」
僕は眉間に皺を寄せながら、蓮の方を振り返った。
「なんだよ、その険しい顔……。何か悩みでもあるのか?」
「いや、そういうわけでは……」
僕がもごもごと口ごもると、蓮はハハッと笑った。
「いいじゃないか。真剣に考えるってことは、前向きな証拠だからな」
そう言って、僕の頭をくしゃくしゃと撫でてきた。そんな蓮を、僕は上目遣いで見つめた。
「そうそう。今日、なぎっちのこと校門で待ってる人がいるぞ」
突然の蓮の言葉に、僕は首を傾げた。
「……誰?」
「行けば分かるって」
蓮は意味深な笑顔を僕に向けてきた。
「ほら、早く行けよ」
蓮に促されるように、僕は帰り支度をして校舎を出た。外は空気が冷たく、雪がちらちらと舞っている。
僕は誰が待っているのか分からないまま、校門へ向かった。だが、門が見えてきた時、自然と足が止まった。校門の脇にある大きな木の下に、人影が見える。マフラーに顔を埋めているが、その人の後ろ姿は遠くからでも誰だか分かった。
僕はゆっくりと、その人の元へ近づいた。
「……礼央」
名前を呼ぶと、彼はゆっくりと振り返った。鼻と耳が寒さで真っ赤になっている。頬も冷気で紅潮していた。
しばらく沈黙が続いた後、僕は口を開いた。
「もう、風邪は……大丈夫?」
ようやく絞り出した言葉がそれだった。礼央は嬉しそうに微笑んで、小さく頷いた。
「うん。もう平気だよ」
ぎこちない会話。礼央に伝えたいことが山ほどあるのに、言葉が出てこない。でも、僕は自分の人生を歩むと決めたんだ。意を決して口を開いた。
「あのね」
「あのさ」
二人同時に口を開いてしまい、慌てて言葉を止める。お互い見つめ合ってしまった。
「ごめん、先に……」
「ごめん、先に言ってよ」
また同時に言葉を発してしまう。僕と礼央はお互いを見つめ合い、そして同時にぷっと吹き出した。
「あはは」
「あー、なんだよこれ!」
礼央はお腹を抱えて大笑いした。涙が出るほど二人で笑った後、僕は礼央を見つめて言った。
「明日……話がある」
僕は勇気を振り絞って言った。雪がしんしんと降り続いている。
「俺も……話したいことがある」
礼央の瞳に、少しずつ希望の光が戻ってきたように見えた。
「じゃあ、明日……屋上で」
「ああ、待ってる」
別れ際、礼央が微笑んだ。その笑顔を見て、僕の心に積もっていた雪が、ゆっくりと溶けていくような気がした。
そして僕は、明日という日を心待ちにしながら、雪の降る道を歩いて帰った。自分の未来は、もう目の前に広がっている。それを選び取るのは、僕自身の勇気次第なのだ。