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8-5

 蓮に本心を打ち明けてから、彼はコソコソと何かを企んでいるように見えた。いつもなら馴れ馴れしく肩を組んできたり、ギュッと抱きしめたりしてくるスキンシップも、最小限になったような気がする。


 ――蓮、何をしているんだろう?


 今までと違う幼馴染の行動に違和感を覚えながらも、僕の心は少しずつ軽くなっていた。ただ、礼央と向き合うことだけは、まだできずにいる。連絡を取る勇気が出ないのだ。


 このままではいけないということは分かっている。まずは礼央を傷つけてしまったことを謝って、それから体調のことを聞いて……。


 頭の中で何度もリハーサルをしてみるが、まだ実際の行動に移せないでいた。


「なぎっち!」


 僕が必死に思考を巡らせていると、蓮が声をかけてきた。


「蓮、どうしたの?」


 僕は眉間に皺を寄せながら、蓮の方を振り返った。


「なんだよ、その険しい顔……。何か悩みでもあるのか?」


「いや、そういうわけでは……」


 僕がもごもごと口ごもると、蓮はハハッと笑った。


「いいじゃないか。真剣に考えるってことは、前向きな証拠だからな」


 そう言って、僕の頭をくしゃくしゃと撫でてきた。そんな蓮を、僕は上目遣いで見つめた。


「そうそう。今日、なぎっちのこと校門で待ってる人がいるぞ」


 突然の蓮の言葉に、僕は首を傾げた。


「……誰?」


「行けば分かるって」


 蓮は意味深な笑顔を僕に向けてきた。


「ほら、早く行けよ」


 蓮に促されるように、僕は帰り支度をして校舎を出た。外は空気が冷たく、雪がちらちらと舞っている。


 僕は誰が待っているのか分からないまま、校門へ向かった。だが、門が見えてきた時、自然と足が止まった。校門の脇にある大きな木の下に、人影が見える。マフラーに顔を埋めているが、その人の後ろ姿は遠くからでも誰だか分かった。


 僕はゆっくりと、その人の元へ近づいた。


「……礼央」


 名前を呼ぶと、彼はゆっくりと振り返った。鼻と耳が寒さで真っ赤になっている。頬も冷気で紅潮していた。


 しばらく沈黙が続いた後、僕は口を開いた。


「もう、風邪は……大丈夫?」


 ようやく絞り出した言葉がそれだった。礼央は嬉しそうに微笑んで、小さく頷いた。


「うん。もう平気だよ」


 ぎこちない会話。礼央に伝えたいことが山ほどあるのに、言葉が出てこない。でも、僕は自分の人生を歩むと決めたんだ。意を決して口を開いた。


「あのね」

「あのさ」


 二人同時に口を開いてしまい、慌てて言葉を止める。お互い見つめ合ってしまった。


「ごめん、先に……」

「ごめん、先に言ってよ」


 また同時に言葉を発してしまう。僕と礼央はお互いを見つめ合い、そして同時にぷっと吹き出した。


「あはは」


「あー、なんだよこれ!」


 礼央はお腹を抱えて大笑いした。涙が出るほど二人で笑った後、僕は礼央を見つめて言った。


「明日……話がある」


 僕は勇気を振り絞って言った。雪がしんしんと降り続いている。


「俺も……話したいことがある」


 礼央の瞳に、少しずつ希望の光が戻ってきたように見えた。


「じゃあ、明日……屋上で」


「ああ、待ってる」


 別れ際、礼央が微笑んだ。その笑顔を見て、僕の心に積もっていた雪が、ゆっくりと溶けていくような気がした。


 そして僕は、明日という日を心待ちにしながら、雪の降る道を歩いて帰った。自分の未来は、もう目の前に広がっている。それを選び取るのは、僕自身の勇気次第なのだ。


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