美弥(みや)はあっという間に寝てしまった。寝息を立てている。
麗(れい)は、はじめて訪れた家で他人の布団のなかグーグー眠りにつける美弥の神経の図太さにちょっと引いた。(それくらいのメンタルがなければ、スーツアクターはつとまらないともいえるのか?)なんて思ってみたりもした。
麗は、こういう時は気分を落ち着かせようと、低反発抱き枕を取りに行き、再び布団に戻った。
母親のお腹にいる時の赤ちゃんのように、身を丸くすると入眠効果があると聞いたことがある。麗は抱き枕をギューッと抱いた。
しばらくは違和感に気づかなかった。
だが、しばらくして気づく。(かたい?)。
こわごわという思いで、麗が低反発抱き枕を見てみる。それが低反発抱き枕であれ、と念じながら。
!!
常夜灯の薄明かりでも、わかる。低反発抱き枕に目があるのだ。いや、そんなことあるわけないではないか、と思いつつ、だが、目を逸らすことが出来ない。そして、だんだんと目以外の部分を視界に捉える事ができた。
(ポ、ポンピラン!?)
そう。低反発抱き枕が愛くるしいポンピランの着ぐるみに変わっていたのだ。
必死で、ポンピランの着ぐるみを突き飛ばす。
「ねえ、ちょっと」
麗は、美弥を起こそうと彼女の体を揺する。
「ど、どうしたの…?」
美弥が目を覚ました。まぶたをゴシゴシとこすりながら、怪訝な顔をしている。
「い、いや、今、抱き枕がポンピランになってたの!!」
「ポンピラン?」
美弥は首を傾げる。
麗が部屋を見回すと、ポンピランの着ぐるみなんていうものはどこにも見当たらない。美弥は不思議そうだ。
「麗。疲れてるんだよ。寝よ、寝よー」
麗は思った。(なんだ…。寝ぼけて勘違いしただけか。そのまま眠りに入れてしまえばよかったのに…)
「あ。そうだ」と美弥が言った。
「これ、被ったまま寝てたら変だよね」
そう言いながら、美弥は、自分の頭部を取り外した。
と、頭部を取り外した!?
まるで、美弥その人が着ぐるみそのものであるかのように。美弥は首を取り外したのだった。
……。なるほど。さすがに、夢。いや、これは夢だわ。
そうであることを信じて、麗は、布団の中で身を縮めた。
「あれー。パンポンピンの頭どこー?」
見ると、美弥の首から下の体が、傍に置いた自分の首を探している。
首を探す手がドンドンと床を叩くのが実に薄気味悪い。
い、いやーっ!?
※
「麗さん。麗さん」
麗は体を揺すられて目を覚ました。もう朝のようだ。
美弥が平気な顔をして麗の顔を覗き込んでいる。
「どうします?今日は休みましょうか?」
良かった。さっきのは悪夢。どう考えてもたちの悪い悪夢。
「ねえ、麗さん。なんで、脱がないんですか?」
「え?」
「ポンピランの頭つけたままで変ですよー!」
そう言って、美弥は麗の首を両手で触ってきた。
「ポンピランの頭とらないと、被ったままじゃキツイですよー」
「ち、違うの。これは、私の頭なの!今はポンピランの着ぐるみなんか着てない!」
見ると、美弥ではなかった。ポンピランの頭を被った何者かが、麗の頭を脱がそうとしていた。
着ぐるみの頭じゃないんだ。人の頭なんか、脱がせられるわけがない!!
あ。なーんだ。また夢か……。さすがに夢。ていうか、体調悪い時くらい良い夢見させてよー!
と麗は誰かに念じた。
く、くるしい……
【つづく】