ドアを叩く音がした時、宗一はフロアスタンドの前に立ち、指先のタバコはすでに燃え尽きかけていた。
彼がドアを開けると、羽瀬川尚人がドア枠に寄りかかりながら、琥珀色のウイスキーグラスを手にしていた。
「お前、惟成を殴ったって?」
尚人は眉を上げ、グラスを差し出した。
宗一は酒が好きではなかった。
普段は茶しか飲まないが、今、胸の中に渫巻く感情を麻痺させる何かが必要だった。
彼はグラスを受け取り、一気に飲み干した。
喉を焼くような強い酒の感覚は、朱音と惟成が絡み合う姿を見た時の窒息感と酷似していた。
「あいつは朱音と……やろうとしてた。……あの光景には耐えられなかった」
宗一の声はひどくかすれていた。
尚人は突然笑ったが、瞳には氷が張り詰めていた。
「新鮮だな。六年も経って、今さら?」
アルコールが効き始め、宗一はドア枠に手をかけ、抑えていた感情が突然決壊した。
「尚人……私、君の妹のことが……好きかもしれない。
今回も、最初は自分の気持ちがわからなかった……ただ、家に彼女がいないとダメだと思っただけ。
でもここ数日、あいつと久我が……!」
彼は脈打つこめかみを押さえた。
「梨花を他の男に渡すことはできたのに……
朱音が他の男と一緒になるのは、どうしても受け入れられない」
宗一が顔を上げると、目は血走っていた。
「多分……ずっと前から好きだったんだ。ただ……」
「ただ、お前がクズなだけだ」
尚人が冷たく遮った。
「ああ……君の言う通りだ。後悔している……助けてくれ。これまでのことは、残りの人生で償う……」
尚人は長い間黙り込み、宗一はもう返事がないと思った頃、ようやく口を開いた。
「まずは寝ろ」
彼は振り返り、去り際に言った。
ドアが閉まり、宗一はベッドに横たわったが、寝返りを打ち続けた。
天井の模様はアルコールの作用で歪み、朱音と久我が絡み合う幻影に変わった。
彼は猛然と起き上がった時、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。
ドアの隙間から煙が流れ込み、外では慌ただしい足音と叫び声がした。
「火事だ!逃げて!」
炎の光がカーテンを赤く染め、宗一は急いで立ち上がろうとしたが、手足に力が入らない。
あの酒に何か仕込まれていた……!
羽瀬川尚人か……?
なぜ薬を?
その事実に全身が凍りついたが、彼の頭を支配したのはただ一つの思いだった。
――朱音を助けなきゃ!
全身の力を振り絞ってドアを蹴破ると、熱風が顔を襲った。
廊下はすでに火の海で、煙がむせ返るように喉を灼いた。
熱で歪んだ空気の向こう、朱音が同じく力の抜けた惟成を支え、非常階段へと移動している姿が見えた。
「あ、朱音……!」
彼の声はパチパツと燃え盛る炎にかき消された。
だが、朱音は聞こえたらしく、振り向いたのは――
宗一がこれまで見た中で、最も冷たい視線だった。
彼女は再び前を向き、歩き続けた。炎が裾を舐め上げる中。
「朱音……!」
今度は、振り返りさえしなかった。
宗一は追いかけようとしたが、よろめいて膝をついた。
頭上で木製の梁が軋み、烈火をまとって崩れ落ちてくる。
梁が轟音と共に落下し、彼は避ける力もなかった。
意識が遠のく直前、あの事件をふと思い出した。
――御門梨花と同時に爆弾を付けられた時、彼も迷わず梨花を選んだ。
あの時の羽瀬川朱音は、今の自分と同じように……
……苦しんでいたのか?
「……ごめん」
炎が、彼の償いを飲み込んだ。