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第19話

ドアを叩く音がした時、宗一はフロアスタンドの前に立ち、指先のタバコはすでに燃え尽きかけていた。


彼がドアを開けると、羽瀬川尚人がドア枠に寄りかかりながら、琥珀色のウイスキーグラスを手にしていた。


「お前、惟成を殴ったって?」

尚人は眉を上げ、グラスを差し出した。


宗一は酒が好きではなかった。

普段は茶しか飲まないが、今、胸の中に渫巻く感情を麻痺させる何かが必要だった。


彼はグラスを受け取り、一気に飲み干した。

喉を焼くような強い酒の感覚は、朱音と惟成が絡み合う姿を見た時の窒息感と酷似していた。


「あいつは朱音と……やろうとしてた。……あの光景には耐えられなかった」

宗一の声はひどくかすれていた。


尚人は突然笑ったが、瞳には氷が張り詰めていた。

「新鮮だな。六年も経って、今さら?」


アルコールが効き始め、宗一はドア枠に手をかけ、抑えていた感情が突然決壊した。

「尚人……私、君の妹のことが……好きかもしれない。

 今回も、最初は自分の気持ちがわからなかった……ただ、家に彼女がいないとダメだと思っただけ。

 でもここ数日、あいつと久我が……!」


彼は脈打つこめかみを押さえた。

「梨花を他の男に渡すことはできたのに……

 朱音が他の男と一緒になるのは、どうしても受け入れられない」


宗一が顔を上げると、目は血走っていた。

「多分……ずっと前から好きだったんだ。ただ……」

「ただ、お前がクズなだけだ」


尚人が冷たく遮った。

「ああ……君の言う通りだ。後悔している……助けてくれ。これまでのことは、残りの人生で償う……」


尚人は長い間黙り込み、宗一はもう返事がないと思った頃、ようやく口を開いた。


「まずは寝ろ」

彼は振り返り、去り際に言った。


ドアが閉まり、宗一はベッドに横たわったが、寝返りを打ち続けた。

天井の模様はアルコールの作用で歪み、朱音と久我が絡み合う幻影に変わった。


彼は猛然と起き上がった時、焦げ臭い匂いが鼻を突いた。

ドアの隙間から煙が流れ込み、外では慌ただしい足音と叫び声がした。


「火事だ!逃げて!」


炎の光がカーテンを赤く染め、宗一は急いで立ち上がろうとしたが、手足に力が入らない。


あの酒に何か仕込まれていた……!

羽瀬川尚人か……?

なぜ薬を?


その事実に全身が凍りついたが、彼の頭を支配したのはただ一つの思いだった。

――朱音を助けなきゃ!


全身の力を振り絞ってドアを蹴破ると、熱風が顔を襲った。

廊下はすでに火の海で、煙がむせ返るように喉を灼いた。


熱で歪んだ空気の向こう、朱音が同じく力の抜けた惟成を支え、非常階段へと移動している姿が見えた。


「あ、朱音……!」


彼の声はパチパツと燃え盛る炎にかき消された。

だが、朱音は聞こえたらしく、振り向いたのは――

宗一がこれまで見た中で、最も冷たい視線だった。


彼女は再び前を向き、歩き続けた。炎が裾を舐め上げる中。

「朱音……!」

今度は、振り返りさえしなかった。


宗一は追いかけようとしたが、よろめいて膝をついた。

頭上で木製の梁が軋み、烈火をまとって崩れ落ちてくる。


梁が轟音と共に落下し、彼は避ける力もなかった。


意識が遠のく直前、あの事件をふと思い出した。

――御門梨花と同時に爆弾を付けられた時、彼も迷わず梨花を選んだ。


あの時の羽瀬川朱音は、今の自分と同じように……

……苦しんでいたのか?


「……ごめん」


炎が、彼の償いを飲み込んだ。



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