僕は村役場に掛け合い工事の中断ができないかと詰め寄った。そして村の家々を回ってリゾート計画反対の署名を募ったが反応は悪かった。『賢治、村はリゾート計画には賛成なんじゃよ』おじいちゃんは蕎麦を打ちながら声を落とした。
「どうして!あんなに貴船様を大事にしていたのに!」
「今の村を救うにはそれしかないのよ・・・」
母は申し訳なさそうに目を伏せた。
「貴船様を壊すわけじゃないんじゃ、移動するだけなんじゃ」
祖父は眉を下げて口篭った。
「おじいちゃんは賛成なの!?」
母と祖父は黙り込んでしまった。子どもの頃、一緒に千羽鶴を供えた日を思い出し、胸が締め付けられた。けれど、特に目立った産業もない村の人口は目減りするばかりで、傷んだ村道を直すことも出来ないほど財政的にも困窮していた。賢治は絶望を抱いて貴船様へと向かった。
「ホコラーごめん。僕ひとりじゃなにも出来なかったよ」
するとクククと笑い声と一緒に祠の扉がガタガタと鳴った。それはまるで、『ありがとう』と言っているようだった。僕は声が震え、祠に額を付けて泣いた。すると細い指が賢治の頭を撫でた。
(やっぱり、用水路に落ちた僕を助けてくれたのはホコラーだったんだね)
手首の4本の痕がチクチク疼き、(ホコラー、ずっと僕を守ってくれる?)と涙ながらに思った。