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第3章:生徒会長は今日も甘えたい (00)

「おかしい……どう考えてもおかしい……」


 昼休みの生徒会室で、蒼馬は資料の山に埋もれかけていた。


「なぜ、俺が“臨時生徒会補佐”なんて任命されてるんだ?」


「理由は簡単よ」


 ソファ席からぬるっと近づいてきたのは、赤い腕章を誇らしげにつけた――香澄。


「君が最近、“変人系女子との親和性”で学内ランキングトップだからよ。これは実績重視の抜擢!」


「ふざけてんのか、それとも本気で言ってるのか、判断に困る……」


「どっちもよ」


 香澄は真顔で答え、書類をバンッと机に叩きつけた。


「この資料、まとめて入力しといて。終わったらチョコレートと抱き枕もってきて」


「指示の落差すごくない!?」


「生徒会長ってね、ストレスたまるのよ。日々、責任と期待の圧力に押し潰されながら頑張ってるの。だから、ここではわがまま言わせて」


「じゃあせめて“飴ちゃんちょうだい”くらいにしとけよ……」


「それは放課後ね♪」


 蒼馬は深くため息をついた。

 香澄は生徒会長らしく、とにかく仕事が早くて正確。だが、その反動で“プライベート香澄”の壊れっぷりは目を見張るものがあった。


「どうせ暇してたんでしょ?」


「……まあ、否定はしない」


「だったら協力して。私はあなたがやる気を出してくれると、助かるの。あと、褒めてくれると、すごくうれしいの」


「そんなに褒めてほしいなら、“ワンちゃん”って呼べばいい?」


「呼んでいいわよ? “香澄ちゃん、えらいね〜♡”って」


「……やっぱり、やめておく」


 その瞬間、生徒会室のドアがノックもなしに開いた。


「蒼馬、逃げるなら今だぞ」


 入ってきたのは、顔を出した元気と、すぐ後ろに絃葉と香。


「君ら、なんでここに……」


「心配になって見に来た。だってこの部屋、変なオーラ出てるし」


「ええ、私も感じました。ご主人様の運気が“甘ったれた支配”に包まれていると」


「今すぐ浄化しろ、それ」


 香澄は立ち上がって、少しだけ寂しそうに口を尖らせた。


「ふぅん……みんなが来ると、甘えられなくなるなぁ」


「あたりまえだろ。なんで俺が甘やかし担当みたいになってんだよ」


「だって……あなただけは、私を“しっかり者じゃない私”として見てくれるから」


 その言葉に、少しだけ蒼馬は言葉を失った。


 いつも堂々としていて、どこか姉御肌で、誰にも頼らないイメージの香澄。

 でも――もしかしたらその仮面の下には、誰にも見せられない弱さを隠していたのかもしれない。


「……いいよ、やるよ。資料入力くらい」


「えっ、ほんと? すごいすごい! さっすが私の補佐♪ じゃあ、お礼にギュッてしてあげる!」


「やっぱナシだわ」


「え〜〜〜〜〜〜〜っ!?」


 生徒会室の騒がしさは、今日も収まる気配を見せなかった。


 つづく(01)>>

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