「おかしい……どう考えてもおかしい……」
昼休みの生徒会室で、蒼馬は資料の山に埋もれかけていた。
「なぜ、俺が“臨時生徒会補佐”なんて任命されてるんだ?」
「理由は簡単よ」
ソファ席からぬるっと近づいてきたのは、赤い腕章を誇らしげにつけた――香澄。
「君が最近、“変人系女子との親和性”で学内ランキングトップだからよ。これは実績重視の抜擢!」
「ふざけてんのか、それとも本気で言ってるのか、判断に困る……」
「どっちもよ」
香澄は真顔で答え、書類をバンッと机に叩きつけた。
「この資料、まとめて入力しといて。終わったらチョコレートと抱き枕もってきて」
「指示の落差すごくない!?」
「生徒会長ってね、ストレスたまるのよ。日々、責任と期待の圧力に押し潰されながら頑張ってるの。だから、ここではわがまま言わせて」
「じゃあせめて“飴ちゃんちょうだい”くらいにしとけよ……」
「それは放課後ね♪」
蒼馬は深くため息をついた。
香澄は生徒会長らしく、とにかく仕事が早くて正確。だが、その反動で“プライベート香澄”の壊れっぷりは目を見張るものがあった。
「どうせ暇してたんでしょ?」
「……まあ、否定はしない」
「だったら協力して。私はあなたがやる気を出してくれると、助かるの。あと、褒めてくれると、すごくうれしいの」
「そんなに褒めてほしいなら、“ワンちゃん”って呼べばいい?」
「呼んでいいわよ? “香澄ちゃん、えらいね〜♡”って」
「……やっぱり、やめておく」
その瞬間、生徒会室のドアがノックもなしに開いた。
「蒼馬、逃げるなら今だぞ」
入ってきたのは、顔を出した元気と、すぐ後ろに絃葉と香。
「君ら、なんでここに……」
「心配になって見に来た。だってこの部屋、変なオーラ出てるし」
「ええ、私も感じました。ご主人様の運気が“甘ったれた支配”に包まれていると」
「今すぐ浄化しろ、それ」
香澄は立ち上がって、少しだけ寂しそうに口を尖らせた。
「ふぅん……みんなが来ると、甘えられなくなるなぁ」
「あたりまえだろ。なんで俺が甘やかし担当みたいになってんだよ」
「だって……あなただけは、私を“しっかり者じゃない私”として見てくれるから」
その言葉に、少しだけ蒼馬は言葉を失った。
いつも堂々としていて、どこか姉御肌で、誰にも頼らないイメージの香澄。
でも――もしかしたらその仮面の下には、誰にも見せられない弱さを隠していたのかもしれない。
「……いいよ、やるよ。資料入力くらい」
「えっ、ほんと? すごいすごい! さっすが私の補佐♪ じゃあ、お礼にギュッてしてあげる!」
「やっぱナシだわ」
「え〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
生徒会室の騒がしさは、今日も収まる気配を見せなかった。
つづく(01)>>