「今年の体育祭、テーマは“団結と挑戦”です!」
体育館に響き渡るマイクの声。その瞬間、生徒たちは盛り上がりの波に包まれていた。
だが、蒼馬はすでに察していた。
(“団結と挑戦”って、絶対なんか起こるやつだ……)
クラス対抗リレー、騎馬戦、大縄跳び――どれも団体競技なのだが、問題は誰と組むかである。
「蒼馬くん! 私と組もう! 大縄、私の腕力で飛ばしてあげるから!」
由貴が真っ先に手を挙げる。
「いやいや、ここは先輩が後輩を導く番! 私がサポートしますよ、蒼馬!」
香も即座に名乗りを上げた。
「二人とも落ち着いて。蒼馬は生徒会補佐としての立場もあるの。公平性を保たないと……よね?」
香澄は、いつの間にか手帳を開いて蒼馬の“スケジュール”を勝手に記入し始めている。
「……はい、蒼馬は私と三種目エントリーね。異議は受け付けません」
「どうして決定事項になってるんだ!? 俺の意思は!? 民主主義とは!?」
その時、唯一この混乱を遠巻きに眺めていた絃葉が、すっと手を挙げた。
「私は、騎馬戦だけ参加するわ。蒼馬、上に乗るのは任せた」
「また勝手に決まってるぅぅぅぅ!!」
「絃葉、それはズルい! 蒼馬の騎馬戦は私とって約束してたのに!」
「いつ!? どこで!?」
香が悔しそうに地団駄を踏み、由貴はすでに竹刀(なぜ持ってる)を構えていた。
「このままじゃ、騎馬戦じゃなくて“バトルロイヤル”になる……!」
蒼馬の心は限界に近づいていた。
迎えた体育祭当日。
空は晴天、気温もやや高め、グラウンドは熱気と歓声に包まれていた。
だが、蒼馬の心には黒雲が立ち込めていた。
「はい、スタートラインにお並びください〜! ええと……リレー第一走者、香さん」
「はい♡ ご主人様のために走り抜けますっ!」
「……第二走者、絃葉さん」
「ええ、少しだけ全力出すわ。勝ったら感想、聞かせてもらうから」
「……第三走者、香澄さん」
「これで私の株、爆上がりだわ……見ててね、蒼馬」
「……そしてアンカー、蒼馬くん!」
「もはや逃げられない!!」
スターターのピストルが鳴る。
第一走者の香は、メイドスカートをひらりと翻して想像以上のスピードを見せる。
二走の絃葉は、息を切らさず静かに駆け、三走の香澄は――
「うぉおおおおお!! これは全校生徒に“好感度”見せつけるチャンスぅぅぅぅ!!」
「目的がもうスポーツじゃない!!」
アンカーのバトンを受け取った蒼馬は、叫びながら走った。
(もうどうにでもなれぇぇぇ!!)
競技が終わり、グラウンドの隅で水を飲んでいた蒼馬の元に、次々と女の子たちがやってくる。
「お疲れさまでした、ご主人様♡」
「頑張ってたね、蒼馬。……ちょっとだけ惚れ直したかも」
「ふふ、あなたの“全力疾走”……悪くなかったわ」
「ほ、本気出しすぎ! イケメンポイント稼ぎすぎ!!」
蒼馬は両手で顔を覆って叫んだ。
「これ、絶対“体育祭”じゃなくて“好感度争奪バトル”だったよな!?」
風が吹き抜けるグラウンドの中央で、蒼馬の叫びは虚しく響いた。
つづく(End 第5章完)