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第21話 赤足のアシト2~準備体操、終了~

 2年Sクラスとの備品争奪戦争が始まって15分。


 続く金髪イケメンのレイピア使いを『大蛇おろち』で、モーニングスターを使う銀髪の薄幸の美少女を『極光』で瞬殺。


 そして現在、6人目となる青色の短髪が目に眩しい爆乳以外とくに目立った特徴のない女子生徒を相手に俺はステージの上をチョコマカと逃げ回っていた。




「こんのっ!? チョコマカとっ!?」




 逃げるなっ! とばかりに素早く俺に肉薄しながら短剣を高速で突き刺してくる青髪爆乳。


 一呼吸で9発突き刺してくる俊敏性アジリティーは確かに脅威ではあるが……




「お前との闘いはツマラン」

「キャッ!? えっ?」




 突き出された短剣の柄を軽く握り上げながら、俺は落胆の吐息を溢した。




「動きが単調、攻撃が単調、意外性皆無。お前、本当にSクラスか?」

「~~~~ッ!?」




 カァァァァァァァァッ! と顔を真っ赤にした青髪爆乳が俺の胸元めがけて前蹴りを放り込んでくる。


 俺は掴んでいた短剣の柄を手放し、バックステップでソレを躱す。


 そのまま自分の身体を点検するように両手足を軽く動かす。


 うん、逃げ回ったおかげで5連戦の疲れは取れたな。


 これでユウト・タカナシと万全の状態で戦える。




「よし、そろそろ終わらせようか?」

「そういう事はワタシの動きについてこれてから言うことですねっ!」




 怒りで思考能力が落ちているのか、あれだけアドバイスしてやったというのに、またもや直情的で直線的な動きで俺に接近してくる青髪巨乳。


 こういう単細胞なヤツ、あまり好きじゃないんだよなぁ。


 なんというか、昔俺をイジめていたあのクソ野郎のことを思い出すから。


 ……なんかムカムカしてきたな?




零閃ぜろせん9連ッ!」

「【アカアシ流足刀術】弐ノ型……『日輪』ッ!」




 青髪爆乳と昔俺をイジメていたクソガキの姿がダブって見えたせいだろうか?


 使うつもりは微塵もなかったのに、つい身体が勝手にアカアシ流を使用していた。


 目にも止まらぬ速さで再び高速の9連突きを放つ青髪巨乳。


 その一撃を腰を落としながら躱しつつ、空中でクルッ! と1回転しつつ遠心力を確保する。


 そのまま遠心力+脚力+相手のスピードを利用して、後ろ回し蹴りを青髪爆乳のこめかみに叩き込む。


 アカアシ流唯一のカウンター抜刀術『日輪』が完璧に決まった瞬間である。




「――ッツ!?」




 青髪爆乳は悲鳴すらあげることなく、他のSクラスの奴らと同様に吹き飛んでいく。


 まるで幼子に捨てられた人形のように何度も地面をバウンドしながらゴロゴロと転がっていく。


 やがてドンッ! と壁にぶつかりようやく止まるが……その顔は完全に白目と泡を吹いており、お世辞にもレディーがしていい顔ではなかった。




「レビ・レヴィアタン戦闘不能! よって勝者アシト・アカアシッ!」




 ドワッ!? と今までで一番の歓声が俺の身体を包み込む。


 それと同時に高ぶって鋭敏化した聴覚が、ギャラリー達の声を微かに聞き取った。




『マジかッ!? アイツ、マジかッ!?』

『Sクラス相手に無傷の6人抜きって……嘘でしょ?』

『なっ? ワシが言った通りになったやろ?』




 どこか自慢気にそう口にするヤギチンの声が聞こえる。


 どうやらあの男もこの修練場のどこかでこの光景を見ているらしい。


 青髪爆乳がスタッフと思われる剣士たちに担架に乗せられながら控室の方へと消えて行く姿を見送っていると、



 ――ドンッ!



 と空から【ナニカ】が降って来た。


 瞬間『なにごとだ!?』と水を打ったように静かになる修練場。


 俺はそんな静寂を切り裂くようにニヒルな笑みを浮かべながら、空から降って来た【ナニカ】に笑いかけた。




「なっ? 俺の言った通り、すぐ出番がきただろう?」

「……まさか本当にSクラスのみんなを倒すとは……どうやらボクは少し君を過小評価していたらしい」




 そう言って空から降って来た【ナニカ】――もといユウト・タカナシは真っ直ぐ俺を見つめてきた。


 その瞳は俺を強敵と認めている目をしていて……どうやら油断を誘ってから不意打ちで勝つという作戦は使え無さそうだ。


 まぁいい。


 そもそも不意打ちというのは俺の性に合わないしな。


 当初の予定通り、真正面から打ち砕く!




「そんじゃま、始めようぜ?」

「休憩は要れなくてもいいかい? かれこれ6連戦しているけど?」

「要らねぇよ。ちょうど身体が温まってきた所だ。そっちこそ準備運動は出来ているんだろうな?」




 もちろん、と頷きながら何もない空中に聖剣を1本出現させるユウト・タカナシ。


 途端に他の6人とは比べ物にならないレベルの緊張感が俺の身体を襲った。


 それは重力を持って俺の身体にへばりつくように纏わる。


 気を抜くと一瞬で膝が折れそうだ。


 肌がヒリつく、心があわ立つ。


 ……久しぶりの感覚だった。




「妙なイチャモンをつけられたせいで始まった戦争ケンカだったが、こんな気分を味わえるなら悪かねぇ……悪かねぇなぁ。そう思うだろ、お前も?」

「思わない。余裕をぶっこいていられるのも今の内だけだよ?」




 そう言ってユウト・タカナシは黒服へと視線をよこした。


 黒服の主審は小さく頷くなり、妙に気合いの入った声音で高らかに唇を震わせた。




「第7回戦【2年Sクラス】ユウト・タカナシ 対 【2年Eクラス】アシト・アカアシの試合を開始する!」




 両者構えてっ! と黒服の怒声に近い声音と共に、お互いに全身に力をこめる。


 途端にユウト・タカナシの聖剣の切っ先が俺をロックオンしたかのようにビタッ! と空中で制止した。


 ……やっぱり剣が浮くなんで常識的にありえねぇだろ?


 コイツ、絶対に【魔女】だろ?


 と確認するようにユウト・タカナシの頭上へと視線を滑らせるが、そこには天使のような光輪は浮いていなかった。


 どうやらあの聖剣は【魔法】で浮いているようではないらしい。……マジでどういう仕組みなんだよ?


 と、そこまで考えて思考を一旦リセットする。


 今は余計な事をは考えなくていい。


 というか、余計な事を考えて勝てる相手じゃないしな。




「……始めっ!」

「【アカアシ流足刀術】伍ノ型『極光』ッ!」

「行け、バルムンクッ!」




 瞬間、加速した俺の身体めがけてユウト・タカナシの聖剣が突っ込んできた。

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