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第8話

「逃げないと!」


 家を飛び出した俺は、門前に出た。

 遠くへ逃げないと……! それとも中沢さんの家に匿ってもらうか……?


 とにかくこの家から離れるべきだ、と考えた俺は中沢さんの家に向かう左の道へ走ろうとした……が。


「えっ?!」


 一瞬視界が歪んだからか、バランスを崩し――。


「倒れる!」


 そう叫んだ俺だったが、何故か転ばなかった。


 慌てて目を開けると俺は何故か、右の道――祠へ向かう道を走っている。

 まるで足が勝手にあの祠へ向かっているような……いや、そんな事はないはずだ! 気のせいだ! そう思って首を振るが、胸の中では不安が大きくなっている。


 そのうちに俺は三叉路までやってきた。

 よし、ここで左か右に……! そう思って左に体を向けるが――。


「何で?!」


 左に体を向けたはずなのに、体は真正面――そう、祠に階段に向かっていく。頭では「違う、違う」と叫んでいるのに、体が止まらない。

 階段を駆け足で登っていく。


 こんな速さで階段を登ったら、足がもたない……! そう思っても体は言う事を聞かない。


 段々と鼓動も早くなっていく――。

 それは、単なる運動によるものじゃなかった。

 胸が破れそうなほどバクバクと音を立てていて、心臓が壊れるんじゃないか、と思うほどだ。


 けれど手も……足も止まらない。


「あれで……終わり……か……!」


 階段の終わりが見えてくる。

 そして最後の一段を上り切ると、あれだけ止まらなかった足が……止まった。


 俺は今駆け上がってきた階段を振り返る。

 良かった、誰もいない……。

 胸を撫で下ろした俺は、息を整える。疲れているのもあるが、ここで下に降りたら壊れた彼女と出会うかもしれない――そう考えて俺は身震いした。


 うん、少しだけここでやり過ごそう。


 そして振り向いたその先――以前は祠があったその場所に……祠はなかった――。


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