「逃げないと!」
家を飛び出した俺は、門前に出た。
遠くへ逃げないと……! それとも中沢さんの家に匿ってもらうか……?
とにかくこの家から離れるべきだ、と考えた俺は中沢さんの家に向かう左の道へ走ろうとした……が。
「えっ?!」
一瞬視界が歪んだからか、バランスを崩し――。
「倒れる!」
そう叫んだ俺だったが、何故か転ばなかった。
慌てて目を開けると俺は何故か、右の道――祠へ向かう道を走っている。
まるで足が勝手にあの祠へ向かっているような……いや、そんな事はないはずだ! 気のせいだ! そう思って首を振るが、胸の中では不安が大きくなっている。
そのうちに俺は三叉路までやってきた。
よし、ここで左か右に……! そう思って左に体を向けるが――。
「何で?!」
左に体を向けたはずなのに、体は真正面――そう、祠に階段に向かっていく。頭では「違う、違う」と叫んでいるのに、体が止まらない。
階段を駆け足で登っていく。
こんな速さで階段を登ったら、足がもたない……! そう思っても体は言う事を聞かない。
段々と鼓動も早くなっていく――。
それは、単なる運動によるものじゃなかった。
胸が破れそうなほどバクバクと音を立てていて、心臓が壊れるんじゃないか、と思うほどだ。
けれど手も……足も止まらない。
「あれで……終わり……か……!」
階段の終わりが見えてくる。
そして最後の一段を上り切ると、あれだけ止まらなかった足が……止まった。
俺は今駆け上がってきた階段を振り返る。
良かった、誰もいない……。
胸を撫で下ろした俺は、息を整える。疲れているのもあるが、ここで下に降りたら壊れた彼女と出会うかもしれない――そう考えて俺は身震いした。
うん、少しだけここでやり過ごそう。
そして振り向いたその先――以前は祠があったその場所に……祠はなかった――。