盗賊団が特定の物資を狙い、組織的に動いている可能性が高いと分かったリュシェルは、アレンの指示を受けて再び現場へ向かうことになった。今回の任務は、盗賊団の拠点を突き止め、その背後に潜む真実を明らかにすることだった。
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再び交易路へ
リュシェルは再び護衛隊と共に交易路へ向かった。襲撃の被害が続いている現場を調査するため、彼女はさらに細かく商人たちや地元住民の声を集めることにした。
「最近、盗賊団が活動する時間帯やルートに何か法則が見つかりませんか?」
リュシェルの質問に、商人の一人が答えた。
「夜になると決まって南東から現れます。そして北西の森に消えていくんです。」
その言葉にリュシェルは地図を広げ、南東から北西へ向かうルートを確認した。そこには、隣国との国境近くに広がる広大な森林地帯があった。
「彼らの拠点はこの森の中にある可能性が高いですね。」
護衛隊の隊長も同意し、リュシェルたちは森の中を捜索する準備を始めた。
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森の中の痕跡
翌朝早く、リュシェルと護衛隊は森の入り口に到着した。静寂が支配する中、鳥のさえずりだけが響いていたが、リュシェルは明らかに感じていた。どこかに人の気配が潜んでいる、と。
「痕跡を探しましょう。足跡や、通った形跡がないか確認してください。」
護衛隊が指示に従い、森の中を進むと、倒れた木々や焚き火の跡が見つかった。
「ここに誰かがいたのは間違いありません。」
隊長が呟く中、リュシェルは倒木の近くに何かが落ちているのを見つけた。それは、王宮から流出した物資の一部と一致する袋だった。
「間違いない。この場所は盗賊団が物資を隠した拠点の一つです。」
その袋を手に取りながら、リュシェルは確信を持って言った。
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予期せぬ遭遇
森をさらに奥へ進んでいくと、不意に物音が聞こえた。護衛隊がすぐに警戒態勢を取る中、現れたのは小柄な男だった。彼の服は泥だらけで、手には短剣を握りしめていた。
「これ以上近づくな!」
男は怯えた様子で叫びながら後ずさりしていた。リュシェルは彼を落ち着かせるため、前に出て穏やかな声で話しかけた。
「安心してください。私たちは争うために来たわけではありません。ただ、ここで何が起きているのか知りたいのです。」
男はしばらくリュシェルを睨んでいたが、やがて短剣を下ろし、小さな声で語り始めた。
「俺たちは盗賊団なんかじゃない。ただ、生き延びるために物資を奪っただけだ。」
リュシェルはその言葉に目を見開いた。
「生き延びるため……?それはどういう意味ですか?」
男はため息をつきながら語り続けた。
「この森には、隣国から逃げてきた難民たちが隠れ住んでいるんだ。俺たちは彼らのために物資を集めていたんだよ。」
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難民たちの現状
男の案内でリュシェルたちが森のさらに奥へ進むと、そこには荒れ果てたテントや、やせ細った人々の姿があった。大人も子どもも、皆が疲れ切った表情でこちらを見つめていた。
「これが……盗賊団の正体?」
護衛隊の隊長が呟く。
リュシェルは目の前の光景に胸を締め付けられる思いがした。彼らは紛争や飢饉から逃れるために森に身を潜め、生き延びるために必死だった。
「これまでの行いが許されるわけではありませんが、事情を考えると彼らを一概に責めることはできません。」
リュシェルは護衛隊に向き直り、静かに語った。
「まずはこの人々を救う手立てを考えなければなりません。盗賊団として扱えば、さらに状況が悪化するでしょう。」
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アレンへの報告
リュシェルは森で見たこと、そして難民たちの状況をまとめた報告書を作成し、急ぎ王宮へ戻った。アレンに報告すると、彼は険しい表情で言った。
「隣国から逃れてきた難民たちか……。これが国際問題に発展すれば、王国としての立場が危うくなる可能性もある。」
しかしリュシェルは毅然とした態度で言葉を続けた。
「それでも彼らを放置することはできません。王国として、人道的な対応を取るべきだと思います。」
アレンはリュシェルの言葉を受け止め、深く頷いた。
「分かった。この件は慎重に進める必要があるが、君の意見を尊重しよう。まずは隣国と協議し、解決の道を探す。」
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希望の芽生え
こうして、リュシェルの調査によって盗賊団の真相が明らかになり、彼らを救うための道が開かれ始めた。彼女の冷静な判断と献身的な行動は、再び王宮内での評価を高めることとなった。
その夜、リュシェルは自室で静かに報告書を整理しながら、未来への希望を抱いていた。
「私は、この国で人々の役に立つ存在になりたい。そのために、これからも進んでいこう。」
窓の外に輝く星を見つめながら、リュシェルは新たな決意を胸に秘めた。
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