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第3話 ペット、または愛玩動物 みやび視点

「は?意味が分かんないんだけど。つまりみやちんが誰かの番いってこと?三つ目の巫女サマとやらにその人が依頼して、見えたのがみやちんってこと??」

屋上でお昼ご飯を食べながら、2人に届いた手紙を見せると2人の表情が固まった。

手紙の内容を胡散臭げに繰り返し何度も見ながら、かなっぺが言った。

「だよね。わたしも混乱してる。ってか番いの制度は知ってたけどこうやって連絡が来るんだ」


授業の一環としても「番いとして選ばれたら断ってはいけません」「番い同士の仲を裂いてはいけません」「左手の薬指に嵌められてる指輪が番いの証なので、基本的に指輪をしてる人間にはナンパなどしてはいけません」的なものが教え込まれてる。

そんなものを授業で教えるだなんて権力者が自分の力を利用してる感が強い。

要するに「自分の番いには手を出すんじゃねーぞ、庶民」って感じか。

うん、ちょっと胸糞悪いな。

いっちゃ悪いけど、そんな番い制度を利用する未だ見ぬ相手にも腹が立つ。


「封入された釣書に記載をしてそれを持って役所まで来いかー。良くも悪くもお役所仕事だね」

「市役所を通すのなら詐欺ってわけじゃないと思うからそこだけは一安心かな」

あなたは権力者の番いに選ばれました、そのためには準備金が必要ですみたいな詐欺もあるらしい。

どっちかというと選ばれる方が地位も低いだろうから準備金をこちら側が用意するなんておかしな話だと思うんだけど、それにすら考えが至らないなんて被害者らにとって「番いに選ばれる」っていうのはそんなにも名誉なことなんだろうか。

恋もしたことが無いからよくわからないや。



「んで、市役所で希望日、希望時間を相手に伝えて、そっから向こうが場所指定ねー。めんどくさ。無視しなよ」

「えー!?なんでなんでー?気になるじゃーん。アタシらの大事なペッt親友の番いだよ?基本的に相手ってエリートなんでしょ?玉の輿じゃーん。バイトも辞められるじゃーん。バイト辞めてアタシらと遊ぶ時間増やそうぜ。みんなハッピーじゃん」

「おいこら。ちょっと待て。今ペットつった?そして相手がどんな人だってバイトは辞めないよ。なんで養われる前提なの?」

「かなっぺ、あんたはみやちんが得体のしれない男の番いになっていいっての?いっぺんでも会ったら断れないんだろ、どうせ。こういうので被害に遭うのはアタシら庶民だよ。畜生。アタシらの可愛い可愛い愛玩動物が」

「愛玩動物って言った!今ハッキリ言った!私の人権どこ!?」

「え、それはやだー。あの日夕焼けを見ながらみやちんとあたしは愛を誓ったじゃないのさ。あたしを捨てるっての?」

そう言いながらかなっぺは首に抱き着いてくる。

誓ってない。

なんだ、このノリは。

さらにきつく抱きしめてくるかなっぺの背中をしょうがないな、と上下に撫でる。

嬉しそうにすり寄ってくる。

人の事をペット扱いしてるのに、当人がすごくペットみたいだ。


「これって無視したら罰則あるのかな?」

会いたくないな、と思いながらポツリと漏らしてしまった。

「書いてないねー。まぁ無視したら家に乗り込んできそうだけど」

隅々まで読んだらしいはるっちが手紙をひらひらと揺らしながら言う。

「何それ怖い」

「いやだって断っちゃいけませんって学んだじゃん。でも無視したらどうなるか気になるからいっぺん試してよ」

「なんで私が知的好奇心の犠牲にならなきゃいけないの!?」

「じゃあ・・・受ける、つもり?」

「うぅん。届いた以上は無視するわけにもいかないでしょ。後が怖いし」

「じゃあこの釣書も書かなきゃね。住所名前、誕生日・・・からのうわっ結構細かいところまで書かされるんだ。赤裸々じゃーん」

「全てを書けってわけじゃないから私が書くとしたら名前と住所くらいかな」

「すくなっ!せめて学校名とバイト先くらいは書きなよ」

「要る?その情報」

「苦学生アピールしてこう。苦学生」

「そうだね、アタシらのみやちんはこんなに苦労してる子なんですよーって。生活費の為に夜な夜なメイドカフェでバイトしてるんですよーって言ってこ、言ってこ」

「えー・・・ひかれそう、ドン引きだよ」

「変わったバイトしてるってのは自覚あるんだ」

「しょうがないじゃん。お金の為だよ。この辺りじゃ一番バイト代いいんだもん」

「すまないねえ。アタシがふがいないばっかりにあんたに迷惑かけて」

「おっかさん、それは言わない約束でしょ」

わざとらしく咳込むかなっぺを背後から私は抱きしめる。

なんだこの茶番。

「昨日はお姉さま、今日はおっかさんって忙しいなアンタら」



「ヨシ!もう悩んでてもしょうがないから学校終わったらとっとと市役所行ってこれ出してそっからバイト行くわ」

メイドカフェのバイトのせいで引かれたらその時はその時でいいや。

もし破談になったとしても、元々誰とも結婚するつもりなかったからちょうどいいし。

「みやちんがとうとう男のモノになっちゃうのかあ」

「ちょっと!その言い方卑猥だからやめて。番いっていっても私みたいな小娘を見たら「やっぱやーめた」ってなるかも知れないし」

「「いや、それはないな」」

「なんでー!?」

茶髪で、ピアスやイヤーカフしてるこんな派手な見た目の女、遊びならともかく番いと言われても向こうとしても嫌でしょ。

ちなみに服装はある程度地味なものにするけど、この辺りの装身具は外す気はない。

それが嫌なら別の女探して。

「ってかアタシらのみやちんを気に入らないって言ったらアタシがたたっ斬ってやるから」

「え、やだ格好いい。惚れちゃう」

「ガハハ愛いやつよ」

「ところでさーアンタら全然飯食ってないけど、予鈴5分前なんだが」

「「えええええええええええ???????」」





市役所に行ってすっかすかの釣書を渡すと一通り目を通した職員は一瞬目を細めながら、面会の希望日時を記入する紙を渡してきた。

あまりにも記入してないから私がその気ではないってのがわかったんだろうな。

そして左手の薬指のサイズも測られた。

指輪は会った当日に本人から渡されるらしいけど、それって受け取れないことできるかな。

無理かな、無理なんだろうな。

あんまり指輪って嵌めたくないんだよなぁ、バイトの邪魔だし。




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