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第5話 アキネーター始まる みやび視点

「初めまして。えっと、藤原みやび、です」


初めて出会う年上の男の人にかける言葉が思いつかなくて平凡な挨拶をしてしまった。

だって・・・この人ってアレだよね。

白の貴公子・・・!!

艶やかな黒髪と、切れ長の瞳、整った鼻筋と薄い唇。

180センチは超えてるであろう恵まれた体格と引き締まった体。

白い制服を着用して、隊長の証であるこれまた白いハチマキをして、国賓を招いた式典では得意の真剣を使っての剣舞を披露したのをネットで見たことがある。

護国機関の警護隊の隊長とかでSNSでもその眉目秀麗ぶりでフォロワー数が・・・どれくらいだっけ?自分はフォローしてないからわからないけど、しょっちゅう相互フォロワーがRTしてくる人だ。

いわく「クールで格好いい」と騒がれてる、らしい。

自分は「へーそうなんだ。確かに格好いいねー」とか「顔がいいといつも気が抜けそうになくて大変そう」という認識だったけど。

その、白の貴公子が、私の、番い???

ちょっと待って理解が追い付かない。

これってなんかの企画か何かだろうか。

平凡な少女がビックリする様を楽しもうとかそういうアレ?

いや、それにしたって私が選ばれるのも変な話だけど。

うん?よく考えたら釣書に名前書いてたな。

「御厨(みくりや)ナギ」って。

幾ら番いとはいってもまだ会ったことのない人のプロフィールをじっくり読む気にはなれなくて流し見だったけど。

根が真面目なのか、任意で記載するかしないかの部分もびっしりと達筆な字で書かれていた。

あまりにも個人情報が過ぎるので自分は名前とか住所とか大雑把な部分しか書かなかったのに。


軽くパニックに陥ってる私に対してふわりと柔らかい笑顔で椅子を勧めてくれた。

この人って笑うんだ。

SNSじゃ笑顔って見たことなかったな。

どっちにしても笑顔すら顔面の殺傷能力高くないですか!?

ってかむしろ笑顔の方が殺傷能力高い。


「なにか注文する?」と渡されたメニューには信じられない金額が載ってる。

・・・うん。水でいいや。

ってかさすがにそれはダメか。

一番安いコーヒーにしようかという私の様子に気づいたのか「ああ、ここの支払いは俺が持つことになってるから、値段は気にしなくて大丈夫」なんて言ってくる。

かといって「はーい、じゃあこのアップルパイティーセットにしまーす」なんて軽々しく言えない。

だってこれで3500円とか。

パイ単品だと2000円とか、飲み物だけで1500円って事?

こ、コワイ・・・。

メニュー表を見ながら硬直してる私を面白いものを見てるように笑ってる。

悪意は感じないからいいんだけど。

エリート様にはこの苦悩が分からないんだろうなぁ。


「腹減ってる?」

「あ、いえ。お昼済ませて来たんであまり」

「フルーツ苦手なものはある?」

「特にないです。あ、でもグレープフルーツのような酸っぱい柑橘系は苦手です」

「コーヒー派?紅茶派?」

「どちらかというとコーヒー。とはいってもブラックは無理ですけど」

「アイスがいい?ホット?」

「ホットで」

なんか、アキネーター始まったんですけど?

「そっか。じゃあティータイムスイーツセットのホットカフェオレでいいかな?」

注文が決まってしまった。

「むぅ。じゃあお言葉に甘えてごちそうになります」


注文した品が届くまで軽く会話すると「モテて困ったので虫除けとして番いという盾が欲しかった」っていう意図がわかった。

現に今も店内の女性の視線がちらちらとこっちを伺ってる。

慣れてしまったのかあえて無視してるのかナギさんはその女性らには目もくれずに私だけを見てる。

女が苦手という割には私に対する視線が甘い。



「ところでナギさんは」

「呼び捨てでいい。ナギと呼んでくれ」

「あ、はい」

「俺からも呼び捨てでいいかな?そして丁寧な口調はいらない。普通に接してほしい」

「わかりまし」

一瞬視線が咎めるように強くなった。

「わかった。この後ナギはどうしたいの?」

「そうだな。みやびの時間さえあればもっと会話したいんだが、初日に2人だけで密室に入るのは禁じられてる。いつまでもここに居られないし。みやびがどこか行きたい場所があればそれでもいいが」

密室はダメなのか。

正直良かった。

いくら番いとはいえ初めて会った人と密室てのは怖いし。

「うーん・・・。私学校に通いながらバイトもしてるから普段あまり時間が取れないから今日は日用品の買い出しをしたいかな。って、それもだけどそうじゃなくて、この関係を継続希望?指輪さえ嵌めてたらいいってさっき言ってたから」

「ああ、そっちの話か。実際に会うまではそのつもりだったんだが俺としてはこのまま交際を進めていきたい。みやびさえ良ければ」

「私も異存はないかな。正直今も他の人たちの視線が痛くてちょっと怖いんだけど」

「視線か・・・確かに俺は広告塔をさせられてるから目立ちすぎるな。よし、その辺りは対策を考えるとして、まずは指輪を受け取って欲しい」

「ゆびわ」

シンプルな銀色の指輪だけど中心がぐるりと捻じれてる、いわゆるメビウスの輪みたいなやつ。

派手じゃないのでこれなら学校でも付けられそうで良かった。

まぁうちは進学校と言ってもその辺りの校則は緩いけど。

「つけていいだろうか?」

言いながら右手をこちらに差し出してきた。

これはつまり「俺がつけるから手を出せ」ってこと?

おずおずと差し出した私の左手を慈しむように親指で軽く撫でたかと思うと私の手を支える手を左手に変え、右手の親指と人差し指で、番いの指輪を挟み持つ。

そのまますっと抵抗らしい抵抗もなく指輪が嵌る。

「サイズはどうだろうか、一応作り直しもできるらしいが」

「あ、それは大丈夫。っていうか」

「うん?」

「へへっ・・・なんか不思議な気持ち。結婚式を挙げたみたい」

照れくさくて笑ってしまう。

周囲の女性らの視線が敵意から殺意へとランクアップしてるのが気になるけど。

流石にホテルのロビーラウンジだからスマホを持って撮影されたりはしてないみたいだけど、2人で会う時にこれからもずっとこんな感じで注目を浴びるのだろうか?

だったら大変だなあ。

ふと見るとナギは自分で指輪をはめようとしてたので「ナギの指輪、私が嵌めていい?」と聞いたら一瞬驚いた顔をされてしまった。

すぐに私に対して左手を出してくる。

さすが男の人、大きさが全然違うと変な所に感心しながら私がされたように彼の指に指輪をはめる。

「なるほど。確かにこれは照れくさいものだな」とつぶやいたナギの頬はかすかに染まっていた。



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