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第6話 よくわからんが海に出てくるサメは希少らしい ナギ視点

ホテルを出たが、やはり周囲の視線が突き刺さる。

俺はともかく彼女に迷惑がかかるのは嫌だな。

SNSで写真が拡散でもされたら面倒だ。

この辺りの問題は早急に片付けないと。


ここに来て「初日は密室禁止」という制限が重くのしかかる。

「日用品の買い出し希望って言ってたがどこ行こうか?」

「それは最後でいいかな。えっと、ナギは何か趣味とかある?」

「趣味か」

改めて考えると人に言えるほどの趣味は無いな。

子供の頃から「強くなりたい」と思い、格闘技の習得に日々を費やしてきたが、それは趣味ではないだろう。

友達に誘われたらなんにでも付き合ったが、俺からはあまり積極的に誘うことも無かったな。

今まで考えてこなかったが、これは異性としてはかなり魅力が薄いのでは?と焦る。


「じゃあ、映画とかどうかな?。映画館は密室扱いじゃない、よね?」

2人きりでいることが多分ダメだろうから映画なら問題ないだろう。

「構わないが、何か見たいのがあるのか?」

「知ってるかな、これ。先週から封切されてるアクション映画なんだけど、待望のスピンオフ作品!」と言いながらとある映画のサイトをスマホで見せてくる。

昔、1と2は見たことはある映画だ。

3は大コケしたとか4はなかったことにされた映画という知識しかない。

確か、宇宙飛行士たちが謎の生物に襲われるというパニック映画だったか。

詳しい流れやオチなどは忘れた。

「スピンオフだけど本編知らなくてもわかるし、ファンとしてはちりばめられたというオマージュが気になっていつか見たいと思ってたんだ。評判もいいみたいだし」

興奮気味に話す。

話しているうちに熱を帯びて次第に早口で話すみやびはとても可愛い。

というか好きなのか、人が襲われる映画が。

「この手の映画、好きなのか」つい口に出てしまった。

「そうだねー。休みの日は1日中見てるよ。サブスク入ってるしね」

「へぇ」

「他にはね、人が蛇に襲われる映画とか、人がサメに襲われる映画とか、人が超常現象に襲われる映画とか、人がワニに襲われる映画とか見るかな」

ストレス抱えてそうでちょっと心配になるラインナップだ。

大丈夫だろうか?

「あ、でもね人が人に襲われる系は苦手かな。特にホーム・インベージョン系は受け付けられない」

動物に襲われる映画と違いが判らんし初めて聞いたジャンルだ。

そんなものまであるのか。

「私が好きなパニックホラー系のジャンルはね、B級映画どころかZ級と呼ばれる物が大半なんだけど、中には好みの映画とかがあるからくじを引く感覚で見るかな」

映画ってそういう楽しみ方するんだ。

なんか違う気もするが、個人の楽しみだから口出ししない。

「特にサメ映画はね、いいよ。9割地雷だし」

地雷なのに楽しいのか、奥が深いなサメ映画。

俺だったら「時間の無駄だ」と観る事すらしないだろう。

だけどこんな他愛のない話をしていても楽しいと感じる。

生き生きと語るみやびがとても可愛くて全然苦痛ではない。

内容は限りなくアレだが。

他の女がこういう話題を振ってきても「興味ない」と切り捨てていただろうが、みやびの話なら「どっからどう見ても着ぐるみの鮫がね、人を襲うんだ」と謎の発言をしてても微笑ましく思う。

いわく「海に出るサメはむしろ希少」なんだそうだ。

まったくもって意味が分からん。


みやびの話を聞いていたらあっという間に時間が過ぎ、映画も見終わったのでこの後晩飯でもと誘うがみやびは周囲の様子を窺うようにしてきまり悪そうに「うーん、今日はやめとく」と断った。

映画館を提案したのも周囲の視線がずっと気になってたようだし、あまり強引に誘うのも悪いな。

でも、離れがたい。

少しでも長く彼女と居たい。

せめて最寄り駅まで送るということで話はついたが、いつしか握りあった手を離すのも惜しい。

初めて会ったばかりでまだ数時間しか過ごしていない子相手に俺がこんな感情を持つだなんて。

最寄り駅まで、という話だったがついずるずるとみやびの目当てのドラッグストアまで来てしまった。

いよいよお別れか、と思うと寂しくなって「写真、撮っていいか?」と自然と口にしていた。

一瞬驚いたようだが笑って「いいよ」と答えてくれた。

中々会える時間がないだろうが、スマホの中だけでも彼女の姿を見ていたいと思った。

数枚撮った後に2ショット写真も撮ろうという流れになった。

人生で初めて2ショット写真なんて撮ったな、世の恋人たちが撮りたがる理由が分かった気がした。



そうか、今日一日こんな顔をしてたんだ。

そこに写る俺は俺ですら見たことのない笑顔だった。



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