日用品を買いに行きたかったけど、周囲の好奇の視線に耐えられそうになかったから、人の目から逃れるために映画を見ることを提案した。
丁度見たい映画があったからちょうど良かった。
でも熱が入りすぎて道中についついサメ映画について熱く語りすぎてしまった。
突然パニック映画について聞かされたナギは終始困惑した顔だったけど、それでも批判せずに聞いてくれた。
大体が「なんでそんな映画見るんだ」とか「時間の無駄」と言われるから、頭ごなしに馬鹿にしない彼の対応はすごく嬉しい。
時折「鮫は海に居るのが普通ではないのか?」という戸惑ってる呟きが聞こえたけど「普通の鮫の映画はすごく珍しいんだよ」と返した。
生まれて初めて聞く言語を聞いたかのような微妙な顔をしてたので申し訳ないけど笑ってしまった。
あくまでSNSとかで見聞きした限りだけど、何でもそつなくこなす完璧な「白の貴公子さま」がこんな顔するんだって。
映画自体は期待通りですごく面白かった。
あまり映画を見ないナギにさりげなく感想を聞いたら気に入ってくれたようで良かった。
「ヒロインたちはそれぞれのシリーズのオマージュなんだよ」と押しつけがましくない程度にファンとしての知識をあれやこれやと補完したら「俺もサブスクに加入して過去作を見てみるか」と興味を持ってくれたみたい。
1と2は過去に観たことあるようで、3と4が不評だというのは何となく知ってたみたいだけど、彼がどのシリーズを気に入るかわからないから「とりあえず全部サブスクにあるから見てみるのもいいかもね」と軽く背中を押した。
私自体も3と4はさほど嫌いじゃないし、なんなら4でのただの悪党だと思われていたならず者集団が宇宙生物に襲われた時に見せる仲間の絆のシーンは結構気に入ってる。
映画を見てくれたら同じ話題で盛り上がれるし、今回見た映画のシリーズに限らず色んな事を語り合いたいな。
おすすめ映画を選んでおかなきゃ。
この後「夕食を共に」と誘われたけど、さすがにもうこの視線に耐えるのは限界だった。
なんならわかりやすく「貴公子様とあの女、釣り合ってない」なんて通りすがりに言われるし。
その言葉に嫌悪感を示したナギがその女たちに視線を睨みつけるとそれはそれで「こっち向いてくれた、キャー!!」と喜ぶ始末。
どんな脳と思考回路してるんだ。
ちゃんと見なよ、どう見ても殺意マックスの視線だよ。
私の最寄り駅までという話だったけど、繋いだ手を離しがたくてついつい家の近所のドラッグストアまで来てしまった。
頭の中で「洗剤とシリアル買わなきゃな」と買い物について考えてたら「写真撮っていいか?」と聞かれた。
きちんと番いに会ったという証明するために写真が要るのかなと思い至って了承した。
でもふと思ったけど、証明するための写真だったら2ショットの方がわかりやすいんじゃない?
そう思って「2人で撮ろう」と提案した。
生まれて初めて男の人と2人で撮った写真に気恥ずかしさは感じたけど、これでいつでも彼の事を感じられると思うと嬉しい。
名残惜しかったけどずっと繋ぎっぱなしだった手を離して「またすぐに会おうね」と連絡先を好感して別れた。