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第12話 御厨ナギはいちゃいちゃしたい ナギ視点

「貴公子ちゃん、あんた退寮するのかい?」

夕食後の片づけを終えた寮母が寮内の多目的ルームで隊員らと駄弁っていた俺に突然聞いてきた。

あまり俺には話し掛けてこないので怪訝に思った。

「いや、その予定はないが。なにか俺に問題でも?」

なにか俺がしでかしてクレームでもついたのだろうか。

直接言ってくれたら対処できるのだが。

最近みやびに紹介されて見ていた映画の音でも漏れていたんだろうか。

部屋の壁は厚いとは言い難いが騒音には気を使ってるつもりだ。

とはいえ、みやびの勧めてくれた映画は絶叫するシーンがやたら多いから苦情には思い当たらなくもない。

「この映画でヒロインは絶叫クイーンと呼ばれてその後に数々のスラッシャー映画に出演したんだけど、この人のお母さんも絶叫クイーンと呼ばれていた名女優さんなんだよ」と嬉々として映画の薀蓄を言ってたみやびを思い出しながら思わず心の中で笑ってしまった。

実に微笑ましい。

会話の内容と見てる映画はアレだが。


「あんたがその気ならいいんだけどさ。番いが見つかったっていうんならとっとと結婚して出ていくんだと思ってたよ」

「結婚の話は出してない。俺が望んでもみやびはまだ学生だからな。すぐにというわけにはいかない」

「ありゃ、いいじゃないの。学生結婚でも」

こんなにいいオトコとの結婚だからあたしだったら即OKなのにね、などと笑って言う。

女性にとって結婚とはそんなものなのだろうか。


以前「進路は迷ってる」と言っていたから、確かにその辺りもきちんと話し合うべきかもしれない。

彼女が4年制大学への進学を望んでいるのなら学費も援助したい。

断られそうだが。

また就職するにしても彼女の勤め先に近い所に居住を構えたいしな。

もっとも彼女の考え次第だが。

あまり性急に話を勧めすぎると引かれるかもしれない。

今はこの時を大事に過ごしたいという気持ちもある。



「じゃああんた、結婚までこの寮で暮らす気かい?」

「そのつもりだな」

寮の生活はこれはこれで気に入ってるし、不便を感じてもない。

結婚するにしても物入りだろうから節約できる内は節約するのもアリだな。

結婚式も彼女が望むのであれば豪勢なものにしてもいいし、稼いだ金は彼女との生活に費やしたい。

子供が出来たらそれはそれで色々と物入りだしな。


「彼女って実家暮らしだっけ?」

やたらと寮母は切り込んでくるな。

元から世話好き、話好きな人だが、俺に絡んでくるのは珍しい。

長年寮母をやっているから隊員の結婚話自体は珍しくないはずだが。

「いや、家の事情で一人暮らしをしてる」

「へー。じゃあいちゃいちゃしまくってるわけだ」

「いちゃいちゃ!っ・・・そういえばあの家は壁も薄いし、いちゃいちゃには向いてないな」

それにしてもなんて魅惑的な言葉なんだ、いちゃいちゃ。

「この寮は異性連れ込み禁止だしね。こうなったらあんた寮を出て一人暮らしして彼女を招いてそこでいちゃいちゃするしかないね。想像してみな。そうすれば思う存分いちゃいちゃできるよ」

思う存分、いちゃいちゃ、だと?

俺が触れるたびに照れくさそうに頬を赤らめるみやび。

まだしてないが口づけを上気した顔で受け入れてくれるみやび。

甘える声で俺の名前を呼ぶみやび。

たまらない。

いちゃいちゃしたいぞ。

嫌われない程度にいちゃいちゃしたい。


今のうちに交通の便が良いところに俺が引っ越して結婚後に彼女とそこで暮らすというのもアリだな、と先ほどまでの節制の考えを覆すほどに魅力的なワードだ、いちゃいちゃ。


「くっ!寮母!退寮の手続きってどうすればいいんだ?!」

退寮届を入手しようとする俺にその場にいた全員が同時に「「「落ち着け」」」と突っ込んできた。


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