「あのナギが番いを溺愛してる」
そんな話が出回ったが、ナギをよく知る隊員らには信じられなかった。
眉目秀麗でありエリート中のエリートと言われる護国機関の警護隊壱番隊隊長の若き「白の貴公子」御厨(みくりや)ナギは子供のころから女性に言い寄られていたが一切告白を受け入れてこなかった。
それどころかどんな美女に言い寄られても冷たい目で一瞥する様は、ナギには男色の気があるのではと噂されていたくらいに女性を寄せ付けなかった。
「マジかよ・・・」
信じられないと騒ぐ隊員らを黙らせたのは、嬉しそうにみやびとののろけ話を聞かせるナギの姿だった。
「あの鉄面皮のナギが・・・」
「寮に住んでる奴から聞いてたけど想像以上だな」
「割と付き合い長いけど、あいつあんなに表情筋を動かせたのか」
「しかも女の話で、だぞ」
女性嫌いとして有名なナギが一目会っただけの番いにベタ惚れ。
学生時代から女には苦労していた為、高校は「男子校だから」という理由で選んだという話すらある。
さらに、普段は自分から口を開こうとしない寡黙なナギがこんなにも喋る事も驚きの一つだった。
女性には縁のない隊員らが「番いとはそんなにいいものなのか」と興味を示すのも当然だった。
「どうしたら三つ目の巫女にコンタクトを取れるんだ」
「そもそも誰にでも番いのお告げをしてくれるのか」
「費用はどれくらいかかるのか」
「自分には番いが見つからなかったらどうしよう」
そんな話題で持ちきりとなった庁舎の職員食堂の片隅で、騒ぐ集団に対して冷たい視線を送るシオン。
実際にみやびに対するナギの姿を見ておきながらも、彼の変貌ぶりにはどこか冷めた思いを抱いていた。
「遊びまくってるお前も番いを見つけたらあんな風になるのかね。いっちょ見てみたいからお前も三つ目の巫女に番いを探してもらえ」と加賀宮は皮肉めいた笑みを浮かべながら軽い調子でシオンを挑発する。
シオンは加賀宮を氷のような視線で一瞥すると「嫌ですよ。私は自由恋愛を楽しんでるんです」
「楽しんでる割に長続きしねーくせに。それにしてもナギとお前、同じモテる男でこうも違うのかね」
加賀宮は尚もシオンをからかい続ける。
「確かにあの二人は微笑ましいんですがナギのあそこまでの変貌は正直怖いですよ。人に一切関心を持たなかったあの人ですらあんなになるんですよ。あれは毒です」
「まるで甘い毒」