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第16話 初めての料理後 みやび視点

冷蔵庫にギリ入るくらいの大量のタッパーを見て「この量ならお昼も食べないと追い付かないな。弁当箱どこに仕舞ったかな。あとで探しておかなきゃ」と思った。

というか、ご丁寧に「キャベツとカニカマの和風サラダ 日持ち4日」「きんぴらごぼう 日持ち7日」「鮭の照り焼き 日持ち5日」とかリストアップまでされてる。

芸が細かいな、非常に助かるけど。

1品1品の量自体はさほどないけど、やたらと種類が多い。

主菜と副菜のバランスもいい。

どれだけの手間暇がかかったんだろう。

嬉しい反面申し訳なくなってくる。

しかしその沈黙を誤解したのかナギは意気消沈したようだった。

慌てて「ありがとう。こんなに作ってくれるとは思ってなかったからちょっとビックリしちゃった。でも嬉しいよ」と取りなしたつもりなんだけど、それでもなにか思いつめてる顔をしてる。

うーん、嬉しいってのは本心なんだけど同時に自分が情けないなって気持ちもあるんだよなぁ。

忍さんには「きちんと一人暮らしできてる」って報告してるけど、実際にはできてないって思い知らされてる感じもする。


空気を変えたいこともあって、以前から考えていたこの家の合い鍵を渡す。

入居した時に貰った3本の鍵。

有事の際にと1本は忍さんに渡してるけど、あの人は基本家から出ないし一人暮らしを始めてから今までここに来たことはないからナギとかち合うことはないと思う。

なによりあの人は私に関心がない。

満面の笑みで鍵を受け取るナギを「可愛い」って思ってしまった。

年上の男の人に抱く感想としてはちょっと変なんだろうけど、この人本当に大型犬みたいな愛嬌があるな。






そして翌日。

いつもの昼食、のはずなんだけど私が弁当箱を出したら2人は得体のしれないものを見る目つきでこっちを見た。

いつもはコンビニや購買で買ったおにぎりとかパンとかだから驚くのはとてもわかる。

というか私も驚いてる。

1人暮らしをした時に念のためにと買った弁当箱だけど使うの初めてだからなぁ。

我ながら自分の食生活はどうかと思う。

冷凍ごはんとナギが作り置いていたおかずを詰めただけなんだけど、やたら種類が豊富だから豪華に見える。

きんぴらにしても味付けが味噌味とか醤油味とかバリエーションが豊か。

おかげでその日に自分が食べたいものを詰めるからとてもありがたいけど。


「へー。みやちんも彼氏の為に料理覚えてるようになったんだ。ひゅーひゅー。リア充爆発しろ」

一瞥した後に吐き捨てるようにかなっぺが言う。

棘が含まれてるのは気のせいじゃないと思う。

というかひゅーひゅー言うな。

「私だって自炊くらいはたまにするよ。これはカレが作ったものを詰めただけだよ」

「すっごー。番いさんって料理上手?料理人??ってか、リア充爆発しろ」

「料理は授業以外ではしたことないって言ってたし、仕事は・・・公務員だし。ねえ?その語尾なに?」

私もちょっと苛立って強い口調になってしまう。

なんだかナギを馬鹿にされたみたいで気分が悪い。

「みやちんは気にしなくていいよ。リア充爆発しろ」

明らかに2人とも怒ってるじゃん。

「あのね。何か私に不満があるのなら直接言ってよ。友達に嫌われるのこたえるんだけど」

食べてた手を止めて、2人に対して正面から言う。

生まれて初めてできた友達にあんなこと言われるのキツいし、私もこういうの言いたくないけど後に引きずりたくないから今のうちに言わなきゃいけない。

「・・・」

「・・・」

二人は顔を見合わせて「みやちんさ、アタシらに全然彼氏の事教えてくれないじゃん」「なんだか寂しいよ」とふてくされたようにつぶやいた。

「あ~・・・」

そっちかあ。

私としては、友達ののろけ話ってあまり聞きたくないだろうと思ったからあの後は「彼と会った」くらいに留めて色々な質問は「プライバシーがあるから答えられない」で通してたんだけど。


「ゴメン。2人ともそういう話嫌かなって勝手に思ってた。でも前も言ったけど、彼にも仕事の都合などで答えられないこともあるんだよ」

「じゃあ・・・名前は?」

それ言ったら一番ヤバイやつじゃん。

ネットで騒がれてる白の貴公子さまの番いが私で~すなんて言えない、色んな意味でも。

下手したら刺される。

下手しなくてもネットで晒される。

「それはちょっと」

「名前すらダメなんだ!?」とかなっぺが口を尖らす。

2人を信用してないわけじゃないけど、どこから情報が洩れるかもわからないから言えない。

「ゴメン、公務員だから色んな守秘義務が絡んでるんだ」と適当な事を言う。

「ふーん」

明らかに不機嫌になってしまった。

嫌な空気感だ。

かと言って、他に言えることかあ・・・。

「じゃあさ、みやちんは彼の事どう思った?」

「どう、って?」

はるっちがイマイチ意味が分からない質問をしてきた。

「番いって決められた好きなタイプでなくても義務でその人と将来結婚するのかな、って。正直、番い制度って何?って感じだし。その時に恋人がいたら無理やり別れさせられるの?とか一度選ばれたら逃げられないとか怖いじゃん。誰も引き裂いてはいけないって裏を返せばその人と別れたいと思っても誰も助けてくれないって事でしょ?」

2人は2人で心配してくれてたんだ。

番いとして選ばれた2人が結婚したとかニュースではよく聞くけど、その後はあまり報道されないから確かにそこはどうなんだろうとは思う。

不倫とか離婚とか報道されてないから夫婦生活は円満なんだろうなとは思うけど、国が作り上げた「番い」のイメージを壊さないために報道規制が行われてるだけかもしれない。


「私も通知が来た時にはこっちの都合も考えずに勝手な事を言うな、しかも進路で大変な時にって思ったけど。でも彼と初めて会って、話して、なんかこう私の隣にこの人がいるのは必然なんだなって感じた。欠けていたピースがハマった感じっていうか。私こんな感じだから人付き合いうまくないけど、彼とはすごく話しやすかったし。この人に会うために生まれてきたんだなっていうチープな言葉が今は理解できるっていうか」

ヤバい、どうしたって顔がにやけてしまう。

言わなくてもいい事すら言った気がする。

今更ながら恥ずかしくなってきた。

「のろけかよ、リア充爆発しろ」

「あまりの甘ったるい話で飯食う気なくしたわ、リア充爆発しろ」

はるっちがすでに食べ終わったメロンパンの袋を丸めてこっちに投げつけてきた。

もう食べ終わってんじゃん。

相変わらず食べるの早いな。

というかポイ捨てするんじゃないよ。

「ちょっと!??話せって言われたから真面目に語ったら酷い言われようなんだけど?」

「いや、思ったより糖度高めで引いたわ」

「カレに会うために生まれてきたとかどこの3流恋愛小説だよ」

「なんだと?恥ずかしい思いして答えたのに!いいよもうこうなったらどんどん惚気てやる。このおかずもカレが作ってくれたんだけど、どうお礼したらいいと思う?ちなみにお金は一切受け取ってくれなかった」

「うわーん、みやちんが恋愛マウント取ってくるよー、リア充怖いよー」

「変わっちまったな、お前。「私将来誰とも結婚しないと思う」って言ってたあの時のみやちんはどこだよ。この偽物野郎」

「もう!真面目に!」

「あ~ハイハイ。お礼だっけ?んなもん適当に「ありがとね、チュッ」とでもやればいいんじゃない?どうせチューしまくりなんでしょ?どうせ」

どうせを2回言った。

「うっわ、すごく投げやりに答えられた。・・・ってかそんなことしてないよ」

思わず顔を赤らめて反論してしまう。

「どんな感じでキスするんだろ」とか妄想するけど現実ではしたことないよ。

「そっか!そうだよね。みやちんにちゅっちゅは早いよね。あたしは信じてたよ!」

かなっぺは打って変わって満面の笑みで私の頭を抱いてぐりぐりする。

未経験なのがそんなに嬉しいのか。

「え、じゃあ普段2人で何して過ごしてんの?」

はるっちが2個目のパンを食べながら聞いてくる。

ってかそれもメロンパンじゃん。

メーカーが違うから「別メロンパン」とははるっちが常日頃から主張してる。

どんだけメロンパン好きなんだ。

「私が基本学校と家とバイトの往復で、カレも仕事が忙しくてまだ正式なデートとかはしてないかな。毎日バイト帰りに家まで送ってくれるけど」

「バイト帰りって、夜じゃん。夜の家で・・・二人っきりで?」

改めて言われるとなんかいかがわしい事をしてる気になる。

ヤバイ、今後意識しちゃうかも。

「それでちゅーも無し?」

「・・・無いよ」

答える義務はないんだろうけど、つい素直に自白してしまう。

「骨なしチキンくんか~~」

かなっぺの口調が心なしか弾んでる。

というか人の彼氏を骨なしチキンっていうな。

私が学生の内にはそういうことは控えようとしてる紳士なんだよ、多分。

「あ~じゃあ「ハイハイありがとね~」って頭でも撫でたら?」

はるっちは完全に興味をなくして残ったカフェオレを口に含んで適当に言った。

「そんな、犬相手じゃあるまいし」

ナギは限りなく犬っぽいけど。

しかも忠犬。

それくらいならできそうだけど、それで感謝示せるんだろうか。

そして年上の男性相手にそれっていいんだろうか。

かといっていきなり初めてのちゅっちゅはハードルが高い。


鶏ひき肉の和風ハンバーグを租借しながら「どうしようかな」と思案した。




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