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第17話 彼へのご褒美 みやび視点

折角、珍しく2人一緒に休みなのにコインランドリーで洗濯しなきゃいけないだなんて。

ナギは明日仕事で私の方が休みだから洗濯は明日でもいいかと思ってたら、急遽明日はバイトに入ってくれと店長に懇願されて洗濯する時間が取れるのが今日しかなかった。

色々と物騒だし、洗濯機を購入する資金もなかったしとで一人暮らしを始めた時からコインランドリーを使うことにしてる。

アパートの隣に住んでる人に入居の際に挨拶に行ったら、人の好さそうなおばさんが「5丁目の奥さんが下着盗まれたのよ~。あなたも若いんだから気をつけなさいね!」とか言ってたから、過剰かもしれないけど被害に遭ってからは遅いしね。

この辺りは割と治安は良いハズなんだけど、居るところにはやっぱり居るもんだなぁ。


「付き合わせてゴメンね」

「いや、構わない。コインランドリーも今丁度誰も居ないし、二人きりになれて嬉しい」と、私の左手を取り、指輪を一撫でする。

さらっとこういうのを言っちゃうんだよな。

対面で座っていたけど、ちょっと甘えたくなって隣の席に移動して肩を寄せる。

一瞬驚いたようだけど黙って受け入れてくれた。

視線が、視線が・・・甘いっ!

毎回思うけど、顔面殺傷能力高いな、この人は。

顔が小さい上に骨格は恵まれていてもはや全身が男前すぎる。

SNSで「国宝級イケメン」と騒がれてるのがわかる。


「ナギは洗濯どうしてる?」

「寮内に共有の洗濯機があるからそれを利用してる。とはいえ数が人数と比べると足りないから争奪戦が激しいな。早朝と夜は使用禁止など制限もあるから結構面倒くさい。以前決まりを破ったやつが寮母に制裁をくわえられてた」

「そうなんだ」

寮母さん強いな。

制裁、って何を?と思ったけど、深く聞いてはいけない闇を感じた。

などと会話していたらスマホの通知音が鳴る。

ネット上の友達が私宛に「見てみて!今回の白の貴公子様の写真も破壊力すごい!もはや兵器!!!!!ってか常々思ってたけどこの人人間じゃないでしょ!!!」とリプしてきた。

ナチュラルにバイオハザード扱いされてる。

この「サメスキー男爵」さんはやたらと白の貴公子ファンで「サメ映画の次に白の貴公子様推し!

」と白の貴公子公式SNSが更新したら相互フォロワーに対して毎回リプを飛ばしてくる。

そのあまりにも強い押しのせいで彼?彼女?自身のフォロワーが減ってると別の相互さんから聞いたけど、この行動は改めるつもりが無いらしい。

趣味が同じ人間だけが集まればいいと割り切ってるって言ってたけど、その熱意は凄いな。

というか、ナギがサメ映画に負けてるのがなんか悔しいような。

サメ映画ファンって濃いなぁ。

人の事言えないけど。


ナギと出会う前は「ホントですねー格好いいですねー」と適当に返信してたんだけど、最近はちょっとなんて返せばいいのか戸惑っちゃうな。

適当に「いいね」を押しとこうか。


「友達?」とこちらのスマホの画面は見ないように控えめに聞いてくる。

こういうさりげなく私のプライバシーには踏み込みすぎないところが好きだ。

「うん。ネット上の。なんかナギの公式SNSが更新されたって連絡来た。その人ナギのファンなんだ」

「ああ、そんな時間だったか」とナギはナギで自分のスマホでどんな内容が投稿されたかを確認しだした。

普段は広報の人らに任せきりだけど、パスワードは教えられてるようで「番いの託宣を受けた」と投稿をして多大な数のフォロワー離れが起きてしまって色々と大変だったらしい。

本人は「それでこの広告塔から解放されるのならそれで構わない」と言ってたけど、広報の人ら大変だっただろうなと彼らに同情した。

護国機関に入隊してすぐに広告塔として起用したいと申し出があった時には軽い気持ちで受け入れたらしいけど、それがこんなにも反応あっただなんてと以前に愚痴っていた。


どんな写真が投稿されたのかと私もつられてスマホを見たら・・・なんかこう・・・色気駄々洩れなナギの写真が。

確かにこれはクリティカルヒットだわ。

作務衣?甚平?和装姿で手にした団扇で口元を隠しながらのカメラ目線の写真。

本当にごちそうさまですっ!!!!って感じ。

思わず「かっこ・・・いい・・・」と呻き声とともに口に出してしまった。

気持ち悪い笑みを隠すように机に突っ伏すものの隠し切れない声にならない声が出てしまう。

オトナの男の色気よ!!!

尚もうめき声をあげていると、いまだ顔をあげられない私の髪を一掬いした気配を感じる。

髪の毛とはいえ、不意に触られるとドキドキする。

いつまで経っても心臓の動悸が収まらないでしょうが、と机に突っ伏しながら顔をナギの方に向けると同じように机に突っ伏してたナギがこちらを向きながら慈愛の表情で「和装、好き?」なんて聞いてくる。

和装というか、ナギがする服装ならなんでも好きだよと思いつつ、軽く「ん」と頷く。

「好きだよ。顔も、声も好き」とつい小声で言ってしまった。

その綺麗すぎる顔で苦労したナギに対して言う事じゃなかったかなと後悔したけど、口から出てしまった。

「そうか。みやびが好きなら、この顔で生まれて良かった」なんて言ってくる。

私の発言を不快には思わなかったらしい、良かった。

またも私の髪の毛を一掬いして軽く口づけた。

さっきもこれしたのかな。

なんか照れる。


「私服で甚平買うか。みやびにだけ写真送るから、可能ならSNSを教えて欲しい」なんて爆弾発言まで飛び出た。

私たちが普段使用してるメッセージアプリは文章と用意されたスタンプだけで画像が貼れないタイプだから。

「いいけど。私のSNSは映画の感想とかがメインでさほど更新してないからつまんないよ」とようやく顔を起こしスマホをかざしてIDを見せる。

すぐさま「新しいフォロワー」という知らせが届いた。

鍵垢でプロフィールアイコンも何もない、一見するとただの捨てアカみたいだ。

IDも登録したての英数字がランダムに羅列されてる。

明らかに「今適当に作りました」というアカウントだ。

「今後、DMでみやびにだけ俺の写真を送るから」とさらっと言う。

なんかこの特別感っていいな。

私の心臓がもちそうにないけど。


そんな話をしていたら乾燥終了の音が響いた。

洗濯したての服を鞄に詰め込んでいたらスマートに右手が差し出された。

割と重いカバンを申し訳ないなと思いながら素直に渡す。

そして当然のように左手を出し「手を繋ごう」と示される。



そこでふと「まだお礼をしてなかったな」と思い出した。

「あのね、ちょっとかがんでくれる?」と言うとちょっと怪訝な顔をしながらも腰を落としてくれた。

「ご飯のお礼してなかったから。ありがとう。美味しかったよ」と頭を数回撫でる。

触れた瞬間体が硬直したみたいだけど、大人しく頭を触られたままになってくれた。

なんだかこっちも照れくさい。

手の動きが終わったと感じたナギはすぐさま姿勢を正すけど、自分が何をされたのか理解できなかったようだ。

そりゃ大の大人がいきなり小娘に頭撫でられるとは思わないよね。

「ゴメン、友達にお礼なにしたらいいかって聞いたら頭撫でろって言われたからしたんだけど、不快、だった?」

「いや、驚いただけだ。その友達には礼を言わないとな」

そこまで喜ぶ?

なんだかとてもナギが可愛らしく思えて、もうしばらくナギの頭をなで続けたのだった。



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