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第18話 ナギの些細な悩み ナギ視点

空き時間に「フェイル」という名前のアカウントの過去の書き込みを見るのが習慣になった。

「映画の感想がメインでさほど更新してない」と言っていた通り、映画や読んだ本の感想、そして日々のふとしたことばかりだった。

特に性別を示唆するような書き込みは一切見受けられなかった。

プロフィールのアイコンもフリー素材だろうイラストの鮫だ。

・・・鮫に対する熱意がすさまじいな。

あまり詳しくないので以前「サメというとメガロドンが好きなのか?」と付け焼き刃の知識で聞いたら「そうでもないかな。サメの種類で言うとアオザメかなー。メガロドンとは時代が違うけど、メガロドンと比べると天敵として名前の挙がるモササウルスの方が好き。爬虫類なんだけどね。いいよね、モサたん」と返されて返答に困った。

モサたん?かねてから思っていたがみやびはネーミングセンス(?)が独特だな。

まぁそこも含めて可愛いんだが。



あまり活動的に書き込みはしてないと言っていたが、他のアカウントとやりとりをしてるのがよく目に入った。

フォロワー数はさほどでもないが、映画の批判は一切しないというスタンスが好感を持たれてるのか意外と他アカウントとのコメントの交流が多い。

以前俺のファンだというサメスキー男爵というアカウントを筆頭に、映画ファン同士と思われるアカから「あのシーン良かったですよね。溶鉱炉に沈みながら右手でサムズアップをするシーンは涙が止まりませんでした」「ホーム・インベージョンが苦手でもサプライズっていう映画ならイケると思いますよ。お勧めです」「フェイルさん4DX初体験してきたんですねー。ぶっ飛んだでしょ?」「私のお勧めはネットフリックス限定なんで見てもらえないのが残念です」などと情報交換をしてるようだ。

それにしてもやたらと溶鉱炉に沈みながら右手でサムズアップをするシーンがある映画があるのだな、と思った。

これはアレか?いわゆるネットミームというやつなのか?

俺の公式SNSは基本広報に任せきりだし、SNSはあまり触らないからわからないが。

俺の知らないみやびと誰かとの親し気なやりとりは正直嫉妬するな・・・。

みやびに写真を送るためだけに即席で適当に作ったアカウントだが、鍵もかけてるし他のアカウントをフォローする気もないしみやびとならこういうやりとりをしたいな。

そう思いながら、書き込みをさかのぼる。



コンビニの新商品が美味しかったのでリピートしたという話。

バイトで客に絡まれたという愚痴。

友達と近所の公園で花見をした思い出。

異常気象を嘆く書き込み。

面白いと勧められたアプリゲームはキャラクターに興味があるがやる暇がないと残念がったり。

隣人の女が恋人といちゃついてる声が聞こえてきて困ってるという戸惑い。

個人が趣味で作ったと思われる診断メーカーを試しての結果。

うっかりジャパニーズホラーを見たら怖くて風呂に入れなくなったという意外な書き込み。

開封してない牛乳の消費期限が明日だと気づいて途方に暮れた嘆き。

見ていた連続ドラマが衝撃的なラストを迎えて放心したり。

味変するタイプのインスタントラーメンを食べたら変化する前の方が好みだったとか。

サメのマスコットのガチャガチャが2つ連続で被ってしまい、挙句に結局欲しいものが出なかった悲しみ。



俺の知らない彼女がそこにはあった。

書き込み1つ1つは些細な日常だけど、喜怒哀楽がそこから伝わってくる。

確かに彼女だなと思える書き込み。

書き込みをしてる様子まで脳内で再生される。

もっと早く出会っていたら、俺もこの思い出の一つとして彩られていたのだろうか。

番いの託宣が無かったら、街で彼女と遭遇していたら俺はどう思ったんだろうか。

俺たちはどうなっていたんだろうか。

今はこんなにも愛おしいのに。



「あれ?珍しい。ナギがSNSを見てるだなんて」

声がして振り返ると、シオンが加賀宮と共に立っていた。

「ああ。みやびとやり取りするために新たにSNSのアカウントを取ったんだ。今はみやびのアカウントを見てる所だ」

「へえ、SNSやってたんですね彼女」

「日常系の呟きだけどな。女性だというのも明らかにしてない」

「あ~ネットだと思い込みが激しいのが居ますからね。私も女性だと思われて変なのから言い寄られたことありますよ」

やはりその類の人間が居るのか。

ネットでしか知らない相手にどうしてそこまで執着するのか、まるで理解できない。

「お前はネットでも一人称からして私だから勘違いされやすいんだろうが。カフェの新作も発売すぐに写真あげるから特に誤解されるんだろ」

「彼女との付き合いで行ったカフェの写真なんですけどね~。」

加賀宮がやけに詳しい。

「加賀宮、お前もSNSやってるのか?」

だとしたら意外だ。

「いや、以前こいつに相談されたから知り合いのロジックマスターを紹介してそのストーカーを消してやった。・・・物理的に消した方が早いとは思ったんだが」


ロジックマスター。

俺も白の貴公子として広告塔になってから、インターネットで過度な隠し撮りや不適切な書き込みがされるが、ネット内を即座に巡回、監視・消去する異能を持ち、情報統制を行う存在「電子警備隊」が護国機関には居る。

番いの指輪をはめているみやびが俺の番いだと周囲にバレないように、同時期に番いが何人か発生したかのような書き込みをしてるのもそいつらの動きだと聞いた。

能力が能力だから存在が秘匿されて俺も面識がないが、加賀宮はどういった人脈を持っているんだ。

加賀宮はそれ以上ロジックマスターについて語る事もなく、話題は自然に雑談へと変わっていった。



「ところでシオン、俺はネットには疎いんだがみやびの過去の書き込みに全部いいねを付けたら気持ち悪がられないだろうか?」

「その発想がすでに気持ち悪いからもう手遅れですよ」

「おい、シオン。本当のことを言うんじゃねえ」



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