買ってきた所謂デート雑誌とぱらぱらとめくる。
女性がどういう場所を好むのかイマイチわからないので参考にしようと思ったが、どこもピンとこない。
一番喜ぶのは映画鑑賞だろうが、毎回同じだと呆れられるかもしれない。
こういう時、自分のふがいなさに苛まれる。
読んで時間の無駄だったと思い「これ、ここに置いておくから好きに読んでくれ」と言うと「嫌味か。恋人が居ない俺たちに対する嫌味か」と一斉に罵倒された。
そんなつもりはなかったんだが。
というか、みんないいやつなのに恋人が居ないとか世の中の女たちは見る目が無いな。
「あ~やだやだ。モテない男たちの僻みって怖いですよね」とシオンが紅茶片手に俺の隣に座った。
同じように珈琲を持ってきた加賀宮が俺を挟むように座る。
俺が先ほどまで読んでた雑誌を一瞥すると「お前こんなのを読むようになったのか。世も末だな」と吐き捨てるように言う。
「いいじゃないですか。恋愛初心者って感じで。ビギナーらしく動物園とかどうです?」
「動物園か。猛獣が大目のお勧め動物園はないだろうか」
「なんなんです、そのチョイス。・・・普通小動物とのふれあいコーナー目当てとかじゃないんですか?」
「いや、みやびはB級映画で人が襲われる系が好きだから猛獣を見たいかな、と。だとしたら水族館はどうだ?サメをメインにしてる所はないか?」
「さっきからなんなんですか。ってか彼女あの可憐な見た目でそんな趣味なんですか」
「特にサメ映画が好きなようで、この間一緒に温泉からサメが出てきて人を襲う映画を見た」
「温泉?え?温泉からサメ?ちょっと意味が分からないのですが」
「隣のお前の部屋からやたら絶叫が聞こえるのはそれ系の映画か」
やはり壁越しに聞こえていたか。
あまり好きではないがヘッドフォンを使った方がいいかもしれない。
「勧められた映画がどれもこれも絶叫しまくるからな。迷惑をかけたのならすまない」と頭を下げる。
「別に騒音ってわけじゃないんだが、どういう趣味だ」
加賀宮が怪訝な顔をする。
「・・・まぁそれは置いといて。映画鑑賞が好きなら普通に家でサブスクででも映画見てたらいいじゃないですか」
「しかしそればかりだとマンネリじゃないのか?」
つまらない男だとは思われたくない。
もしみやびに愛想をつかされたら、と思うと胸が痛い。
「自宅で映画鑑賞だなんて合法的におうちデートが出来るじゃないですか」
「そんなものがあるのか、合法という事は違法もあるのか!?」
聞いたことのない言葉だ、合法おうちデート。
隣で加賀宮がコーヒーを噴出した気配がしたが構わずシオンに詳しく話を聞きたい。
「合法じゃないと逮捕されちゃいますからね。気をつけないと」
「そうなのか。俺は男女の営みには疎いからな。シオンが居てくれて助かる」
「おいおい、わかりやすいウソに騙されてんじゃねーぞ。ってかなんで信じるんだ」
違法と合法をどう見極めるのだろうかと不審に思い少し怪しいと思っていたが、嘘だったのか。
「ではおうちデートというのも、ない・・・のか」
もはやシオンの言葉がどこまでが冗談でどこが真実かわからなくなってきた。
「おうちデートは二人でまったり映画鑑賞とか、ゲームで遊ぶとか、雑談とかですね」
「なるほど。みやびは人込みなど苦手そうだからゲーム機を買ってきて遊ぶとかそういうのはいいかもしれないな」
とはいえ俺もゲームには疎いが、最近は多種多様なジャンルのものがあるというし、2人でソフトを選びながら買うのもいいな。
丁度夏休みも始まるし、勉強漬けの生活の気分転換にはいいかもしれない。
1度見始めたら90分ほど束縛される映画鑑賞とは違って短時間でも気軽に楽しめそうだしな。
いいリフレッシュになりそうだ。
「あとは上級者向けですが、同棲体験というのもあります」
「!!なんだその魅力的過ぎる単語は」
同棲、だと?
「一緒にお風呂入ったり、一緒に寝たりするんですよ」
風呂・・!同衾・・・!!!
「くっ!世の恋人たちはそんなことをしているのか・・・。したいな、同棲体験・・・」
「なに食いついてやがんだ」
「最近のナギには親しみ湧いてくるわ、俺」
「わかる、人間味が増したっていうか、からかいがいがあるっていうか」
「というか今の御厨が隊長で壱番隊大丈夫なのか?」
「仕事はできるんだよな、あいつ」
「おい、今度どこまで嘘を教えて信じるか賭けしようぜ」