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第20話 藤原みやびはいちゃいちゃできない みやび視点

「3年1組の藤原みやびさんが番いとして託宣を受けました。おめでたい事ですね。祝福してあげてください」

1学期最後の全校集会で、さらっと校長が爆弾発言した。

うちの野球部が甲子園に出場決定しました、みたいな感覚で言わないで欲しい。


担任に「番いとして選ばれたので指輪つけっぱなしの義務が生じたんですがいいでしょうか。いいですよね。ありがとうございます」って言いに行った結果がこれかー、思わず天を仰ぐ。

クラスメイトからはもちろん、知らない人間からも探るような視線を感じるしあちらこちらで「藤原って誰?」「あの目立つ茶髪」と声が聞こえる。

進学校の割に自由な校風なので、私以外にもちらほらと髪の毛の色が違う人間がいるけど「派手な茶髪」扱いだったのか、私。

確かに明るめの色だし、地味なデザインとはいえピアスやイヤーカフもつけてるけど。

ってか大事な生徒をさらし者にしないで欲しい、校長先生。

まぁ校長としても「権力者の大事な存在」として世間で周知されてる「番い」の扱いに困った結果だろうけど。

「大事な番い様だからお前らはくれぐれもちょっかいかけるなよ(圧」って事かー。

ざわつきが収まらない中、校長は最後に「受験、就職を控えてる3年生は特にこの最後の夏に遊び惚けないように」と釘を刺して解散となった。


ぞろぞろと体育館を出、私もかなっぺとはるっちに慰められながら足取り重く教室へと戻る。

「さらし者になっちゃったね~」「あの場で言うかな。恥ずかしくて穴があったら入りたい」「よしよしあたしが慰めてあげよう」と2人で言いあいながら私の事を周囲の視線から遮ってくれる。

持つべきものは友達だなぁ。

ぼちぼち教室の前という所でまだ廊下にいる人間全員がこっちを凝視してこそこそと何かを語り合ってる。

非常に居心地が悪い。

ナギっていつもこういう好奇の視線を浴びてるわけ?

それであんなにも平然としてるんだなんて凄いな、あの精神力。

私には耐えられそうもない。


「ふ、藤原ああああああああああああ」

廊下に男の絶叫が響き渡る。

ってか廊下だよ、騒ぐんじゃないよ。

「お、おまおまお前、今の話は本当か?」

宗像(むなかた)。また面倒くさいのが来た。

1年の時にたまたま私が学年1位を取ったのを恨んでテストの時期になると私に絡んでくる迷惑な秀才同級生。

というか私が成績を上回ったのはあの時だけでそれからずっと宗像が1位を死守してるんだからいいじゃんと思う。

何故かライバル認定されてしまったけど、一回だけ1位を取っただけでその後は私の成績は2~5位をうろうろしてるレベルなんだから、粘着されても困るんだけど。


精神的に疲れ果てて相手する気にもなれないから「そうだよ、指輪見る?」と左手を掲げて適当にあしらって追い払うつもりで言ったこの言葉に反応したのは周囲の学生だった。

一気に取り囲まれてしまった。

「えー?見たい見たいー!」

「実物初めて見た~~」

「これって税金?税金で買ったの?」

「うわ、高そう~~」

「思ったよりおしゃれじゃん」

「これって数年前に女優の堂島エリが番いと結婚した時のデザインと同じじゃん。やっぱデザインって統一されてるんだ」

あっという間に囲まれて質問攻めに遭う。

「デザインは固定されてるみたいだけど、税金使ってないよ。自分のお金で買ったって言ってた」

そこだけは訂正しておかないと。

幾らかは聞いてないけど、宝石もついてないシンプルなデザインだからさほど高価ではないんじゃないかな。

国から発行された番いの証を見せないと同じデザインのものは買えないって聞いたけど、類似商品が出回って自称「白の貴公子様」の番いと称する女性が大量発生してるってニュースでも報道されてたな、そういえば。

影響力凄すぎ。

怖いよ、そりゃナギも女性不信になるよ。



宗像は私を取り囲む輪に入れずに外側から「お、お前、番いだなんてこの大事な受験の時期に何考えてるんだ」なんて言ってる。

そう言われても巫女様の託宣とやらでナギの番いが私だと言われただけなので私のせいじゃないんだけど。

そもそも受験か~。

4年制の大学には進むつもりが無いとはいえ、まだどうするか悩んでるんだよね。

もうあまり進路に悩んでる猶予ないけど。

幾ら大学には進学しないと思いつつも確かに夏休みに遊びまくり勉強する時間が取れなくて順位が下がったら目も当てられないからそこはきちんと考えておかなきゃ。

夏期講習も積極的に受けに行かないとなぁ。

そうなるとバイトのシフトも調整しないとダメだなー、収入が減るのは正直痛い。

でも貴重な夏休みだし私だってナギと一緒に過ごしたい。

そういや護国機関の夏休みってどうなってるんだろ。

出来れば休み合わせたいなぁ。


「みやちんは受験する気が無いから毎晩イケメン彼氏といちゃいちゃしてるんだよ。夏休みなんてそれこそ勉強する時間がないよね~」

かなっぺ?煽らないで??

そして周囲からキャーーーーーーーーーと絶叫。

「いやいやいやいや。してないから、いちゃいちゃは」

毎晩でもない。

ナギの仕事は夜廻りとか遅番とかあるから毎日とか無理だってば。

「でも毎晩会ってるんでしょ?健康的な男女が同室に居たらそりゃもういちゃいちゃしかやることないよね」

名前も知らない子がさらに大声で言い出す。

誰だ、君は。

ってかそうなの?いちゃいちゃしかやることないの?

他にあるよね、色んなこと。


でも、ナギもいちゃいちゃしたいのかなあ?いやそりゃ男の人だししたいんだろうなぁ、うぅん。

私も興味が無いわけじゃないんだけど、ああいうのってどんなタイミングでするんだろ。

番い=結婚前提みたいなものだから人によってはもうしてるんだろうか、いちゃいちゃを。

「お、お前。してるのか、いちゃいちゃを・・・」

宗像の震えた声が聞こえてきた。

どうでもいいけど、学校の廊下でいちゃいちゃを連呼しないで欲しい。

ってかなんだこの羞恥プレイは。


「おい、お前ら何を騒いでるんだ。早く教室に入れ」

ナイスタイミングで担任お目見え。

この騒動からようやく解放されるかと思われたら宗像がまたもや声を張り上げた。

「先生!ふ、藤原が不純異性交遊をしてます、ふ、ふしだらです。破廉恥です。淫らです。えっちです。学生なのにいけないと思います」

告げ口する小学生男児か。

そしてやけに語彙力豊富だな。

「だからしてないって?話聞いて?」

「なに、いちゃいちゃって・・・番いとか?」

「してないんですけど?先生も私の話を聞いて?」

「む・・・ま、まぁ番いとならいいんじゃないか?ただし、節度は守れよ」

なんで誰も彼も私の「してない」という言葉を無視するの?

そんなにいちゃいちゃしてるように見えるんだろうか。

そしてまさかのいちゃいちゃ公認、いいのか進学校。

さっき校長先生が「遊び惚けるな」って言ったとこじゃん。

というかいちゃいちゃの節度ってどの辺まで想定してんの?

教師の言葉を受けた宗像は顔色を赤色から青色へと器用に変え何かを叫びながら去っていった。

まだホームルーム残ってるんだけど、あいつどこ行った?

「良かったじゃん、いちゃいちゃのお許しが出て」

はるっちが私の肩を抱きながらささやく。

「良かった・・・の?うーん」


色々と考えなきゃいけないことはあるけど、とりあえず宗像が言ってたように来期のテストでは順位を落とせないから夏期講習の日程を再確認しないとな、と思った。

順位が落ちて優待生取り消しなんてなったら人生計画考え直しだ。

今更学費が免除取り消しになったら目も当てられない。


どっちにしても、いちゃいちゃは当分できないなぁ。





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