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第21話 聖地巡礼 ナギ視点

部屋に入ってきた杠葉(ゆずりは)長官が響き渡る声で「御厨(みくりや)ちゃん。ぼちぼち”聖地巡礼”の時期だからよろしくね。行きたい場所があったら考慮するよ」と俺に対して言った。

”聖地巡礼”か

いわく「信仰心の向上のために寺社仏閣を護国機関の広告塔である俺が周ってSNSで宣伝。真似するやつらに同じ道取りで巡礼してもらう」というやつだ。

俺が聖地巡礼するんじゃなくて、巡礼したくなるように聖地を作り出すというものだ。

誰が考えたんだこんなん。

しかし恐ろしいことに過去の巡礼もかなりの人間が参加したという。

俺目当てなやつらの巡礼で信仰心向上も何もないとは思うんだろうが、案外効果があるらしい。

SNSではこれをきっかけに「御朱印集めに嵌った」という声も見かけられるらしい。

「国防の為には神への信心が必要」と謳う敬神の会の訴えもあり、白の貴公子と祀り上げられてから不定期に行っている。



今までだったら何日だろうが、どんな遠方だったがどうでもよかったが、今はとにかくみやびと離れたがい。

しかも今はみやびが夏休みに突入してるので、バイトがあるとはいえ通学してる時よりも長く一緒に過ごせるというのに。

杠葉長官はそんな俺の様子を見てニヤニヤと人の悪い顔で笑ってる。

「はっはーん。番いちゃんと一日でも離れたくないって顔してるね。あ、そうだ。なんなら彼女連れて行っていいよ、どうせなら今回は恋愛成就とかそっちの系統にしちゃう?九州か山陰地方とかいいね」

「みやびと?」

「そう。なんなら温泉の名所とかピックアップしとくよ」

「みやびと。温泉」

「番い同士、密室、温泉。何も起きないはずがなく・・・」

「起きるんですか、何かが」

思わず身を乗り出してしまう。

「おいおい、御厨、なに甘言に乗ってんだ。お前常々「私生活と仕事は別」って言ってんだろうが。長官も煽んないでください」

傍で一部始終を聞いていた壱番隊副隊長の天方(あまかた)が暴走しそうだった俺を制する。

彼女の事になるとつい我を忘れるのはダメだな。

我ながらこんなにも自制がきかないとは思わなかった。

「くっ。そうだった、思わず温泉に入ってる姿や浴衣姿のみやびを想像してしまった」

煩悩を断ち切るように数度頭を振る。

何故だか杠葉長官と天方の視線がとてつもなく生ぬるい。

「・・・お前とは割と長い付き合いのはずだけど、こんなぽんこつだとは思いもしなかったぜ」

天方に心底あきれたように言われてしまった。

とはいうが、一番驚いてるのは俺だ。

将来、適当に見合いか何かで薦められた女と結婚して子供を作り、可もなく不可もなしな結婚生活を送ると思っていたが、まさかこんな身を焦がす恋をするだなんて。



「天方お前が居て止めてくれて助かった」

みやびとの初めての旅行がこんな仕事がらみだなんて嫌だしな。

2人きりならともかく、広報のやつら付きだなんて冗談じゃない。

この聖地巡礼には、旅程管理や細かいサポートの為に広報の高木と松島が基本付き添う。

「隊長の補佐が副隊長としての役割とはいえ、温泉に目がくらんだお前を止めることになるだなんて想像付かなかったな」

「くっ、恐ろしいな・・・温泉・・・」

「じゃあ、聖地巡礼は近々行ってもらうからね」

「了解しました、俺は場所の指定はないから好きにしてくれと広報にお伝え願います」


「御厨隊長~~!!ちょっと確認事項があるんですが、いいですか?」

タイミングを見計らっていた隊員が話が終わったとみて声をかけてきた。

「今行く。では長官」

軽く頭を下げ、辞する。

「はいはい、お仕事頑張ってね~~」




「ってか、あの二人、まだ清い交際なんだ。御厨ちゃんがあんな中学生レベルの恋愛してるだなんて思わなかったよ」

「実際に見てお分かりでしょうが、あいつ恋愛初めてなんで彼女が絡むとかなりのぽんこつなんですよ。仕事は卒なくこなすんですがね」

「まぁお相手がまだ学生だっけ?学生の内は手を出さないって自制してるのかもだけどねー。就職とか進学とか微妙な時期だし」

「その分結婚したら反動が凄そうですけどね」

「・・・番いちゃんにグッドラックって伝えてね」




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