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第25話 都市伝説 みやび視点

「番いってさ、2人の邪魔すると祟られるっていうじゃん?」

バイトが終わって控室で私服に着替え中。

たいして仲良くもないバイト仲間が突然話しかけてきた。

なにそれ初めて聞いた。

「マジでー?こっわ!」

それに、こちらもたいして仲良くもないバイトの子が応じる。

「いやーよく聞くよー。運命で紐づけられた二人を引き離すやつは一生不幸な目に遭うってやつ」

それって自分の番いを溺愛してる権力者によってごにょごにょされただけじゃない?

というか都市伝説化してるとか凄いな。

それとも以前からあったのかな。

自分が番いとして選ばれるとは全然思わなかったので、その辺りは詳しくないけど。



「そんな忠告受けてないし、質の悪い噂でしょ?じゃあまた明日ね」

ナギが今日も迎えに来てくれるはずだからとっととここを出て彼に会いたい。

彼も明日仕事だから私たちが二人で過ごせる時間は短い。

私の部屋で今日起きた出来事などを食事しながら話すこの貴重な時間は無駄にしたくないし、邪魔されたくない。

着替え終わってバイト中に着けていた比較的おとなしめのイヤーカフからちょっと派手なものに付け替えて部屋を出た私を慌てて彼女らは追いかけてきた。


なんだかんだ言いながら2人とも待ち合わせ場所の時計塔までついてきちゃった。

「今日も迎えに来てくれるんだ」

「そうだよ。私たちはラブラブだからね」

あまり番いの話は降られたくないからスマホを触りながら、わざと冷たい態度をとるけど本気で嫌がってるとはとらえてないらしい。

「ひゅーひゅー」

かなっぺも以前にひゅーひゅーって言ってたけど、流行ってんの?ひゅーひゅーって。

「あーあー私も藤原の彼氏のようなイケメン番い欲しいわ」

「どういう裏技使ったんだよ」

使ってないよ。

なにその裏技って。

「白の貴公子さまも番い居るし、最近は番いブームなんかね?」

一瞬ドキっとする。

詳しい仕組みは聞いてないけど、私の番いでほぼ毎日待ち合わせをしてる「ナギ」が白の貴公子こと御厨ナギだという認識が阻害されてるらしい。

「あんたの番いって格好いいじゃん。カレの名前教えて」と言われてるけど、ごまかしてる。

私がナギの番いだってバレたらどうなるんだろ。

「番いブームね~、なんかネット見てると複数人番いの託宣を受けたって人居るね」

「ネットの人らも自分の番いが誰だーとは言ってないからどういう組み合わせか知らないけど、やたらと白の貴公子さまの番いを自称してるのが居るよね」

それでいいのか、その人たちは。

ってかナギの番いが私だってバレたら間違いなく刺されるな、絶対にバレないようにしないと。

「貴公子様の相手って藤原みたいな小市民じゃなくってどうせお金持ちの御令嬢でしょ?」

「だよね~。藤原はありえないよね」

酷い言い草だ。

でも私もありえないとは思ってる。

「でも番いの託宣を願い出る人らって巫女様ってのに認められた優れた人らだけなんでしょ?いわゆるエリートってやつ?」

「うちらが番いが誰だとか見て欲しいって言ってもダメっていうかそもそも申し込む方法すら知らないし」

尚も盛り上がる2人。

用がないのなら解散したいんだけどなぁ。

スマホを見続けていたらナギから「悪い、ちょっと遅れてる」とメッセージが来てた。



スマホを鞄になおし、たわいのない話をしていたら3人組の男がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。

「ね、ね、彼女たち今帰り~?」

「夜道は危ないから俺ら送ってあげるよ」

「親切でしょ~www惚れちゃう?惚れちゃう?」

わかりやすいナンパだ。

っていうか初めて会った人に「やだ、送ってくれるだなんていい人だわ。ぽっ」なんて思う女居るのか。

居たら逆にすごい。

同僚らも目に見えてひいてる。

この手の手合いは無視するのに限るんだけど、段々と語気が荒くなってきた。

ヤバい、二人が勢いに押されて怯えてる。

どうしようかな、とりあえずこの子らだけでも逃がそうかな、逃げてくれるかなと思っていたら彼らに対して飄々としてる私に怒りが向いてきたらしい。

昔から「お前のその態度がいけ好かない」ってよく言われてたのを思い出す。

この手の輩は怯えたら怯えたで調子に乗るくせに。


幸か不幸か誹謗中傷のターゲットを私一人に絞りだしたようだ。

私にヘイトが向かってる間に二人がとっとと逃げてくれたらいいんだけど、どうやらそういう機転も利かない状況らしい。

そりゃ普通は怖いよね、わけのわからない男らに付きまとわれたら。

男たちの発言の中に段々と暴言が目立つようになってきた。

チョーシこいてる生意気なクソ女だと思うのなら最初から声かけないで欲しい。


男の内の一人が私の指輪を見て番いだと気づいたらしい。

それで諦めてくれたらよかったんだけど「こいつ番いじゃんww」「番いなら男を寄せ付けるような格好してんじゃねーよ」「なんだ、金持ち野郎の売約済み女かよ。声かけて損した」「いやでもこいつもニセモノかもじゃん、ほら貴公子さまとやらの自称番いみたいに」「マジもんの番いなら、あの都市伝説が本当かどうか試してみようぜ」などと口々に言い始めた。

声かけて損した、ってなんだ。

そして私は自分の身に着けたいものをつけてるだけだよ。

あんたらの気を惹く為じゃない。

こんな所にもさっき聞いた都市伝説が蔓延してるのか、すごいななどと他人事のように嵐のように降りそそぐ暴言を他人事のように受け流す。

気が済んだらとっとと帰って欲しい。



その時、すっと周りの空気が冷えた、気がした。

「俺の番いに何か用か?」

今まで聞いたこともないくらい冷めた声がしたかと思ったら、いつの間にか私の後ろに立っていたナギが背後から抱きしめてきた。

体格差のせいで彼の腕の中に包み込まれてる。

背中越しに、彼の鍛えられた体を感じる。

そのあたたかな体温と共に。


ナギは自分の手の番いの指輪を見せつけるように男たちを威圧する。

ただでさえ身長が180センチ超えてるから殺気出してると尋常じゃなく怖い。

私からは見えないけど、おそらくその端正な顔も怒気に染まってるんだろうな。

男たちは目に見えて狼狽し始め、顔面蒼白になってるのが正直気持ちがいい。

ザマァ。

内心ほくそえんでたら「遅くなってすまない」と背後からの抱擁を解かないまま自然に頭頂部に唇を落としてきた。

同僚がぎゃーぎゃー騒いでるし、なんなら遠巻きにこちらの様子を見ていた通行人たちからもいろんな意味の悲鳴が上がってる。

正直、ナンパ野郎どもを完膚なきまでに叩き潰したいのはやまやまなんだけど、この注目具合はヤバイ。

ナギに挑みかかる根性も逃げ出すことも出来ずに男たちは硬直してる。

今のうちにどっか行って欲しいんだけど、それすらできないのか。

しょうがないな。


「ね、もういいから行こうよ」と振り返り強引にナギの手を取って歩き出そうとする。

だけど、ナギとしては心底腹を立ててるようで尚も男たちを睨みつけてる。

私の為に怒ってくれるのは嬉しいんだけど、この人は「白の貴公子」という認識が阻害されてても自分が目立つ容貌だってのはもっと自覚してほしい。

「私お腹減ったから。早く帰ってご飯食べたい」

上目遣いであざとく甘える声を出して強引にその場から連れ去る。

周囲の女たちの殺意の籠った視線がかなり痛いけど、こんなところで騒動を起こされるよりマシだ。

ナギの、男たちを射殺す視線がふんわりとしたものに代わって、さらに女性らの黄色い声が響く。

「そうだな」

声までもさっきの、聞いてるだけで人を絶望に落とし込めるような声色とはまるで違い、どこまでも甘い。

これに懲りたらあのナンパ野郎どもも二度と女に声をかけませんように。




その後、私が知る都市伝説に「番いの女に手を出すとデカイ男が現れ、消される」という一文が追加されたらしい。




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