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第27話 調査報告 シオン視点

庁舎内の無駄に長い廊下の先。

とある一室で立ち止まり、ノックを3回し部屋の主から「どうぞ」と許しを得て「失礼いたします」という言葉と共に部屋へと入るがそこに意外な人物がいた。

「加賀宮・・・隊長」

今まさになにかの報告を終えたところだったのか直立不動のまま、視線だけこちらに寄こす。

「タイミングがいいね~シオンちゃん。丁度加賀宮ちゃんから話を聞き終えたところだよ」

「杠葉(ゆずりは)長官。加賀宮隊長にも何か命じられたのですか?」

人当たりのいい笑顔で柔和な雰囲気を持つ杠葉長官は味方だと心強いが敵に回すと恐ろしい。

中年といっても差し支えない年齢だが、血の気の多い隊員らが忘年会の席で酒に酔って暴れた時には一人で制圧したという。

その隊員らは「生涯酒を飲まない」と今も断酒の誓いを立てているようだ。

実際に何があったのかはその酒席に居た全員が口をつぐんでるから、何が起きたのかは永遠の謎だ。

現役は退いて警護隊のみならず護国機関の全体的の指揮を執ってるが、色々と底知れない人だ。


「そうなんだよ~いや~御厨ちゃんの溺愛ぶりを聞いてね。ふと思ったんだ。いくらみっちゃんが視た番いだと言ってもここまでかな~って不安に思って所に、加賀宮ちゃんが番いちゃんの身辺調査を申し出てくれてね」

三つ目の巫女を「みっちゃん」呼ばわりとは巫女姫を擁する敬神の会が聞いたら激高しそうだな。

それにしてもあの面倒くさがりの加賀宮が自ら申し出た?

若干の違和感を覚えつつも、杠葉長官の「ほら、うちの大事な籠の鳥を狙うわる~いノラネコちゃん一派の可能性もあるでしょ」という言葉に現実に引き戻された。

我々護国機関の警護の仕事の一つに異能力者の保護がある。

それまでの家族や友人関係を絶たれ、戸籍を抹消され新しい戸籍が発行され悪意ある者たちから守られるその様は「籠の鳥」だと揶揄される。

そして異能を持つ人間らが構成する通称「ノラネコ」らが籠から鳥を放とうとしてる。

鳥たちの意思を無視して。

彼らが自称する名前があるが、杠葉長官の「異能開放なんちゃらかんたらって長い名前覚えるの面倒だからノラネコでいいや」と鶴の一声で「ノラネコ」呼びが定着してしまった。


「みやびさんがノラネコで、ナギを籠絡しようとしてる、と?」

彼女には悪意は感じなかったが、人の意思を操る異能力が存在することが過去に確認されてるからその懸念は持っておくべきかもしれない。

「結果はシロ。家庭の事情で各地を転々としてたけど、特に問題はないね。小学、中学には通ってなく自宅学習してたらしいけど、それでもあの名門高校に一発合格、優待生として入学してからずっと成績優秀ってのは凄いね~。うちの事務方に欲しいな、スカウトしてみようかな」

数十年前は小、中学校は義務教育だったが、集団生活を苦手とする子供たちの人権も考慮して義務教育制度は撤廃されている。


机の上に置かれていた幼いみやびさんの写真が目についた。

きちんと切り揃えられたミディアムヘアの黒髪なので今の彼女とは印象が違う。

緊張してるせいか、家庭環境のせいか、その顔には笑顔が無い。

それでもこの写真はナギが見たら欲しがりそうだなと思ったが、杠葉長官は私の視線から遮るように「個人情報だからね~シオンちゃん、見ちゃダメだよ」と写真の下の数枚あった書類共々引き出しの中に入れてしまった。



「で、それとは別にシオンちゃんには彼女が魅了の異能を使ってるんじゃないかって確認して貰ったんだよね」と加賀宮が裏で動いていたのを知らなかった私と同様に、加賀宮に対して私の受けた依頼を説明する。

「お前も動いてたのか」

ぽつりと加賀宮が漏らす。

「彼女に異能の類は感じられませんでした。もっとも護国機関の一員である以上ナギの魔力抵抗も低くはないでしょうから、魅了はかからないはずですが」

「そっか~純粋に運命で紐づけられた2人だってことか~いや~ロマンチックだね」と杠葉長官は座っていた椅子をわざとらしく鳴らす。

「ん~じゃあまぁ番いちゃんの事はもういいかな。調査してたのがバレたら御厨ちゃんに怒られそうだから君たちも黙っててね。ありがとう助かったよ。また何かあったらよろしくね~~」と、右手でもってドアを指し示し退室を促す。

軽く礼をして加賀宮と共に部屋を後にする。



「どういうつもりなんです?」

「何がだ?」

つい、言葉に咎めた響きが含んでしまったがこちらに背を見せ先行する加賀宮は振り返りもしない。

「あなたがみやびさんを調査しただなんて珍しいなと思ったんですよ」

面倒くさがりでやりたくない仕事は平気でこちらに回してくるくせに、と非難の意味を込めて言う。

「ノラネコの動きが活発なのは確かだからな。うちの大事な大事な広告塔を篭絡するために雌猫が送りこまれたのかと思っただけだ」

「彼女は三つ目の巫女が託宣したのに?」

「うちも一枚岩じゃないからな。敵がどこに潜んでるかもしれないと常に疑った方がいい」

「それはそうかもしれませんが」

正直、神の加護を軽視してる上層部の動きが最近特に気にかかる。

魔に抵抗する力を失ったらこの国は、いや世界すらも飲み込まれるだろうに。

ヒトは神の加護無しでは魔に対抗できない。

そんな基本的な事すら忘れてるのか、加護が無くても問題ないと図に乗っているのか。


「老害どもは自分たちが生きてる間にだけでも平穏だったらいいって考えだからな、質が悪い」

吐き捨てるようにつぶやいた加賀宮の言葉は静かに無人の廊下に響いた。



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