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第28話 聖地巡礼1日目 ナギ視点

聖地巡礼の行き先は、結局山陰地方へと決まった。

飛行機の中であらかじめ知らされた日程をもう一度チェックする。

行程などは全て広報が取り仕切るため、俺がすべき仕事は実際に聖地巡礼する時に感じた事を感想としてまとめ、多くの人間に「行きたい」と思わせる文章作りだ。

基本的に食事も決められてるので旅行というよりも完全なモニタリングだ。


今回は飛行機なのである意味助かった。

以前は新幹線での移動中、俺の存在に気付いた女が隣に居座ろうとしてひと悶着あった挙句に「彼は私の夫よ!!!」と意味不明の言葉を叫んでいたりとでそれからは俺の隣の席も誰も座れないように予約して抑えるようになった。

俺が広報と隣り合わせで座っても良かったんだが、移動中にも細かい打ち合わせがあるようでできれば広報同士で座りたいらしい。


飛行機で2時間近くかかるというので、持ち込んだノートパソコンでとある映画を見る。

みやび曰く「霊界から凶暴な人食いサメを召喚してしまったというストーリーのカルト映画。Z級。見るのには覚悟が必要」らしい。

意味が分からないが、意外にも続編も作られたほどらしい。

ならZ級とはいえ大きなハズレではないだろうと軽い気持ちで再生してみた。


70分後、俺は頭を抱えていた。

上級者すぎだな・・・。

まだ経験不足の俺が見るのは正直時期尚早だった。

まず予算が無いのか、食事が終わったというシーンでも皿が汚れてない一切綺麗な状態だし、演者もやる気が無いのか演技も酷い、無駄なシーンが多いし、これで70分とは思えないくらいの体感時間だった。

途中何度も時計を見たが、数分しか経ってないのに驚愕した。

大きくため息をついてしまったら隣の広報の松島がノーパソを覗き込んできて「御厨さんってそういうの見るんすね。意外でしたよ。まさかサメ映画学会員だったとは」と謎の単語を言う。

「なんだそれは」

思わず聞き返してしまった。

「え?違うんすか?学会員じゃなきゃこれは見ないでしょ、あっ!もしかしてカノジョさんの趣味ですか?いい趣味してますね~、まぁ我々としてはこの映画は登竜門っていうか、これに出てくるオカルト殺法は必須技能ですからね」としたり顔で頷く。

さっき見た映画に出てきたワードを交えていうがこれが必須技能なのか?

「すまない、意味が分からないんだが」

「続編見たら意味わかると思いますよ。今やオカルト殺法はチェーンソー並みにメジャーな攻撃方法っすからね」

益々もって謎が深まるばかりだが、もう1人の広報の高木が松島に仕事の話を振ってそこで話は終わった。

みやびに簡単な感想を述べるためにDMを送ってたら時間があっという間に過ぎた。

映画を見てた時間よりも早く時が過ぎた気がする。



多分だが、みやびはそのサメ映画学会員なんだろうな。

・・・いや多分じゃないな、絶対だろうな。



現地に到着してレンタカーを借り松島が運転して寺社仏閣巡りをする。

どんな年齢層でもまわりやすいように様々な交通機関を時刻表と交えてネットにアップし「平日はバスは3時間に1本だから注意」や「山道を歩くから靴に気を付けた方がいい」「周りに飲食店が無い」「民家や電灯が無いのでこの辺りを通るときには特に一人歩きの女性は注意すること」など実際に見て回って気になったところを意見をあげてさらに「参拝の仕方」などを実際に写真と動画を撮る。

道中に地元の名物を食わされ簡単に味のレビューまで求められる。

食事する様子は後日ネット動画をあげるらしい。

参拝の仕方はともかく、他人が食ってる姿を撮って何の意味があるんだとは思う。

見て楽しいものなのか?


今日は周辺のやや小規模な寺社仏閣を廻ったが明日は目的である400年前に創建されたという由緒正しい神社参拝だ。

なんでも救いと癒しの伝説もあるらしい。

そして杠葉長官が言っていた通りに縁結びと恋愛成就をも司るらしい。

丁度夏休みと被ってしまったので、他の参拝客に俺の素性がバレる危険性もあるが、その神社が最後の行程なので多少ネットで騒がれてもそれを含めての宣伝だという狙いもあるらしい。


ひとしきり神社仏閣とそれに連なる観光地を巡った後に、明日の目的の神社近くの温泉宿へと向かった。

俺はこのまま部屋食だが、広報は宿近くの飲食店を巡るらしい。

あいつらも部屋食にしたらいいのにと思ったが、色々と地元の料理を紹介するのも仕事らしい。

部屋に届いた会席料理の写真を撮ってから、高木は「観光地って割と早めに店が閉まるから大変なんですよね」と笑って出て行った。

やつは、地元のスーパーでしか食えないものも探すのがこの旅の楽しみらしい。

豪勢な食事を終え、手持ち無沙汰なのでみやびのSNSを見るがやはりまだバイト中らしく動きが無い。

休憩時間にSNSを見る暇もないくらい多忙なのだろうか。



「みやびに会いたい。声を聴きたい」温泉から上がり布団に寝そべり、つい声に出してしまった。

でも、明日も朝から1日中バイトだと聞いてるから、こんな時間に電話をかけるわけにも長々とメッセージをやり取りするわけにもいかない。

ようやく家に帰りついたのか、日中に送ったメッセージや写真に今のこの時間にようやく既読が付く。

今現在、みやびと繋がってるとわかるこの瞬間は好きだ。

地元の酒を飲みながらスマホをいじっていたら、ふと悪戯心が湧いてきた。

鎖骨が見えるくらいに浴衣をはだけ横たわった状態で写真を送ってみよう、と。

出来るだけ煽情的に見れるようにと表情を作りながら自撮りする。

かつての俺だったら絶対にしない行動だなと我ながら自嘲する。

護国機関に入ってすぐに広告塔としてさんざん写真を取られてきたが、誰にどう見られようが全然かまわなかったのに、今の俺は一人の少女の為だけに「どう写真を撮ったらいいか」なんて真剣に考えるだなんて。


写真を送ってすぐに既読がついた。

送っておいて今更だがひかれなかっただろうか。

やりすぎたかと思っていたが、新たなメッセージが届いた音がし、スマホに視線を移すとそこにはパジャマ姿で自撮りしたみやびの写真が。

俺と同じように横になってる写真。

ぐっ、まさかそう来るとは。

俺が送った写真に動揺したのか、風呂上りなのか若干紅潮した頬がなんだか色っぽい。

初めて見るパジャマ姿。

夏用だからか大きく開いた前開きの胸元がやたらと煽情的だ。

横向きに寝ているせいか、思ったよりも肉付きがいいのか柔らかそうな膨らみが主張している。

挑発しているのか、気づいていないのか、これはとても・・・危険だ。

慌ててスマホから視線を外し、布団の上で大きく天を仰ぐ。


「今夜は眠れそうにないな・・・」





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