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第30話 聖地巡礼2日目 ナギ視点

翌日。

案の定、中々寝付けなかった。

和食中心の朝飯を部屋で食い、温泉へと入って目を覚ます。


目的の神社は旅館とほど近かったので車はそのまま旅館に預けて徒歩で向かう。

高木が昨日の晩飯の話題を振ってくるので適当に相槌を打つ。

勧められた地酒は隊員らへの土産に買っていこう。


そして神社へ到着。

鳥居をくぐる前に衣服を整え、軽く一礼してから境内に入る。

前もって神社に許可を取ってるので、この辺りから「参拝のマナー」として動画に撮る。

中央を避ける、手水での清め方、賽銭を入れてからの二拝二拍手一拝までを撮影する。

時折「参道では何故中央を歩いてはいけないのか」「手水は左から右へと順番に両手と口を清めること」「拝は約90度の深いおじぎであること」や帰りも同様に中央を避け中に向かい軽く会釈すると説明を入れる。

さらに御朱印の貰い方までも撮影する。

「迷惑にならないように小銭を用意すること」「無理強いをしない」「神社によっては避けるべき時間帯があること」「待つ時にも礼を失せずに」なども盛り込む。


宮司にも一応動画をチェックしてもらい、正式に了承を得る。


途中、案の定俺に気づいた人間が、黄色い声を出しながら騒ぎ出しスマホを向けてきた。

さりげなくSNSをチェックすると「白の貴公子さま発見!!参拝しててよかった!」「ナギさまガチでかっけえ!本物は特にヤバイよ!」「顔ちいさっ!!!ガタイめっちゃいい!!!全身がイケメン」「恋愛成就の神社で遭遇とかこれって運命じゃね?やっばww番いってあたしのことだったかwww」など不快なメッセージも目立つ。

いつもは、ネット内を視覚的に捉え、護国機関に不都合のある書き込みを制する事が出来る異能を持つロジックマスターが巡回し、即座にそういった書き込みは制限・削除してるが、今回は放置するらしい。

広報もそれを知ってて群衆を一切制しないので、許可されたと勘違いしたやつらが俺たちの後を露骨についてくる。

こういったことは初めてではないが非常に不快だ。


「御厨さん、せっかくだからカノジョへの土産に授与品とかどうです?申し訳ないけどそれも写真撮らせてもらいますけど、経費で落とせますよ」

彼女への土産に経費というのもどうかと思う。

高木はそういうことをよくやってるのか?

「いや、経費でなくてもいい。・・・兎ではなくて鮫は無いだろうか?」

「あ~確かにここは鮫の伝説があるけど兎を襲う加害者側だから無いっすね、そもそもこの神社では需要ないでしょ」

「は?サメ?え?鮫??」

傍で聞いていた松島は意味がわからないとばかりに目を白黒させている。

「気にしないでくれ。・・・女性ってどういう物を好むんだ?」

「定番としてこのペアの縁結び御守りとかでいいんじゃないですか?ここのは結び目が兎の耳で特徴的で可愛いですし」

女性の意見として松島に聞いたら無難な答えが返ってきた。

すでに三つ目の巫女から「番い」だと託宣を受けてるのに縁結びとは意味があるのかと思わなくもないが、素直にそれを賜る。

持ち歩けるし、部屋に飾っていてもいいし。

それと、ウサギ型のおみくじを白色とピンクの2種類を買った。

女の子受けするデザインだから俺が部屋に置くのは恥ずかしい気がしなくもないが、せっかくだしな。

誰かとお揃いの物を持つというのは初めての経験で若干気恥ずかしい。



隣接されている道の駅へと入り、みやびや隊員らへの土産を物色する時にも野次馬らがスマホで撮影してくる。

鬱陶しいが俺が直接注意したらしたで「声をかけられた!」と増長しそうだから無視する。

高木が一応「店内の撮影はご遠慮ください~」と注意をするが、全然聞かない。

店員らも渋い顔をしているが、放置するようにしたようだ。

最近は特になにかあったら炎上騒動を起こされるので扱いに困るだろう。

店に迷惑をかけるわけにはいかないから、後で高木を通じて目に余る投稿はロジックマスターに消してもらうことにする。


隊員らへは高木が勧めてた地酒や酒の肴、寮長らへは土地名産のらっきょうの佃煮などを適当に選ぶ。

しかし、みやびへは悩むな。

食にこだわりがないとは言っていたが、フェイル名義のSNSを見る限り「つぶあんよりこしあん。ってかつぶあん派は敵」だの「きのこの山?たけのこ一択でしょうが」「チョコミント?歯磨き粉のことですか?」とか結構過激な思想を持っている。

映画の批判はしないのにどうして食べ物だと容赦ないんだ。

ちなみに今川焼きの事は「回転焼き」と呼んでいた。

以前聞いたら「食べ物について熱く語るのは、ネット界のお約束だから」と笑いながら言われた。

意味が分からなかったが、多分みやびは本気だ。

俺はそういったものにはこだわりはないが、彼女の逆鱗に触れないようにしなければ。

和菓子よりも洋菓子派みたいだし、かといって「アイシングクッキーは見た目は可愛いけど味は正直・・・うん」とネットで書いていたし、案外難しいな土産選び。

地雷を踏まない為にも彼女のSNSを見ていてよかった。


県内でしか流通してないという団子とランキング一位を取ったというプリンを購入する。

ランキングはあまり信用してないが、プリンなら大きな外れもないだろう。

冷蔵庫にはプリンが常備されてるのか、切らしたのを見たことが無い。

食べ物をあまり購入しても持て余しそうだし、賞味期限からいってもこれくらいでいいか。

あとは自分用に地酒を購入する。

昨日宿で飲んだ銘柄がかなり旨かった。

みやびへの土産以外は荷物になる事から寮へと送ってもらうことにした。

発送先がバレないようにと、こっそりと高木が都合してくれた。

あいつのこういう所は非常に頼りになる。

俺が寮に住んでいると推測して寮に押しかけようとする女も過去に存在していたし、あの手の類の女たちには本当に辟易とさせられる。


みやびに「土産買った。今晩持って行くから」とメッセージを飛ばす。

しょうがないが、バイト中の彼女からは既読もつかない。

今日、帰ったら一休みして、彼女に会うことだけが今の楽しみだった。




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