目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第31話 美味しいよ、食べる? みやび視点

バイトからの帰り道。

いつも通りに迎えに来てくれたナギが「これ土産」と、小ぶりな紙袋を見せてくれる。

中身は小型の団子とプリンだ。

賞味期限内に一人でも食べきれそうな量なのが密かな心遣いを感じられて嬉しい。

それと、ピンク色の小さなお守り。

裏側には丸い尻尾があり、兎の後ろ姿みたい。

ナギは同じお守りの白色を買ったらしい。

私は学校の鞄に着けようかな。

彼はどこに着けるんだろ。

あと、ウサギ型のピンク色のおみくじも。

小さい置物の形なので、勉強机に置いても邪魔にならない。

これもナギと色違いのお揃いらしい。

ペアの物を持つのは、なんか気恥ずかしいけど特別な存在みたいで嬉しい。


「ありがとう。楽しかった?・・・っていうのも変か。仕事だもんね」

「今回は特に色々と疲れたかな。いつもなら巡礼中に目撃されネットに情報が挙げられたらすぐに投稿を消去したり、広報のやつらが牽制して騒ぎにならないようにしてくれるが、今回は予定していた出発の日程が遅れたせいもあって話題性を重視したから野次馬を野放しだったしな」

やっぱりその手の情報統制やってるんだ、怖いな護国機関。

「それにずっとみやびに会えなくて寂しかった」

私の顔を見ながらそっと呟く。

隣を歩くナギがそっと指を私のそれに絡めてきた。

「うん。私もだよ」

繋がれた指に答えるようにそっと力を籠める。




部屋に戻って、私が遅めの夕食を摂ってる間、ナギが持参していたノートパソコンで今回の出張の報告書をまとめてる。

よどみなくキーボードを打つその姿はオトナの男って感じで格好いい。

でも、今も仕事してるのかあ。

私に会いに来るのが彼の生活の重荷になってそうでちょっと気後れする。

食べ終わった食器をシンクに置いて水に漬け戻ってきたら、ナギも仕事が一息ついたのかただ単に中断したのかノートパソコンを閉じた。

ナギが自分が座ってるベッドの隣をぽんぽんと叩いて「こっちにおいで」とばかりに誘う。

「ん」

言われるままに彼の右隣に座る。

すぐに私の左手を優しく握る。

甘えるように彼の肩に寄りかかる。

「仕事終わった?」

「まだ動画のチェックが残ってる。出来れば明日には動画を上げたいと言われてるから帰ってから続きをする」

「え、帰ってからだったら寝る時間ないじゃない。今やっちゃえば?」

いつも終電ギリギリまでここに居るから、寮に帰るのは日付が変わってからになる。

「せっかくみやびと居るのに?」

いたずらっ子のような顔でナギがほほ笑む。

「・・・むぅ」

そう言われると返す言葉もない。

私だってナギと一緒に居て、いろんな話をしたい。

それからいつものように他愛のない日常の話をする。

今日はナギの出張の話がメインだ。

「温泉かあ、いいなぁ」

思わずぽつりと漏らす。

ナギが「じゃあ」と言いながら、私の左手を握る力を若干強めて「今度、一緒に、行く?」と甘えたような声を出す。

「そう、だね・・・。今は無理だけど、卒業したら行きたいね」

旅行に行くには色々と乗り越えない問題があるけど。

「今はやっぱり無理、か」

心なしか落ち込んでるように聞こえる。



「そ、そうだ。貰ったプリン食べようかな」

この空気感に堪え切れなくなってやや強引に手を振り払ってそそくさと立つ。

プリンを取って戻ってきたら、私が食べるのに専念しやすいようになのか、ノートパソコンを開いて仕事の続きをしてる。


仕事の邪魔をしてはいけないから、ナギの前の椅子に腰かけてプリンにスプーンを入れる。

粉末のカラメルを振りかけるタイプって初めて食べたなぁ。

ジャリっとした食感がちょっと面白い。

ナギはこれ食べたことあるのかな。

ないだろうな、あまり積極的に甘いものを食べるタイプではなさそうだし。

でもこの甘さ具合ならナギでも食べられそうだけど。

「ねぇ」と声をかけると、ナギがノートパソコンから私に視線を移す。

「美味しいよ、一口食べてみる?」とプリンを乗せたスプーンを差し出す。

ナギは何故かすごく躊躇ったみたいだけど、やっぱり甘いものあまり好きじゃないのかな。

やっぱりやめておけばよかったかなと思ったら軽く口を開いてくれた。

「はい」とスプーンを滑り込ませる。

真っ赤になって顔をそらしながら「甘いな」なんて言ってる。

そんなに甘いかなと思いながら、自分でも一口掬って食べる。

いう程甘くないのにな。

味覚の違いかな?

「せっかくだからもう一口食べる?」とナギの為にもう一掬いする。

「それは・・・いい、のか?」

いいのか、ってなにがだろう。

土産として買ってきたからナギ自身があまり食べるわけにはいかないと思ったのかな。

別にいいのに。

「うん、美味しい物ってわけたくなるじゃない?よく友達とこうしてるけど、間接キスだねって笑っ・・・て・・・っ!!!」

そうだった。

いつもは女同士だから気にも留めてなかったけど、これって間接キスじゃない。

しかもまだキスもしてないナギ相手に。

「ち、違うから!わざとじゃないから!」

そう言う私の顔はたぶん真っ赤に染まってると思う。

「わざとじゃなかったのか。てっきり俺を弄んでるのかと思った」

私の動揺がよほど面白かったのか、ナギは含み笑いしながらも「もう一口くれるって話だったな?」なんて圧をかけてくる。

「う・・・うぅ・・・どうぞ」



もしかしたらナギは性格が悪いのかもしれない。





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?