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第32話 甘いな・・・ ナギ視点

恒例になったバイト上がりのみやびの送迎。

聖地巡礼を終えて寮に帰ったのが夕飯前で、夕食を摂りながら軽く隊員らと駄弁り、出張の報告書をまとめて時間を見計らって土産を持って彼女に会う。

明日も仕事で、かつ動画のチェックを済ませないといけないのでノートパソコンも持参する。

本当は彼女と過ごす貴重な時間に仕事は持ち込みたくないが、みやびが食事中に軽く仕事を済ませればいいかと思って持ってきた。


渡した手土産はどれも喜んでくれた。

冗談交じりに「団子は粒あんの物を買おうと思ったんだが」と言ったら「なんだと」と笑いながら脇腹を軽く小突かれた。

こしあん派のみやびにとって粒あん派は敵らしい。

こういうじゃれ合いすら楽しい。

なんだか子供みたいでそういうこだわりも可愛い。

お守りは学生鞄につけてくれるらしく、おみくじの方は勉強机に置いてくれるらしい。

彼女とずっと居られる小物に若干嫉妬を感じる。


道中、話せる範囲で仕事の話をした。

そして「会えなくて寂しかった」と伝えるとみやびも「私もだよ」と言ってくれ、絡まれた指の力が強くなった。

本当は可能ならすぐにでも一緒に暮らしたい。

終電の時間が迫り、彼女の家を出なければならない時には抱きしめて「帰りたくない」と言いたくなる。



家に到着し、彼女が夕食を食べてる間にノートパソコンで軽く報告書をまとめる。

特に今回はロジックマスターの手助けが無かったことによる弊害も出てきたので、抗議の意味を込めてその辺りも報告に挙げる。

幾ら「撮影禁止だ」と言っても、野次馬たちが言うことも聞かずに方々に迷惑をかけてしまった。

キーボードを打っているとみやびが食事を終えたようで、シンクに食器を持って行った。

頃合いもいいとノートパソコンを閉じ、ベッドに座ってる俺の隣を軽くたたいて「おいで」と声を出さずに呼ぶ。

みやびが隣に座った瞬間、彼女のしなやかで柔らかい手を取る。

「仕事終わった?」と聞かれたので「まだだ」と答えると「今やれば?」なんて返された。

この貴重な時間に仕事なんてしてられない。

「せっかくみやびと居るのに?」と言うと、彼女は可愛らしく頬を若干膨らませながら軽く唸った。




旅先の話をしていたら、特に温泉について食い入るように聞いてきた。

小、中学には通ってなかったので、まともな旅行には高校の修学旅行くらいしか行ってないとぽつりと漏らしたが、母親はみやびを旅行にも連れて行ってなかったのか。

母子家庭だったそうだから、もしかしたら娘を旅行にも連れていけないくらい金銭面が厳しかったのかもしれないが、それにしては各地を転々としていたというし、なんだかちぐはぐな話だ。

違和感を感じたが、それぞれ家庭の事情もあるだろうと口をつぐむ。



「じゃあ」といったん言葉を区切りながら「今度、一緒に、行く?」と口にする。

まだ出会って1か月も経ってない子を誘うのはどうかと思ったが、みやびが望むのならどこへでも一緒に行きたい。

有給も溜まってるし、この夏にでも、と思ったが。

「そう、だね・・・。今は無理だけど、卒業したら行きたいね」と半ば予想していた答えが返ってきた。

「今はやっぱり無理、か」

わかっていたけどやはり口にされると寂しいものがあるな。

みやびもまだ学生だし、優待生ということもあり常に成績を競う日々を送って尚且つバイトもしている事もあり遊んでられないというのは理解していたのだが。

卒業後にはどこかへ旅行に行きたいなと考えていたらみやびが立ち上がって冷蔵庫の方へ向かった。



「粉末のカラメルをかけるタイプのプリンなんて初めて見た」と言っていたから気になって食べたくなったのだろうか。

なら俺も中断していた仕事を再開することにする。

プリンを片手に戻ってきたみやびはベッドの前の勉強机の椅子に座ったようだ。

そして黙々とスプーンを動かしてる。

かと思ったら「ねぇ」と声をかけられた。

視線を動かすとスプーンが差し向けられていた。

「美味しいよ、一口食べてみる?」

何を言われてるのかわからなかった。

これはいわゆる間接キスというやつだろう・・・。

躊躇していると、いらないと思われたのかスプーンがすっと引きそうになったので慌てて口を開く。

「はい」と口の中にスプーンが差し込まれる。

上あごを軽く閉じてプリンを飲み込む。

照れくさくなり思わず顔をそらしてしまった。

「甘いな・・・」

思わず顔や体が熱くなる。

「そんなに甘いかな?」と小声でみやびは首をかしげながらプリンを掬って食べた。

その様子をじっと見ていたから物欲しそうに見えたのか「せっかくだからもう一口食べる?」とまたプリンを乗せたスプーンを俺に差し出す。

完全に間接キスなんだが「それは・・・いい、のか?」

俺の言葉の真意がわからないようだ。

それともみやびはわかってて煽ってるのか気づいていないのか。

「うん、美味しい物ってわけたくなるじゃない?よく友達とこうしてるけど、間接キスだねって笑って・・・っ!!!」

言った瞬間、自分の行為に気づいたのか硬直し、あっという間に頬が紅潮し、わかりやすく狼狽した。

「ち、違うから!わざとじゃないから!」

「わざとじゃなかったのか。てっきり俺を弄んでるのかと思った」

その様子が愛らしかったのでつい意地悪な言葉を言ってしまう。

さらに「もう一口くれるって話だったな?」と彼女を見つめる。

観念したみやびが呻きながら俺に向かってプリンの乗ったスプーンを運んだ。



みやびの様子があまりにも可愛かったので、つい意地悪をしたくなってプリンを飲み込んだ後にみやびの手からスプーンを奪い、プリンを掬って彼女の口に近づけた。

俺の意図に気づいて慌てふためいたものの「ほら、口を開いて」と言うと観念したように軽く口を開いた。


俺の促しで口を開く。

みやびの口にモノを差し入れる。

それを軽く唇で挟み込む。

飲み込む。

唇についたものを少しだけ出した舌で舐めとる。



なんだか情欲を煽り立られてる気がする。

思わず「プリンを買ってよかった」と呟いたら、俺の意図に気づかないみやびが「そうだね、美味しいねコレ」と無垢な感想を述べるのだった。



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