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第34話 真似しちゃだめだよ みやび視点

「ねぇねぇ、藤原~こないだのあの技うちらにも教えてよ」

丁度、店内の混雑が解消されたのを見計らって休憩室のウォーターサーバーで一息つけていた私にバイト仲間らが声をかけてきた。

「やだよ」

思わず声と顔に不快感が出てしまった。

「なんでなんで~~めっちゃ格好良かったじゃん、私もやりたい」

「護身術っての?あれ」

「まぁね、でもあれも簡単そうに見えて色々注意するところがあるし、下手したら相手殺しちゃうから危険なんだよ」

物騒な言葉に休憩所内が一瞬騒然となった。

「死ぬの?」と恐る恐る聞いてくる。

「顎狙ったでしょ?あれ下手したら舌嚙んで死ぬよ。脳へのダメージも障害残る危険性もあるし」

だから掌底突きの時には相手の言葉がいったんおさまるのを待った。

その分私のいらいらは蓄積したけど。

そして脳震盪もかなり危険だ。

狭い店内であの手合いを黙らせるのが一番ベストだと思ったから、あの方法を使ったけど、なるべくならあまり使いたくない技だ。

「こっわ!!!」

そういうと、同僚の一人は自分の身をかき抱いて震える。

「怖いでしょ?だから教えない」

もしきちんと教わりたいのならプロにちゃんと教わらないと危険だ。

遊び半分で教わるべきでもないし、教えるべきでもない。

「えー」


「じゃあ金的とかは?」

これなら簡単に倒せるでしょ?とばかりに身を乗り出して聞いてきた。

女性が男に襲われた時に一番考える急所狙いかあ。

「それ下手したら過剰防衛くらうし、最悪逆上されてハイリスクだろうからおすすめできない」

あと普通にあんまり効かない。

よほどの威力じゃないと。

やるのなら脛(すね)で相手の太もも付近を蹴るのがいいんだけど、安易に教えることが出来ない。


「あれもだめ、これもだめってじゃあうちらどうやって身を守るのさ」

何もかも教えない私に不満が募ってきたようだ。

そもそもがあんな威力業務妨害野郎はとっとと警察に突き出すべきなんだけど。

そして街中で襲われるのが嫌なら防犯ブザー持ち歩いたらいいよ。

ちなみに私も持ち歩いてる。

幾ら倒せる見込みがあっても基本的にはあまり人を殴りたくない。

「誰にでも出来て簡単なのがあるよ」というと「え?マジマジ??」とみんな食いついてきた。

「夜道では歩きスマホせずに周りを警戒しながら歩く。走って逃げる。大声を出す、防犯ブザーを持つ」

2杯目の水を飲みながら端的に言う。


「え~~~~~~~」

「格好悪~い」

「いやいやいや、見栄えよりも自分の安全を第一に考えなよ。どうしても護身術習いたいのならたまに警察が教室開いてるよ」

「いや、普通の女子そんな情報知らんし」

・・・そう?私がおかしいのか?

1人暮らしの条件の内の1つが「身を守る術を身に着ける事」だもんね。

高校には行きたい、と申し出た子供の頃からずっと護身術を教えられた。

私の事は全て全部あの人が仕切ってたからあまり変に思わなかったけど、おかしいのか。

今も月一回に実家に行った時には忍さんから稽古つけられるし。


・・・そういや今月もぼちぼちその時期かあ。

嫌だなぁ、と思いながら飲み終わった紙コップを乱暴にゴミ箱に投げ捨てた。



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