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第41話 喜んでほしくて ナギ視点

これまでは装身具には一切の興味もなく、そういったアクセサリーを扱う店には立ち入ることもなかったが、みやびと知り合って彼女のヘアアレンジまでするようになって道具を求めて入った雑貨屋で見つけたピアス。

桜がモチーフの一対のピアスに惹かれた。

小さい桃色の桜が連なっていて、派手過ぎず品がある。

これを付けてくれる様を想像する。

いつも左耳につけているイヤーカフも似合ってるが、たまにはこういった華やかなピアスをつけても可愛いのではないかと思った。

喜んでくれるといいな、と思いながら髪の毛をまとめるピンやクリップなどとまとめて早速購入する。



「へ~沢山ヘアクリップを買ったね~。すでに私が持ってるよりも多くない?私、髪の毛は適当にシュシュでまとめたりポニーフックをひっかけるだけだよ」

購入したものを見せると興味深そうに身を乗り出してきた。

左耳のチェーンタイプのイヤーカフが揺れる。

「暑いと髪の毛が鬱陶しいって言ってたから、このお団子ヘアとかどうかと思って」

言いながら、この間買ったヘアアレンジの本の該当ページを見せる。

「可愛いね、ゴムだけで出来るんだ」

感心したようにつぶやく。


あの後、本屋に行って図書館で借りた本と同じものを買った。

女性の髪に触れたことが無い俺でも簡単に出来たことと、彼女に似合いそうな髪型が多かったので手元に本を置いておきたくなったからだ。



「それからこれを。気に入ってくれるといいんだが」とピアスが入った小さな紙袋を渡す。

「ピアス?」

渡した袋を開封したみやびが驚いたように言う。

「今つけているのも似合ってていいと思うんだが、たまにはこういうものもどうかと」

予想以外の反応が返ってきたので、ちょっと戸惑ってしまった。


「うぅん・・・」と、ちょっと困ったかのようになんて言おうかを思案してる。

やはりアクセサリーは個人の好みがあり、まだよく知らないうちに勝手に買うべきではなかったか。

女性受けする無難なデザインだと思っていたんだが。

「気に入らなかっただろうか」

つい、拗ねたような声が出る。

我ながら自分勝手だなと思いつつも、みやびのこの反応は想像してなかった。

いつものようにはにかみながら「ありがとう」と言ってくれるかと思っていたのに。

そう考えながら自分自身の身勝手さに嫌気がさす。


「ん~。えっとね、私ピアス穴は右耳にしか開けてないからどうしようかなって戸惑っただけ。でも嬉しい、ありがとう」

言われてみたら確かに左耳はイヤーカフだけでピアス穴は無い。

いつもはイヤーカフが目を引いててその部分を見てなかったとはいえ迂闊だった。

「そういえば右耳のピアスは天然石?こんな感じのピアスが好みなのか?」

右耳にかかる髪の毛を掬い、彼女の付けているピアスをじっくり見てみる。

もしそうなら今後は似た系統のピアスを購入するのもいいな。

シトリンかと思われる薄い黄色だが、みやびはもっと明るい色のピアスも似合いそうだ。

というか何を付けてもきっと可愛い。

「んー・・・これは別に気に入ってるわけじゃなくて、忍さ・・・お母さんから渡されたものだから外しがたいかな」

ちょっと言いよどんでいる。

なにか事情でもあるのだろうか。

母親が娘にピアスを贈る、しかも片方だけというのに違和感を感じたが、あまり触れて欲しくなさそうな話題なので打ち切る。

もっと親密になれば色々と話が聞けるのだろうか。

若干の寂しさを覚える。

もし望むのなら今度一緒にみやびが好む装身具を買いに行きたいと思っていたが、母からのピアスを外しにくいというのならそれも難しそうだ。

この間見せてもらったが、イヤーカフはかなりの種類を持っているからそちらはもう必要ないだろうし。



沈黙を破るように、みやびが俺の左手を取り自分の手で挟み込みながら「今すぐにこれはつけられないかもだけど、左耳に穴を開けた時にはちゃんと付けるから。ちょっと待たせちゃうかもだけど、絶対に着けるからね」とほほ笑む。

右手でみやびの頬を撫で、そっと自分の額と彼女のそれを合わせる。

「その日を楽しみにしてる」

「・・・うん」



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