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第61話 もっとこの夢に浸っていたいよ、せめてあと30分くらい みやび視点

アラームの音が聞こえる。

その音に向けて手を伸ばすけど、全然手が届かない。

というか、なにかわからないけど、ナニカが邪魔してる。

なにか大きいもの。

温かいもの。

そんなのベッドにあったかな。

アラームのせいで思考がまとまらない。

早く止めたいのに全然手が届かない。

そうこうしていたら「朝だよ」という声が聞こえた。

あれ?

音声のアラームなんて設定してた?

心地よい声、好き。

「んにゃ・・・?」

聞き覚えのある声の気がしたのでうっすらと瞳を開ける。

「・・・ナギだぁ・・・」

大好きな人。

まだ夢の中なんだろうか、だとしたら最高の夢だな。

と思っていたら「そうだよ」と抱きしめられた感覚がした。

もうずっとこの夢を見ていたい。

「・・・しゅきぃ・・・」とぎゅっとナギを抱きしめる。

でも夢の中のナギは私を起こそうとする。

やだよ、もっとこの夢に浸っていたいよ、せめてあと30分くらい。


でも「近所の人らに叱られるぞ」という言葉で目が覚めた。

そうだった、ナギが泊って一緒のベッドで寝てたんだった。

なんかさっきとんでもないことを口走った気がするけど、とりあえず「にゃあ・・・顔を洗って、くる・・・」と昨晩に用意していた着替えを持ち洗面所に向かう。

じゃあ、すら言えずに、にゃあとなってしまった。

我ながら朝は苦手すぎる。


顔を洗い着替えると流石に目が覚めた。

なんかやらかした気がするけど、さっさとゴミを捨てに行くことにする。

朝は私がだし巻き卵でも焼こうかと思っていたんだけど、ナギが色々と準備してくれるらしい。

情けない気がしなくもないけど、好意に甘えることにする。

ちゃぶ台を挟んで二人床に座って朝ごはんを食べるだなんて、想像してなかったなぁ。

ナギは黙々と食べていたけど、つい気になって「私なんか変なことを言わなかった?」と聞いてしまった。

「変なことは言ってなかった」と返されたので安心していたら「抱きつかれて好きだと言われた」と身に覚えのある事を聞いて思わずきんぴらごぼうを落としてしまった。

アレ夢じゃなかったんだ。

「変な事ではないだろ?」と言われ、納得しそうになったけど、いやいやいやいや、変な事でしょ十分。

思いっきり、ぎゅーっと抱きしめた気がする。

微かに記憶に残ってる。

追い打ちをかけるように「好きだと言ってもらえて嬉しかった」なんて言われたので、次に食べようとしていた切り干し大根を落としてしまった。

からかわれてるのだろうか。

いや、確かに好きだけどさ。

なんか墓穴掘りそうだったので、話題を変えよう。


「むぅ。もうこの話題はいいや。ね、今日何か予定ある?」

私は夕方からバイトだからあまり時間が取れないけど、今回ナギが急遽泊ったことで色々と不足品があったのじゃないかと心配になって買い物に行こうかと誘ってみた。

クッションを枕代わりにしたから寝にくかったとかありそうだし、着替えもその辺のドラッグストアで買ったものだから着心地とか気に入らないかもしれない。

ここには洗濯機もないから結局昨日の服を今着てるし。

うちに来る前に食事と風呂を済ませて服も着替えてるらしいから、昨日の服とはいってもさほど汗はかいてないらしいけど。

私はあまり服を持ってないから、引き出し内にナギの着替えを入れるスペースくらいあるし。

ナギも思う所があったのか同意してくれた。


駅前の商業施設で色々なものを購入した。

枕は自室で使ってるのと同じだという低反発の物を購入した。

初めて触ったけど、結構心地いいなこのタイプ。

「揃いで買おうか?」と言われたけどそれは辞退した。

今の枕に不満もないし第一、結構お値段が高い。

枕がかさばったこともあり、コインロッカーに荷物を入れ、次は服を見に行った。

あまり服装にはこだわりが無いようで、大手アパレルチェーンの店に入った。

「白の貴公子」としてSNSで写真をあげる時にはおしゃれな服を着てると思ったけど、あれらは意外にもナギの私服ではないらしい。

そういえば甚平も違うって言ってたな。

なんかメーカーの宣伝も兼ねてるらしい。

ナギが着てる服は売れ行きが良くなるんだとか。

今度、メンズファッションの表紙を飾ることが決定してるらしい。

動画配信サイトで生配信も企画されていたけど、それは全力で断ったらしい。

その代わりにその表紙の話を強制的に了承させられたんだとか。

・・・ナギの生配信はちょっと見たかったかも。


ナギは部屋着用の服と下着などの肌着、それと無難なデザインの服とズボンを籠に入れていく。

彼に似合いそうな服はないかなと男性の服売り場を見て回ったけど、いまいち面白みが無いな。

どれもこれも似たようなデザインと色。

逆にナギは普段立ちいらない婦人服売り場に衝撃を受けたようだ。

なんだか自分の服を買う時よりも生き生きとして売り場を見て回ってる。

3着ほど気に入ったようで薦めてくれた。

値段も手ごろだったし、買うことにする。

自分の籠に入れ、共にレジに並んでいたらナギに籠を奪われてしまった。

やられた。

手慣れた様子で素早く会計をされてしまった。

自分の分は自分で支払うからと抗議したんだけど「並んでる人間の迷惑になるだろ?」とさっさと服を袋に入れ店を出ていこうとする。

あとで絶対に支払ってやる。


もっと一緒に居たかったのだけど、夕方からバイトがあることから昼ご飯を食べて家に戻る。

ナギの買ってきた服を空いてる引き出しに入れ、ボディソープなどは風呂場に置く。

うちに来る前にはシャワーを浴びてくると言ってたけど、ナギから漂うシトラスハーブの香りはこれかあ、とラベルを見る。

あまり見たことのない銘柄だな、もっとも男性用のボディソープなんてろくに知らないけど。


ナギと共に家を出ようとしたところでさっきの服代を渡そうとするけど、案の定受け取ってはくれなかった。

逆に抱きすくめられ「礼ならこっちがいい」と唇が合わせられた。

最初の花火の時、そしてナギが居眠りしていた時にこっそりと私がしたキスとは違い、お互いの口内が触れ合う。

慣れてないからお互い呼吸がしづらい。

息をするために唇を離す。

離れたかと思ったら、また口づける。

「好きだ」と囁かれる。

私もだよ。

でも「もう。なんか誤魔化された気がする」

ナギはお金を受け取ってくれなさそうだし、またお金の話をしたら今度はさらに深いキスをされそうだ。

それはそれでいいんだけど。

「そうかな?」とナギは私の額を合わせ笑う。

そうだよ。


「気のせいじゃないか?」とナギは私の腰を抱き今まで以上に長いキスをした。

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