目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第62話 彼女と共に人生を歩んでいきたい ナギ視点

今日は二人揃っての休日。

みやびが「見たい」と言っていた映画が上映されていたので見て帰ってきて一息ついたところだ。

ちなみにその映画は以前、相互フォロワーにお勧めされたという「愛する妻が殺されて復讐に燃える男の話」だった。

「サメ映画じゃないのか」と呟いたら「なんでそうナギの中で私はサメ映画フェチになってるの!?大体サメ映画は基本的に上映されるほど品質が高くないからその辺の映画館では中々見ることができないよ」と反論された。

サメ映画を褒めてるのか貶してるのか。

尚、映画は非常に面白かった。

妻を殺される、というストーリーは序盤見ていて辛かったが、主人公が覚醒して容赦なく復讐相手を追い詰める様は心地よかった。

元々が格闘面に強いわけではない主人公が自分のスキルを生かす。

その手法も実に面白かった。

そして、主人公が所属している組織の腐敗と絡め、最終的にはその膿を取り除いたのも爽快だった。


自分がみやびを失ったら・・・果たして俺はどうなってしまうのだろうか。

彼女と共に人生を歩んでいきたい、いつまでも。

意を決して、かねてから言おうと思っていた言葉を言うことにする。


麦茶を飲んで一息ついた後、正面に座る彼女の手を取る。

そして親指で彼女が嵌めている番いの指輪を一撫でする。

「みやび」

「なに?改まって」

不思議そうに俺を見つめる。

「こういうことはちゃんとしておいた方がいいと思って」

「うん?」

「また改めて正式に申し込むが」

やはり緊張してしまうな。

「俺と、結婚してほしい」

「・・・うん?」

気のせいでなければ、今の「うん」には疑問符がついてなかったか?

いや、気のせいではないな。

軽く小首をかしげているし。

予想だにしてなかった答えなので戸惑う。

「・・・嫌、なのか?」

「あ、ううん。嫌とかじゃなくって、驚いたっていうか」

巫女の託宣で番いだと言われ、お互い気持ちが通じ合ってるのを確かめて、口づけまで交わした。

現時点でのプロポーズに驚く要素あるか?

いや、確かにまだ一線は超えてないが。

だが、みやびの態度からいって婚前交渉をしていいのかそれとも結婚して初夜を迎えるまでそういう事はしたくないかもよくわからない。

「泊まっていっていい」とあっさり許可してくれる割には、すぐに眠りについてしまうし。

俺から多少強引にそういう雰囲気に持って行ったらいいのだろうか。


「もちろん今すぐに結婚というわけではないのだが」

慌てて言い繕う。

花火の時に自分の正直な気持ちを告白してからきちんと言葉にした方がいいと「結婚を考えている。みやびも真剣に受け止めて欲しい」と決行してみたのだけど。

「そうだね。番いというのなら将来的には結婚はするだろうけど・・・。ん~正直、今は考えられないかな。・・・ゴメンね」

「・・・そうか」

今は考えられない、か。

学生の身だからそれも当然だと思う反面、じゃあ、いつならいいのだろうかと疑問に思う。

彼女の希望進路が未だ不明だ。



「大学受験はしないみたいだけど、就職希望なのか?」

いい機会だし、聞いてみることにした。

以前ちらっと専門学校への進学の話が出ていたがその後で「あれね。やっぱりやめた」と言っていた。

なので、就職するつもりなのだろうか。

進学校に通って成績優秀だから大学へ進まないのはもったいない気がするが。

もし学費が問題なら援助したいが、断られるだろうな・・・。

「大学で学びたいことも特にないし、今のこの生活をあと4年続けるのはしんどい。大学には今利用している優待制度もないし、奨学制度はあくまでも貸与だから返済義務あるから厳しいし、そこまでして大学に行くメリットはないかな」

・・・母親からは大学進学の資金は出ないのだろうか。

親は進学に反対しているのだろうか。

そもそも元々が小、中学校にも通わせてなかったらしい。

集団行動が苦手な子供たちの為に小、中学校は義務教育ではなくなって長年経つが、みやびの様子を見るとそういう特性があるわけでもない。

むしろ高校入学は自分で望んだというし。

子供が学校に通うのに難色を示すだなんてどんな親だとは思うが、俺の知らない事情があったのかもしれない。



ふと疑問に思った。

「就職活動ならこの時期はすでに始めているのでは?」

確か職場見学やどこの企業に応募するか決め、9月には応募書類を提出する流れだったと思う。

もう2学期は始まっているし、その辺りは教師と話し合ってないのだろうか。

尚、護国機関の場合は国家公務員なので、試験の申し込みが6月下旬、1次試験が9月の上旬だったと記憶している。

「ん~・・・まぁその辺はぼちぼち、ね」

誤魔化されてしまった。

だが、もしかすると。

進路に迷いが生じてるということは高校を卒業してから俺との結婚を視野に入れてる、という淡い期待を抱いていいのだろうか。

その割にはハッキリとした態度が見えない。

みやびの考えがわからない。


どちらにしても、今は学生。

それに優待制度を利用してるから現在が勉強第一なのはしょうがないが。

それも高校三年の夏だからテストは2学期の中間と期末、それに3学期の大学入学共通テスト前の定期テストの3回で終わる感じか。

それまでお預けか、・・・色々と。


「ナギ?・・・怒った?」

黙り込んだ俺を上目遣いで見る。

「いや」

いけない、彼女を不安にさせてしまった。

向かい合って座る彼女を軽く抱き寄せ、額にキスをする。

「結婚する時期は今はまだ考えないとしても、結婚を前提に交際してるとお母さんに挨拶には行った方がいいかな」

「ん~・・・お母さん人間嫌いだからなぁ。・・・折を見て私の方から話してみるよ」

「わかった」

ということは、今まで一切俺の話をしていない、ということなのか。

みやびと母親の関係性はイマイチよくわからないが、あまりいいものではないなとうっすら感じた。

「実家に居づらい」とこぼしていたこともあったし。

「そういやぼちぼち実家に行く時期だなぁ」とみやびがぽつりと言う。

「そうなのか」

月に一度生活費を貰いに行く、とは聞いていたな。

振り込みで済まさずに直に会って生活費を渡すのは、娘を案じる親心ゆえということなのだろうか。

「遠い?」

「電車だとね。直線距離だと大橋を渡れば割と近いんだけど」

住所を聞くが、確かに直接行ける路線は無いな。

バスまで使うらしく、そのせいで周囲には民家が無いらしい。

どれだけ人との付き合いが嫌いなんだ、母親。

なんとなく憂いを帯びたみやびが心配だが、俺がついていくわけにもいかない。

一抹の不安を抱えたが、その話はしたくないのかさりげなくみやびに打ち切られた。


いつか来るであろう母親との対面が今から憂鬱だと思った。




この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?