恩、返し……?
言ってる意味が分からなかった。自分は世界から嫌われているのに?
「俺を、助けに……?」
「はい」
「なんで?」
「貴方に助けられたからです」
「こんな俺を?」
「あなただからです」
「俺なんて」
「なんてじゃありません。貴方は頑張ってきました。」
本当に誰か分からない。でも騙されていない。
カインは確信していた。
俺の目を見て真っ直ぐに答えてくれている。
俺が彼女の翠玉色の瞳に俺がうつっている。
不細工に泣きそうな俺が。
「私は知っています。見てましたよ、貴方の頑張りを。」
やめてくれ。やめないで。
「あなたは、がんばっています。」
嘘だ。本当だと言ってくれ。
「あなたは、すごい人ですよ」
ありがとう。
その瞬間、これまで以上の涙と感情があふれ出てきた。
おれは、がんばっていたんだ。
「見て、くれてた……」
「ええ」
「あり、あり、がとう」
「こちらこそ」
「見てくれてた」
「見てました。知ってます。あなたはすごいです。そして、やさしいひとです」
もう止まらなかった。世界から嫌われていると思っていた。
自分の努力なんて無駄なんだと。
能力が低くても、人生がどんなに不幸でも、いつか報われる日が来ると信じる、それ自体が無意味なんだと、思っていた。
この人だけかもしれない。
けれど、この人は、自分をやさしく見てくれる。
見て、くれている。
カインは、この日、本当のうれし涙を枯れるほどに流した。
(え!?)
カインは自分がいつの間にかベッドで寝ていることに気づく。
(夢、だったのか)
カインは自重気味に笑い頭を振った。
(そうだよな、そんな都合のいい話が……)
うぃーんうぃーんうぃーんどどどどど
聞きなれない音が部屋から聞こえる。
(いや、やっぱり夢じゃない! あの人が!)
カインは起き上がり音の先を見る。
すると、彼女はいた。
ただし
『裂けた右腕から何か金属製の触手のようなものを大量に出して鍵盤を叩いていた』のだけれど。
「え、えええぇぇえええええええ!?」
その日、カインが人生で一番大きな声を出した日となった。
彼女は表情も変えず振り返り、右腕の中に銀の触手を納めた。
そして、手に何かを抱えてカインに近づいた。
「出来上がりました」
「これ……魔防布!? 君が……?」
「今から直接向かえばギリギリ間に合うかと」
「ギリギリ? って、もうこんな時間!?」
時間を見ると、もう期限まであと僅か。
魔防布を纏め準備を整える。
「じゃあ、行って……」
と、女の方を見ると、女は真っ黒で見るからにヤバい術式を自分に刻もうとしていたのが目に入る。
「い、いやいやいやいや何やってるの!?」
カインは自分ってこんな大きい声出せるんだと驚きながら、女の手をとり、術式を途中で止めた。手は冷たかった、氷のように。だが、カインを見る目は熱っぽく、翠玉色の瞳が輝いていた。
「正体がばれた以上、自爆するしか」
「どういう闇の組織の掟!!?」
「……もうおわかりですよね」
彼女の先ほどの様子、口ぶりからなんとなくカインには予想がついていた。
「私は、あの時助けていただいた