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SS6 オムスビコロリンヌ・2

「はっはっは! キミが、カインヌの友人で、オムスビを作ったシェフか!」


巻き毛白ネズミの勢いにカインは苦笑いを浮かべ、巻き毛白ネズミに前足を差し出された鬼人族の少年、グレンは戸惑いを隠せずオロオロしていた。


「えっと、君は……それに、カインヌって、カインさんのこと?」

「おおっと! 名乗るのを忘れていたな! 名乗るのも貴族の嗜み! 私の名はラッタ! 土竜鼠モールラットの王子様、ラッタだ!」

「えと、はじめまして、ラッタ。ボクの名は、グレン」

「うむ! グレンヌだな! よろしくな! グレンヌ!」


ラッタと名乗る巻き毛白ネズミの言葉にグレンは首を傾げる。


「えっと、グレンヌ? それにさっきカインヌって」

「はっはっは! 貴族の嗜み! ンヌだ! 貴族は名前にンヌをつけるんだ!」

「でも……ラッタは、ラッタなんだよね?」


グレンのぼそりと呟いた疑問に、ラッタは大きく口を広げ目を見開く。


「そ、そうなのだ……私は王子様であるにも関わらず、名前にンがついていないが為に、ンヌになれぬのだ……!」


良く分からないラッタの言葉に、グレンはよく分からないなとカインに視線を送る。

すると、カインもまた良く分からないんだと首を竦めている。

そうなると、良く分からないにしても、このかわいい巻き毛白ネズミが落ち込んでいる様子にグレンは心を痛め始める。


「で、でも、ラッタはンがつかなくても、貴族っぽいよ。言葉とか」


グレンのその言葉にラッタは口を大きく開き目を輝かせる。


「そうだろう! そうだろう! 私はンもつかないのに貴族なのだ! なにせ王子様だからな!」

「ラッタは何処の国の王子なの?」

「クニ?」

「え? だって、王子様なんでしょ? どこの国の王子様なの?」

「クニ……ワカラナイ……デモ、ラッタ、オウジダモン……」


急に言葉が不自由になったラッタに慌てるグレンとカインだったが、よくよく話を聞いてみるとラッタは実際に王子ではないらしい。


ラッタは、生まれつき他の生き物の言葉が理解できた。

ラッタは【土竜鼠モールラット】という種族なのだが、土竜鼠がそうなのではなくラッタだけがそうだった。

ラッタは幼い頃、自分自身だけが違うことに疎外感を感じていた。

しかし、ある時、一人の人間と出会い、教えられる。

『キミのそれはきっと神様から与えられたすごい力なのだ』と。

そして、ラッタはその言葉とその人間が教えてくれた様々な物語によって生まれ変わる。

ラッタは特別な存在であり、それはつまり、物語に良く出てくる王子様だと思い込んだ。

王子様である以上、他のネズミより出来なければならないと努力を重ねた。

そして、その結果、ラッタの巣穴の次期長となったらしい。


「すごい、な。ラッタ」

「そうだろうそうだろう! ならば頭を撫でてくれてもいいぞ! 『頭撫でられ』は貴族の嗜みだからね!」


そんな貴族の嗜みを聞いたことはなかったが、純粋にラッタの事はすごいと思ったので、カインは人差し指をちょこんとラッタの頭にのせ、ゆっくりと撫でてあげた。


「あふぅん……うむ、これは、なかなか……うむ、悪くない……悪くないぞ! カインヌ!」

「あ、ありがとう」


ラッタの恍惚とした表情と、力強い誉め言葉にカインも無性に嬉しくなって頬を緩ませる。


「ラッタって、もしかして、白鼠ビャクソ様なのかな?」

「「ビャクソ?」」


カインとラッタが同時に首を傾げる。


「えっと、ビャクソ様っていうのは鬼人の里の守り神と言われている方で、白いネズミの姿をしているらしいんです。ラッタって、白いネズミだし……」

「私は王子様であって、ビャクソ様ではない! 失礼な!」

「あの、ラッタ……ビャクソ様は、神様みたいなものだから、多分とっても偉いよ」


カインの言葉にラッタは『え?』とカインの方に口を空けたまま振り向く。

そして、続けてグレンの方に『そうなの?』と口を空けたまま振り向くとグレンも慌てて首を縦に振る。


「し、しかし! 私は王子様で、でも、ビャクソ様が偉いのなら、そっちのほうが……うぬぬぬ」

「あの、どっちも貰ったらいいんじゃ、ない?」


ラッタが大きく口を空け、目を見開き、輝かせカインを見つめる。


「カインヌ! キミは天才か! もしかして、キミは魔法使いか!」

「いや、あの、違うけど!」

「違うのか! 残念だ! 魔法使いはいつも助けるすごいのだから、キミは魔法使いと思ったが! ああでも、安心したまえ! 王様ではないよ! 王様は大体悪い奴だからね!」


王様の息子が王子様なんだけどなあと思いつつ、カインは曖昧に頷いた。


「でも、ビャクソ様ってあくまで伝説で誰も見たことがないって話だったけど……」

「まあ、私達は巣穴とその周りにしか行かないからな。それに私たちは耳がいいし、すばしっこい! カインヌ、貴族の嗜みだ! 頭撫でられだ!」


カインは苦笑いを浮かべながらラッタを人差し指で撫でる。


「じゃあ、なんでラッタはここに?」

「ふむう、つまりはだねぇえええ、何故か私たちの巣穴付近で食事がとれなくなったのだよ。それで、みんなが腹を空かせて弱っているから、王子様である私がみんなの為に、勇敢にも食べ物を探しに来たというわけだ」

「え……その、他のネズミたちは、今、大丈夫なの?」

「うにゃあ……いや、もうみんな動けないほどの空腹で、絶体絶命なのだぁあ~……」


カインはラッタの頭を撫でながらグレンと顔を見合わせる。


「「え? 急いで食べ物届けなくていいの!?」」

「……………は!!!!!!」


ラッタは今日一番大きく口と目を開いた。


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