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四部40話 親切おにいさんは背中を押されましたとさ

【遺物の工場】最上階でバリィは持っていた器を床に叩きつけた。


「カインのくせに生意気な……!」


苛立つバリィに一人の女が近づく。


「まあまあ、バリィ。そんなにカリカリしないで、バリィは余裕の笑みを浮かべてる方が素敵よ」


灰色髪のその女は溢れ出る色気を隠すこともなくさらけ出すような妖艶な姿でバリィにしな垂れかかる。

彼女は【遺物の工場】調査隊の護衛をヌルド王国から引き受けていた冒険者だった。

突如現れたバリィ達によって護衛も含めた調査隊は全滅状態に追い込まれた。

傲慢で全てを奪おうとするバリィ達に抵抗する中、たった一人バリィ側についた女がいた。

それが彼女、フリーダだった。


「強いものを愛する。それが私の信条でね」


そう言った彼女は、元はパーティーのリーダーと関係を持っていたのだが、それまでも転々と恋人を変え続けていた。

そんな魅力的な女性を元恋人の前で奪えることで、バリィの所有欲は満たされた。

また、彼女は頭も良く、様々な案を出し、バリィの力となった。

そして何より、彼女はバリィを立てることを決して忘れなかった。

そんな彼女にバリィは夢中になった。


(なんだこれは! まるではじめて恋人が出来たようなこの高揚感は!)


バリィは、ことあるごとに彼女を求めた。

そして、彼女もそれに応え続けた。


それは夜だけでなく、バリィの復讐でもそうだった。

フリーダはバリィの求めるものに応え続けた。




そんな信頼し愛しているフリーダの言葉でバリィは落ち着きを取り戻す。


「そうだな、フリーダ、すまない……おい、エーテキング、もう一度さっきのエーテに繋げ」


逆側に立っている、バリィの能力を〔模写〕させ、子エーテに写した親エーテをバリィはエーテキングと呼んでいた。


エーテキングはすっと頷き、目の前に広がる魔法の画に向かって手をかざす。

すると、画に写っているカイン達の声が聞こえる。

音をリンクさせたのだ。


「カイン、随分と偉くなったものだな。分かったよ、お望み通り……やってやる! やれ! 鉄人形エーテ共!」


画を通じてエーテ達が軋む音を鳴らしながら構えていくのが聞こえる。


『さ! せ! る! かぁああああ!』


耳を塞ぎたくなるような大声で画の中に飛び込んできてカインを隠したのは全裸のヌルド王だった。


「ちい! またお前か! ヌルド王! エーテの自爆を喰らったんじゃねえのか!」

『はっはっは! あの一撃は中々きいたぞ! そのお返しだけはせんとなあ!』


そういうとヌルド王は左腕を引き、腰を深く落とす。正面に向けて右の手の平の空間が歪む。


『異能【勇気】……喰らうがいい! 空抜カラヌキ!』


ヌルドが拳を振り抜き凝縮した風を殴り飛ばすと、風は空間を歪ませるほど圧縮された塊となり、真っすぐにエーテの集団に向かって飛んでいく。


「くそ! 回避だ! 回避!」


バリィの命令でエーテ達が左右に飛びのく。


一体の右足が巻き込まれ、そのまま身体をぐるぐると回転させ地面に落ちていく。

大地は抉れ、大きな溝が出来てしまっていた。


「化け物め……なんでこんな奴がカインの味方、に……」

「それより、バリィ! あの男が!」


画を見ると、カインがこちらに向かって駆け出してくる。


「どういうつもりだ!」


空抜の射線から外れたエーテの視点から見えたのは、カインの背中に向けて掌底をぶつけようとするヌルド王だった。


『行くぞ! カイン! 多少痛いが我慢しろ!』

『はい!』


ヌルド王の前の空気が歪む。

そして、そこに掌底が撃ち込まれる。


空掌カラテノヒラ! ふんわり!』


ふんわりとは程遠いどん! という強烈な音がカインの背中にぶつけられ、カインが加速しあっという間に視界から消える。

エーテに慌ててカインを捉えるように命じるとカインはヌルド王が抉った溝に沿ってまっすぐに進んでいく。

魔導具の影響か滑るように進んでいくカインの背中があっという間に小さくなった。


「……くそがぁああああ!」

「大丈夫よ、バリィ。それよりあの男、一人で来るつもりかしら」

「英雄になって思い上がったのか? それとももう戦える奴がいねえのか。そうだな、まあ、歓迎してやろう」


フリーダの言葉に冷静さを取り戻したバリィは思わず浮いた腰を下ろす。


「おい!」

「は、はい!」


バリィが声を掛けると、慌てて顔が半分火傷で爛れた少女が飛び出してくる。


「アレの準備は出来ているのか?」

「は、はい! 大丈夫です! たぶん!」

「多分じゃねえんだよ! 急げ! あいつがくる! パーティーの時間だ! 丁重におもてなししないとなあ」

「わ、わかりました! わかりましたから、首輪を締めないで……!」


バリィが指輪を嵌めた拳を下ろすと、むせながら少女は鍵盤を抱えながらどこかへ走り去っていく。


「まあいい、じゃあ、残った奴らでレイルの街を滅ぼすとしよ……!」

『これでワシの役目は終わりだ! 空回しカラマワシ!』


ヌルド王の声が聞こえたかと思うと、エーテの目を通した画が突然ぐるんと回り空が見える。


「なんだ!?」

「投げられた、みたいね……しかも、エーテ達全員」

「はあ!?」


フリーダの予想は当たっていた。

ヌルド王がエーテ達全員を大気の布で包み込み投げたのだ。

宙を舞うエーテ達はやがて地面へと叩きつけられる。

しかし、流石は鉄人形、損傷はほとんどなくすぐに立ち上がる。


「ヌルド王め、役割は終わりと言っていたな。やはりアイツは限界だったか、そうなれば、魔導騎士やあの女共も無事ではないだろう……となると」


画の中には鬼が居た。

広場で一人立つ赤鬼が。


「お前、一人か? 赤鬼」

『暫くは、な。遊んでくれよ、火遊びにいちゃんよ』


グレンが手の中から炎を浮かべ、同じ火属性のバリィを挑発する。


「は! 他が回復するまでの時間稼ぎか!? いいぜ、付き合ってやるよ。お前のその身体をより真っ赤にしてやる! お前の血でな!」


レイルの街、中央広場。

血涙の赤鬼、対、鉄人形達。


赤と黒の炎が舞い、戦いの火蓋が切って落とされた。


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